第244話 松永久秀の野望
上杉晴景は河内国高屋城にいた。
河内国守護であった畠山高政の居城であった城だ。
守護であった畠山家は紀伊国に逃げ出したため、将軍家の指示で上杉晴景を総大将とした河内平定軍が組織され、河内国を平定して将軍家で直接管理する直轄領へ変わった。
高屋城の広間には将軍家に従った河内国衆が集められていた。
敵対した国衆は所領を没収のうえ追放または大幅に減らさることとなった。
上杉晴景は集まった一同をゆっくりと見渡した。
「皆此度の働き大義であった。上様もことのほかお喜びである。一向一揆の切り崩しに力を貸してもらい、お陰で大きな被害も無く勝利することができた。改めて礼を言う」
上杉晴景の言葉を受け三好長慶が頭を下げた。
「我ら一同、上様、そして上杉晴景様のご指示を受け勝利できましたこと、誠にめでたき事。河内国衆は今まで以上に上様に忠節を尽くすとの事」
「上様に代わり礼を言う。今後とも忠節に励んでもらいたい」
上杉晴景は、しばらく間を置いて一同に話し始める。
「それと、一つ申し付けておくことがある。当面の間、河内国内での本願寺派の布教及び寺院は認めない。違反したものは、重い処分を課すことになる」
驚く一同。
「それはまたなぜでございます」
「長慶。畿内や周辺での戦の歴史を考えればわかるであろう。武家同士ならある程度のところでお互いにこれ以上戦ってはいけない部分が分かる。だが、宗門宗派が加わると凄惨な戦いとなり戦いを止めることができなくなる。特に一向一揆との戦いは凄惨を極める。そのような戦いをしないためには必要なことだ」
「当面の間と言われましたが」
「そこは本願寺しだいだ。本願寺が今後一揆には一切関わらぬ事を確約するならという条件ではあるがな・・・」
「なるほど、承知いたしました」
そこに宇佐美定満が急いでやってきた。
「定満。どうした」
「はっ、大和国の丹下盛知殿より火急の使者がお見えです」
「ここに呼べ」
しばらくすると1人の若者が入ってきた。
「丹下殿のご使者。何が起きた」
「大和国今井郷で一向一揆勢が蜂起。さらにそこに伊勢長島より多数の一向一揆勢が加わり総勢3万を超える大軍となり、苦戦を強いられております。このままでは、一揆勢に押し切られてしまいます。何卒お力添えいただきたいとの主人からの言葉でございます」
使者は預かってきた書状を渡す。
書状の中身を素早く確認していく上杉晴景。
一向一揆中心となっている今井郷は、かなり手強い相手。
織田信長が半生をかけても落とすことができなかった所。
攻め落とせないためやむなく織田信長は和睦するしかなかった。
そんな信長から自治都市としての権利を勝ち取ったほどの相手が大和国今井郷の一向一揆。
海の堺に対して陸の今井。
上杉晴景はしばらく考え込んだ。
相当に手強い相手であり、並の武将では難しい相手。
「ならば、我ら上杉勢で大和国に・・・」
そこに1人の男が進み出る。
「晴景様」
「松永殿、どうした」
「大和国の件、この松永久秀にお任せください」
「なかなか厳しい相手だぞ。そこに興福寺や我らに従わぬ国衆もいる」
「必ずやお役立って見せます。それゆえ大和国はこの松永にお任せください」
「ハハハハ・・・一国を切り取って治めて見せると言うか」
「必ずや」
「大きく出たな・・・いいだろう。上様にはこの晴景から話しておこう。1万5千の軍勢を貸そう。松永久秀の力を存分に示して大和国を治めて見せろ」
「承知いたしました」
「宇佐美定満。1万を率いて松永に手を貸してやれ」
「承知」
「長慶殿。三好から5千ほど出してくれ」
「承知」
「松永殿の手勢3千。合わせて1万8千。大和国衆を加えれば十分対抗できるだろう」
「ありがとうございます。必ずやご期待にそえるようにいたします」
松永久秀は、高屋城内で嫡男久通と自らの重臣たちのいる部屋にやってきた。
部屋に入ってきた久秀の気合の入った表情に一同が驚いていた。
「父上、どうされたのです」
「大和国攻めが決まった」
「大和国ですか」
「一向一揆の蜂起により大和国衆からの支援要請がきたからだ」
「我らの役目は」
「儂が総大将となる」
「えっ・・父上がですか」
「晴景様に大和攻めを願い出て許された。上杉から1万。三好から5千。我ら3千。合わせて1万8千になる」
「なんと」
「さらに大和国を平定すれば、大和国を任せてもらえることになる」
「本当ですか」
「二度とない機会だ。ここを逃せば這い上がる機会は訪れないかもしれん」
「ならば、何がなんでも、やり遂げましょう」
「打てる手は、全て使うつもりで取り掛かるぞ」
「承知しました」
松永久秀とその家臣たちは大和国攻略に向けて策を練り始めた。
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