第241話 河内国への道(2)
「クソ・・・忌々しい。やっと邪魔な守護,守護代共に追い落とすことができたと言うのに」
安見宗房の怒りの言葉が飯盛城内に響き渡る。
「安見殿。落ち着きなされ」
声の方に顔を向けると1人の男がいた。
「丹下殿。いつここに」
「つい先ほどだ」
大和国宇智郡を本拠地とする国衆の
安見宗房と同年齢と思える浅黒い肌をした男だ。
「これは心強い」
「筒井順政殿にも声をかけてある。まもなく到着されるだろう」
安見宗房が守護代を暗殺した
安見宗房は宴に萱津賢継を呼び出し暗殺。
丹下盛知は,傀儡として畠山高政を守護に据えていた。
「高政の奴も,傀儡なら傀儡らしく静かにして居ればいいものを,我らに敵対した挙句に河内国を捨て紀伊国に逃げ出すとは,呆れた奴よ」
「丹下殿。高政が逃げ出したことを幕府が好機と見て軍勢を送り込んできたぞ」
「飾り物であった将軍が領地を得て力を持ち始めた。手に入れた力を振り回したいのだろう。ところで三好長慶殿に会われたのか」
「三好長慶殿には会えたが,此度は我らの敵になる」
「チッ・・・噂の通り,上杉晴景に取り込まれたと言うことか」
「ああ・・あの話しぶりでは,我らに力を貸すことは無い」
「そうなると我らには不利な戦となるぞ」
「ひとつ手がある」
「安見殿。それはどのような・・・」
「本願寺と興福寺を巻き込む」
「・・・・・本気か」
安見宗房の言葉に一瞬言葉を失う。
「このままなら我らは,個別に撃破され破れる。三好勢も我らには手を貸さん。ならばこれしかあるまい」
「待て,昔を忘れたのか!一向一揆が動き出したら奴らは止まらんぞ。蝗害と同じだ。昔一向一揆が発生した時,奴らが春日大社の鹿を一頭残らず喰らい尽くしたこを儂は忘れてはいないぞ。奴らは一度暴れ始めたら止まらない。一度動けば本願寺の指示でさえ簡単には聞かなくなる。本願寺を使うことだけはやめろ。危険すぎる」
「もう遅い・・既に,動き出している」
「何だと・・・・・」
「既に,動き出している。本願寺の指示で一向一揆は幕府軍の背後を狙い襲い掛かる手はずだ」
丹下盛知は思わず両手で安見宗房の襟元を掴む。
「馬鹿野郎。河内国を・・大和国を・・畿内を更地にするつもりか。勝てない戦なら,我らが白旗をあげれば良いだけの話に,関係ないものを巻き込むな」
「ハハハハ・・・もう遅い。遅いのだ。そもそも我らを認めぬ奴らが悪いのだ。河内国の支配者はこの儂だ。クククク・・・毒を食らわば皿までと言うではないか。上杉晴景も,三好長慶も,儂を認めぬならその首をとってやる」
「正気か」
「クククク・・・正気に決まっている」
丹下盛知は掴んでいた襟元から手を離す。
「付き合いきれん」
そう言って丹下盛知は部屋から出て行こうとする。
「丹下殿。何処に行かれる」
「悪いがお主に関わっている訳には行かない。一向一揆が動くなら,奴らから領地を守らねばならん。大和国の国衆で協力せねば一向一揆に対抗出来ん。あとは好きにやってくれ」
丹下盛知は飯盛城から出て行った。
上杉晴景のいる本陣では,慌ただしく河内国周辺の情報を集めていた。
次々に入ってくる報告に目を通していく晴景。
「何・・・本願寺に動きがあるだと」
目の前には黒い布で顔を覆った軒猿衆がいた。
「盛んに周辺の末寺に伝令のために人を送っています。末寺も盛んに人を集め始めています」
「幕府軍を襲うつもりか・・・」
晴景が考え込んでいるところに家臣からの声がかかる。
「晴景様,大和国国衆の丹下盛知殿がお見えです。目通りを願っています」
「丹下?いいだろう,ここへ」
しばらくすると丹下盛知が入ってきた。
「上杉晴景である」
「大和国宇智郡の丹下盛知と申します。目通りが叶いありがとうございます」
「丹下殿。どのようなことで」
「安見宗房は,本願寺に援軍を求めて一向一揆を幕府軍に当てようとしております」
「それを何処で」
「安見殿から直接聞き,驚きと同時にその危険性を感じ急ぎ上杉晴景様の下に参りました」
「安見殿から直接聞いたのか」
「はい,間違いございません」
「よく知らせてくれた。礼を言う」
「勿体ないお言葉。これより,一揆勢に備えるため領地に戻ります」
「承知した。気をつけて戻られよ」
丹下盛知が出ていくとすぐに宇佐美定満を呼ぶ。
「定満。各諸将と後詰めとなる六角殿に一向一揆に動きあり,警戒せよとの伝令を出せ」
「承知いたしました」
上杉晴景は,京にいる上杉勢2万のうち,5千を京周辺への警戒で残していたが,どうしても手薄となってしまうため,手薄となる京の警備と軍勢の後詰めを六角が担っていた。
「景家」
「はっ,お呼びでございますか」
晴景の呼び声に柿崎景家が急ぎやってくる。
「景家。配下の者達に警戒を厳重にせよとの指示を出せ。それと,現在の美濃には甘粕景持が入っていたな。甘粕景持にいつでも動けるように準備していろと伝令を出せ」
「はっ,承知しました」
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