第242話 河内国への道(3)
河内国某寺院
河内国の本願寺系列の寺院に一揆を組織して、幕府軍を討てとの指示が出ていた。
その指示を受け、各寺の僧侶達はすぐさま一向一揆を集めるべく信徒たちを集め始めていた。
指示を受けて、既に多くの者達が各寺に集まってきている。
甲冑を身につけている者。
錆びた槍だけを持っている者。
太刀だけを持っている者。
年老いた者。
若い者。
姿も年齢も皆バラバラであり、手にしている武器もさまざまであり統一性はなかった。
次々に集まってくる者達は、寺院の前にたむろして噂話をしながら情報交換をしていた。
「御坊様は俺らに何をやらせようと考えてんだろう・・・」
「将軍様の軍勢と戦わせるようだ・・・」
「本当かよ・・・うちは赤ん坊が産まればかりなんだが・・・」
「うちは、子沢山で戦をやっている場合じゃ・・・・・」
「困ったな。うちは女房の具合が良くないからな・・・」
「丹後国や山城国・摂津国じゃ、将軍様の直轄領になったら年貢が下がったそうだぞ・・・」
「本当か・・・」
「将軍様は慈悲深い方らしい・・・」
「将軍様の片腕の上杉様は、敵には情け容赦の無い鬼のような方らしいぞ・・・」
「それは聞いた。領民や家臣にはとても慈悲深いが敵には容赦無いそうだ」
「何でも、戦になると常に返り血で全身が真っ赤に染まり、笑っていると聞いた・・・・」
「赤鬼の生まれ変わりじゃないかと言われていると聞いたぞ」
「俺も聞いたぞ、十尺もある太刀を振るって、次々に敵兵を真っ二つに切り裂くらしい・・・」
「俺は、常に倒した敵将の髑髏を盃にして酒を飲むと聞いたぞ・・・」
噂話に夢中になっている領民を少し離れたところから2人の僧侶が見ている。
心なしか渋い表情をしている。
「思っていたよりも集まりが悪い」
「困りましたな。ここもですか」
「他も集まりが悪いのですか」
「ここはまだ多い方です。少ないところは見込みの3割程度」
「それほどまでに少ないのですか」
腕を組み思案顔の2人の僧侶。
そんな僧侶と領民達を見張る者達がいた。上杉晴景が放った軒猿衆であった。
一向一揆の領民の中に複数紛れ込み、将軍様や上杉家は領民に慈悲深く、敵には容赦しないとの噂を流していた。
さらに警戒の無い寺の裏手に、複数の軒猿衆が何かを大量に寺の床下に運び込んでいる。
指示役と思われる男に1人が走り寄る。
「伊賀崎様。火薬の搬入と導火線の用意が終わりました」
「ご苦労。直ちに導火線に火を放て」
軒猿衆は伊賀崎の指示を受け、すぐに導火線に火を放ち、寺院から速やかに退却していく。
放たれた導火線の火は、やがて寺院の床下へと飲み込まれて行った。
そして、雷が落ちたかのような轟音を響かせて寺院が爆発した。
爆発に驚き腰を抜かす者、慌てて逃げ出す者、一心に念仏を唱える者。
「御仏がお怒りだ」
「戦を起こす我らに御仏がお怒りだ」
「御仏の名を使って狼藉を働く我らに御仏がお怒りじゃ」
領民に紛れた軒猿衆が御仏の怒りだと口々に叫び逃げ出していく領民を演じている。
火薬による爆発そのものを知らない領民達は、火薬による爆発の現象そのものが、御仏の怒りであるとの言葉を容易く受け入れて次々に逃げ出していく。
逃げ出す者を止める者達は、もはや誰もいなかった。
激しい銃撃音が響き渡る。
一向一揆勢がどうにか無理矢理かき集めた2万の軍勢に対して、上杉勢から激しい銃撃が浴びせかけられている。
一揆勢が集まっているところに上杉勢からの鉄砲による先制攻撃が始まっていた。
これから幕府の河内国平定軍に攻撃をかけるため、移動しようとしていたときに上杉勢からの攻撃であった。
完全に油断しており一方的に鉄砲を撃ち込まれ、一揆勢の陣営内は大混乱状態となっている。
僧侶が一揆勢の者達に、死んで御仏の下に行けると鼓舞しているが、上杉の陣営に近づくことができずに次々に倒れていく。
鉄砲の激しい攻撃で近づけないため、一揆勢は竹束を持ち出してくる。
一揆勢が竹束を持ち出してくる姿を見た柿崎景家。
「無駄なことを」
一揆勢が竹束を抱えて上杉陣営に向かって突撃してくる。
だが、上杉陣営の鉄砲は次々に竹束を貫通していく。
上杉勢は、竹束対策で口径の大きな鉄砲を使用していた。
竹束を抱えたまま倒れる一向一揆勢。
「大砲を用意」
柿崎景家の指示で大砲の用意が始まる。
「大砲用意できました」
配下の報告にうなずく柿崎景家。
「大砲、撃て!」
10門の大砲が次々に火を吹く。
大砲の弾が一向一揆の陣営に次々に着弾。
一向一揆の陣営内で次々に立ち上がる土煙。
上杉勢は、鉄砲での射撃を繰り返しながら徐々に前進している。
やがて一向一揆は1人逃げ出すと、それを見た者が同じように逃げ出す。
そして、逃げ出すことが連鎖反応的に起こり、および腰で様子見をしていた者達が一斉に我先に逃げ出し、一向一揆は完全に崩壊した。
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