第239話 将軍足利義輝

上様が名を義藤から義輝へと改めることになった。本来の歴史よりも1年遅れである。

尾張国での仲裁を行い,将軍職の権威がまだ通じることを感じ,さらに将軍家の権威を高めることを目指す意味合いもあり改名となったようだ。

ようやく将軍足利義輝の誕生となった。

上杉晴景は,そんな将軍足利義輝様から相談があると言うことで室町御所に呼ばれていた。

将軍足利義輝の待つ部屋へと通される。

「お呼びとのことで参上いたしました」

「入ってくれ」

簡素な部屋の中には義輝様ひとりだけ。

「急な呼び出し,何事でしょう」

「河内国での暗闘が続いているのは聞いているか」

「数年前に河内守護代遊佐長教殿が暗殺され,河内国上郡代と河内国下郡代が対立している件ですか・・・それならば畠山高政殿が畠山家を継承して全て収まったのではありませんか」

「その裏では,暗闘に次ぐ暗闘で,もはや収拾がつかんのだ。畠山の今の当主である畠山高政と下郡代安見宗房の間で対立が表面化して,畠山高政は高屋城を捨て紀伊に逃げ出した」

「守護大名である畠山高政殿が逃げ出したのですか」

守護大名である者が逃げ出したことが信じられない晴景。

「そうだ」

「もしや,安見宗房を討って畠山高政を河内に戻すおつもりですか」

「そのようにしたいが,流石に無理か・・・」

「そのような状態ならば,単に安見宗房を討って終わりにはなりません。安見宗房を討ったとしても河内国を捨てて逃げ出した今の畠山家では,河内国を治めることは不可能でしょう。国衆の信頼を完全に失っています」

「ならどうする」

「領地を捨てて逃げたのですから,畠山家は守護失格として河内国は将軍家の直接支配地。つまり直轄領としてしまいましょう。安見宗房とそこに組みするものは,残らず処罰するべきでしょう」

「それでは畠山の反発が大きいのではないか」

「河内守護でありながら,河内国から逃げ出したのです。文句を言う資格はありません」

「ならば別のものを守護に任じれば良いのではないか・・」

足利義輝は眉間に皺を寄せ苦渋の表情をしている。

「上様が乱世を終わらせたいと思うなら,大権を振るう覚悟を持つべきです。そのためにこの晴景と上杉家2万の軍勢は京にいるのです。上様にその覚悟が無いなら我らは越後に帰ります」

「儂の覚悟が足らんと言うことか・・・」

「天下安寧を望むなら覚悟を決めねばなりません。この日本を平定しなおすほどの強い覚悟が必要です」

「平定しなおす・・・そこまでの覚悟がいるのか」

「天下安寧は,戦って掴み取るしかないのです。念仏のようにひたすら天下安寧と唱えていても,何も変わりません。天下安寧を唱えているだけでは駄目なのです。乱世の世を終わらせるには,自らの力で多くの屍の上を進む強い覚悟が必要」

晴景は将軍足利義輝の目を真っ直ぐに見つめる。

「ならば,上杉は・・・晴景はどこまで儂に力を貸してくれる」

「上様がその強い覚悟を持つなら,我らは地獄の底までお供しましょう」

晴景の言葉に,何か吹っ切れたような表情をする足利義輝。

「そうか・・すまなかった・・・・・分かった。ならば,将軍足利義輝として上杉晴景に命ずる。河内国を平定せよ。我が命に従わぬ者は討ち取ることを許す」

「承知いたしました」

「三好の者達も使え,丹波と山城からも兵を出そう。好きに使え」

「それでは直ちに!」



京の上杉家二条城

上杉晴景のもとに軍勢が集結してきた。

将軍家直轄領である丹波,山城国からそれぞれ1万。

上杉勢1万5千。

三好勢2万。

上杉晴景の下に三好長慶がやってきた。

「河内平定の軍勢,全て揃いました」

「分かった」

上杉晴景は,三好長慶と共に二条城の広間へと移動していく。

鶯張りの床をゆっくりと進む。

広間には既に軍勢の諸将が待っていた。

上杉晴景はゆっくりと上座中央に座る。

居並ぶ諸将を見渡し,懐より将軍足利義輝の御内書を取り出し両手で掲げて見せた。

「将軍足利義輝様からの御内書である」

気迫に満ちたよく通る声で話し始める。

「皆の者大義である。此度の戦は将軍足利義輝様より御下命である。我らは騒乱の果てに守護不在となった河内国を平定する。守護でありながら河内国を放棄した畠山家は守護失格である。また,その原因を作った者も同罪である。当分の間,河内国に守護は置かずに将軍家直接統治とする。これに異論あるものは全て討ち取るまで。この場で異論のあるものはすぐに立ち去れ,再び会うときは将軍家御敵としての戦場である」

上杉晴景の気迫に諸将は口を開けずにいた。

三好長慶が前に進み出る。

「我ら一同,将軍足利義輝様の御下命に従います。総大将たる上杉晴景様の下で必ずやご期待に添えるよう働きまする」

「他の者達はどうだ」

「依存ございません」

居並ぶ諸将も揃って御下命に従うとこを同意した。

「大和国の国衆達と,安見宗房と裏で繋がっているとの噂もある。油断は禁物である」

居並ぶ諸将は緊張した面持ちに変わる。

「これより出陣する」

諸将は鬨の声を上げ軍勢は二条城から河内国へと向かった。

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