第238話 淡路水軍

弘治2年2月

薄らと雪化粧となった京の街並み。

上杉家の二条城も雪化粧で白く染まっている。

二条城の屋根に薄らと雪が積もり,庭の木々の枝にも雪が積もっている。

上杉晴景は,越後で生産している豆炭を大量に持ち込んできた。

豆炭を使い部屋は暖かくなっている。

雪で白く染まった京の上杉家二条城に三好長慶が1人の人物を連れてきた。

「晴景様」

「どうした」

「淡路水軍を率いている者を連れて参りました」

晴景は,将軍足利義藤から和泉灘(大阪湾)の安定のために淡路島を任せると言われていた。

その淡路島は淡路水軍の本拠地。

つまり淡路水軍を任せるから海の安全にも気を配れと言うことだ。

二条城と同じで飛地のような形での上杉領となる。

さらにその裏にある上様の考えは,三好の分断にある。

上様としてはまだ三好を信用できないと見ている。

そこで,三好の中心のひとつである淡路水軍を,上杉家に組み込んで上杉家の家臣としておくことで,もしもの時の三好の動きを抑える,もしくは牽制できるのではないかと考えたと言うことだ。

思いがけない話だが,上様や周囲が考えている以上の利益を上杉家に与えることになる。

現在,丹後から蝦夷に至る海路は上杉と安東で牛耳っている。

淡路水軍が上杉の麾下となれば,摂津から蝦夷への海路を手にすることになる。

事実上,北への海路を上杉家の支配下に置くことになる。

淡路水軍は,熊野水軍の流れを汲む安宅あたぎ氏が淡路水軍を率いていた。

その安宅氏に三好長慶の弟が養子として入っていて,現在淡路水軍を率いている。

三好長慶の父である元長の指示で安宅氏に養子として入れたと聞いている。

「晴景様,後ろに控えているのが淡路水軍を率いる我が実弟である安宅冬康あたぎふゆやすにございます」

三好長慶の後ろに温和な感じのする男が控えていた。

「安宅冬康と申します」

温和でかなり人望のある男と聞いている。

「上杉晴景である。淡路水軍は今後儂の麾下として働いてもらうことになる」

「はっ,承知しております。忠節を尽くします」

「今後のことを話しておこう」

安宅冬康は静かに頷く。

「我が上杉家の麾下にいる水軍,そして同盟している大名の水軍を含めた活動範囲は広大だ。丹後から蝦夷に至る海路。そこに,淡路水軍が加わることで摂津から蝦夷までの海路が繋がることになる。つまり北への海路は我らが抑えることになる。このほかに越後直江津から大陸への交易路も持っている」

「そこまで広大な海域で動いているのですか・・その中での我らの果たすべき役割とは」

「今までと大して変わらん。和泉灘の安定を第一とする。そしてもうひとつ重要な役割がある」

「その役割とは」

「荷止めをしてもらうためだ」

「荷止め?」

「そうだ。そのうち本願寺が畿内で一揆を起こすと見ている」

「それはあり得ることですな」

「本願寺が蜂起した時,当然多くの食料や武器が必要になる。陸路は,本願寺を包囲すれば抑えられる」

「なるほど,分かりました。本願寺ならば水路を使い物資の搬入ができます。その水路による搬入をさせないことですな」

「その通りだ。本願寺は現在の畿内での最大の不安要因である以上,本願寺の力を削ぎながら将来に備える必要がる。それゆえもしもの時の淡路水軍への期待は大きい。本願寺も水路を抑えられたら瀬戸内の水軍を雇い物資の搬入を依頼するであろう。当然,そのようなことになれば,上杉家麾下の他の水軍が援軍に来ることになる」

「確かにもしもの時,本願寺が雇うもしくは依頼するなら毛利に従う瀬戸内の村上水軍でしょうな。フフフ・・村上水軍が相手ならば,相手にとって不足なし。承知いたしました。全て我ら淡路水軍にお任せください。ならば,さっそく調べる必要があります」

「調べるとは,何を調べるのだ」

「本願寺への水路でございます。どの川が本願寺周辺に繋がるのか,川幅や深さはどの程度あるのかを定期的に調べておく必要がございます」

「なるほど,日頃からの備えが重要と言うことか」

「その辺りのことは,全て我ら淡路水軍がやりますのでご安心を」

「では頼むぞ」

「承知いたしました」

この時より淡路水軍は上杉家に加わることとなる。

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