第228話 加賀一向一揆の終焉‘’弐‘’
加賀国超勝寺
元々超勝寺は越前にあった。
朝倉宗滴率いる朝倉勢と30万の一向一揆が衝突した九頭竜川の戦いで寺を焼かれた。
そのため、先代の実照は寺ごと加賀に逃げていた。
寺を山頂に作り城壁をめぐらし、正面には堀を作り、正面以外は全て崖となっている。もはや寺というより難攻不落の山城である。
本願寺からの支援も受けており、本願寺の加賀支配の拠点の一つでもあった。
だが、元々加賀国の寺ではないため、周辺の寺の中には快く思っていないところが幾つもある。
そのため、昔は大小一揆と呼ばれた内部抗争を起こして、一向一揆同士で激しく戦っていた。
寺を預かるのは先代の子である顕祐。
顕祐はまだ若く、叔父である勝祐が支えていた。
本堂には叔父である勝祐もいた。
多くの一向一揆の戦いに加わり至る所に古傷があった。
「叔父上、どうやら金沢御坊は上杉の手に落ちたようですな」
「金沢御坊には、本願寺から鎮永如様の指示で七里頼周殿と下間頼照殿が送り込まれたようだが、無駄であったようだ」
加賀支配の新たな中心でもあった金沢御坊落城は、加賀一向一揆の敗北でありにもかかわらず、2人は気落ちすることもなく淡々としていた。
「2人がどんなに期待された者たちでも、手足となる人がいなければ満足な戦いはできません。さらに相手は戦巧者であり、軍神と呼ばれる上杉景虎殿が相手。ですが、お二人は上手く逃げ出せたようです。こちらには来て欲しくないですな」
「滅多なことを言うな。誰が聞いているかわからんぞ」
勝祐は慌てて声をかける。
「叔父上。ここは我らしかおりません。いま超勝寺にいる者達は越前から付いてきた者達。皆心は同じ」
「我らの動きは、七里、下間の2人には知られぬようにせねばならんぞ」
「心配無用にございます。京におられる上杉晴景様を通じて朝倉宗滴様に、話を通していただいております」
朝倉宗滴と直接話を通すことをすれば、他の寺に気がつかれる恐れがあると判断して、顔の知られていないものを使い出入り商人を装って上杉晴景に書状を届けさせた。特に光教寺は加賀一向一揆側の対朝倉の交渉窓口であり、気をつける必要があると考えていた。
これ以降は上杉家が自らの忍びを使い、書状のやり取りをしながら交渉を続けている。
「それで」
「我ら超勝寺の越前復帰を認めるとのこと」
「おおお・・・ようやく我らの念願が叶い越前に帰れるのか」
「朝倉家もこの話を上杉晴景様が仲介しておりますから、約束を守るでしょう。これ以上、加賀一向一揆に手を貸さないことが条件ですが」
「そこは、のらりくらりと誤魔化しながらその日を待つしかあるまい」
「そう遠いわけではないでしょう。既に朝倉宗滴殿が軍勢を率いて加賀に入って来ております。あと数日でここまで来られます。来られたら開門して朝倉に降るだけ。それまでは城門を固く閉ざして開けるつもりはありません。戦いにも加わるつもりはありません」
「七里殿、下間殿がきたらどうする」
「城門は開けず。一切返答せずに無視しましょう。もっとも、あの2人には我らを構っている余裕と時間はないでしょう。北からは上杉景虎殿の軍勢が南下、越前からは朝倉宗滴殿が軍勢を率いて北上。特に上杉の軍勢は精鋭。金沢御坊はあっという間に落城と聞いております。もはや一向一揆側に勝ち目はありません」
「時の流れを感じる。ここまで一向一揆が弱体化するとは」
勝祐は昔を思い出すかのように呟いていた。
「誰もが人を殺さず、人を害せずに豊かに暮らして行ける道があるなら、その道を選ぶでしょう。そして、上杉領で農民達が豊かに笑顔を見せて暮らしている。それを知れば皆そこにいくでしょう。それはもはや止めようが無い」
「それは、確かにその通りだな」
加賀一向一揆に大きな影響力を示してきた超勝寺が、加賀一向一揆から抜けてさらに一向一揆が弱体化することが決まったのであった。
「超勝寺はどうした」
イラつく七里頼周は周囲の者に怒鳴り散らす。
七里頼周は何度も超勝寺に使者を送っていた。至急、一揆勢を率いてくるようにと。
「七里殿。少し落ち着きなされ」
「下間殿。何を悠長に構えているのだ。北からは上杉。南からは朝倉。一刻の猶予も無いこの状況で超勝寺が動かぬとはどうしたことだ。臆病風に吹かれたのか・・・」
「おそらく超勝寺は戦うつもりが無いのであろう」
「戦わぬと言うのか」
「使者を何度も送っているにも関わらず動かぬのだ。そう判断するしか無いだろう」
そこに1人の僧侶が駆け込んできた。
「一大事にございます。本泉寺、松岡寺が率いる一揆勢が上杉景虎率いる上杉勢と激突。上杉勢の使う大量の鉄砲の前になす術なく一揆勢は崩壊。一揆勢を打ち破った勢いのまま、上杉景虎率いる上杉勢2万がこちらに向かっております。急ぎお逃げください」
「馬鹿な・・早い、早すぎるぞ」
「七里殿。もはや我らに上杉に抗う力は無い」
「しかし・・・」
「このままでは全滅。ここは一度引こう」
「クッ・・・」
「七里殿!」
下間頼照は強い物言いを七里頼周にする。
「・・・分かった。下間殿。畿内への退去の手配を頼む」
「承知した」
加賀一向一揆の終焉の時となり、加賀北部は上杉家。加賀南部は朝倉家が支配することとなった。
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