第227話 加賀一向一揆の終焉‘’壱‘’

上杉晴景と能登畠山家畠山義綱の軍勢は、加賀一向一揆の砦を攻め落として金沢御坊へ攻めかからんとしていた。

金沢御坊には、加賀南側から5千が送り込まれてきている。

砦から逃げ込んできたもの達を含めると8千〜9千ほどがいるようだ。

当然、先鋒は温井総貞ぬくいふささだの軍勢。

その背後では、上杉家の軍勢が温井勢に大量の鉄砲を向けている。

畠山義綱と上杉景虎を裏切ろうとしていた事はバレているため、逃げようとすればすぐに鉄砲で撃たれることになる。

砦攻めでは、温井勢は大きな損害を出していた。

1割ほどが討たれ、半数以上が何らかの手傷を負っていた。

しかし、もはや戦から降りる事はできなくなっている。

温井総貞が生き残るには、金沢御坊を攻め落とすしか無くなっていた。

「行け〜!引くな、行け〜」

温井総貞は家臣達に檄を飛ばす。

金沢御坊で激しい攻防が始まっている。

温井側は大手門をぶち破らんとして破城槌で大手門を破壊しようとしている。

一揆側は大手門を破られないように必死の防戦をしている。

しかし、必死の形相で破城槌を使う温井勢が大手門を打ち破った。

破壊した大手門から温井勢が金沢御坊に入っていく。

中では激しい戦いが繰り広げられているが、やがて、金沢御坊から火の手が上がる。

「こんなところで終わってたまるか・・・生き残って能登を加賀・越中を手に入れてやる」

温井総貞は譫言のように呟きながら槍を振り回し家臣達を引き連れ金沢御坊の中で戦い続けている。

「クソッ・・儂を馬鹿にしおって、必ず上杉も畠山も儂の前に跪かせてや・・・・グッ・・・」

そんな温井総貞に背後から一向一揆の槍が突き刺さった。

「馬鹿な・こんな・・・こんなところで・・・儂は・・」

よろけながらも倒れまいとするが、血を吐きながら温井総貞はそのまま力尽きて倒れ落ちた。

温井勢が金沢御坊に放った火の手は、燃え広がることなく燻り続けている程度であった。



金沢御坊の様子を見ている上杉景虎。

燃え上がった火の手はこれ以上広がることはなかった。

大手門前では、侵入を防ぐために一向一揆の軍勢が急遽簡易的な馬防柵を作り始めている。

「どうやら温井達はこれまでのようだな」

上杉景虎は金沢御坊を見つめながら呟いた。

「景持」

甘粕景持を呼び寄せる。

「はっ」

「大砲の使用を許可する。金沢御坊に打ち込め。大手門周辺を徹底的に破壊して軍勢の侵入を邪魔できないようにせよ。大手門周辺を破壊したら、三の丸、二の丸に打ち込め」

「承知いたしました」

甘粕景持はすぐさま大砲による砲撃準備を始めさせる。

上杉の軍勢後方に置かれていた大砲が上杉の軍勢の前に出てくる。

20門の大砲が並べられ、やがて火薬と砲弾の準備が終わる。

「大手門を狙う。間違えて手前の橋を落とすな」

甘粕景持は大砲を扱う者たちに注意を与える。

大砲を扱う者達は、風の強さと風向き、そしてどの程度の火薬を使えばどこまで届くか知り抜いている者達。

甘粕景持もそのことはよく知っているが、手前の堀にかかる橋を落とすと簡易的な橋をかける手間がかかるため、念のために注意を与えている。

「撃て〜」

甘粕景持の号令とともに大砲が轟音を戦場に響かせ始める。

次々に火を吹く大砲から放たれた砲弾が大手門を破壊。

周辺の塀を破壊。

次々に着弾して大手門周辺の姿を瓦礫の山へと変えていく。

着弾と同時に立ち上る土煙。

初めて体験する大砲による攻撃に右往左往する加賀一向一揆の軍勢。

一揆勢が隠れる場所も無いほどに大手門周辺を破壊すると、三の丸へと砲撃の標的を変える。

その間に上杉の軍勢は大手門に殺到。

わずかな抵抗もことごとく排除して大手門を制圧する。

上杉の大砲による激しい砲撃で、三の丸が瓦礫の山へと姿を変えようとしていた。



金沢御坊本丸では、七里頼周と下間頼照が驚愕の表情で戦況を見ていた。

「なんだ、これは」

七里頼周は、大砲の砲撃による攻撃を呆然と見ていた。

初めて体験する攻撃であった。

1発の砲撃で壁に大穴が開き、門が破壊され、屋根に大穴が開き、人が吹き飛ぶ。

次々と城内に着弾して、周囲を破壊していく様子に少なからず恐怖を覚えていた。

「七里殿」

呆然とする七里頼周に下間頼照が声をかける。

「七里殿。もはやこれ以上は無理だ。ここを捨てて退去するしかない」

「しかし、このままむざむざ・・・・」

「どうやってあの攻撃を防ぐのだ。防ぐ手立てがない。鉄砲なら竹束で多少は防げる。だが、門を1撃で破壊、壁や屋根に1撃で大穴を開けるあの攻撃を防ぐ術がない」

「しかし・・・なんと言ってお詫びすればいいのだ・・・」

「あれほどの攻撃。相当な火薬を使うはず。普通ならすぐに火薬が尽きるはずだが、上杉側はどれほど火薬を使っても平気なようだ。そんな相手に皆の命を散らせる訳にはいかん」

七里頼周は天を仰ぎ思わず大きなため息をつく。

「仕方あるまい。これ以上は無理か。すぐに退去するしかないか・・・」

金沢御坊の一向一揆は、籠城を諦め加賀国南部に脱出して行った。

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