第222話 天下安寧への道

室町御所の奥の一室。

将軍足利義藤と上杉晴景は、今後の動きについて相談をしていた。

「ようやく、幕府が順調に動き出してきた」

将軍直轄領を得て、源氏長者、右大臣となり順調に動き出して満足そうな将軍足利義藤。

「上様、ここで気を抜くことは禁物。全ては始まったばかり」

「分かっている。今後はどうするのだ」

「全国の大名達の争いで仲裁可能なものは、積極的に上様の名で仲裁なされませ」

「戦の仲裁か」

「はい、戦を仲裁されることで将軍の権威を高めることにもつながります」

「分かった。可能なものはできるだけ仲裁しよう」

「それと、寺社に力を与えない様になされませ」

「寺社の力を奪えと」

「今ある権利を奪うとなると相当な覚悟が必要です。それよりも、これ以上力を増やし与えることを止めることが重要」

「具体的にどうするのだ」

「まずはこれ以上、門跡もんせきを増やさぬ様にする」

門跡とは、皇族や身分の高い公家が住職を務める寺を指す。寺格の高い寺として、朝廷から特別な待遇と特権を与えられることになる。

「う〜ん。それは本願寺のことか、今ある寺社で盛んに門跡にしてもらえるように動いているのが本願寺だ」

「今の本願寺は各地で盛んに一揆を先導しております。さらに、莫大な銭を全国から集め、多くの僧兵を集め、武器を蓄え、その姿は寺社では無く大名そのもの。本願寺が今まで一揆を先導したこともなく、武装もしていないならば門跡を認めるのも良いでしょう。しかし、各地で一揆を先導して乱世を招く一因となっております。畿内にある本願寺の末寺は兵と武器を持っています」

「それは、そうだが・・・」

「さらに、本願寺と皇族・高位の公家との婚姻はさせないようにすべきです。それも大きな力となり幕府の力を削ぐ一因となり、幕府を弱める原因でもあります」

「それは、分かるが・・・」

「加賀国をご覧ください。足利将軍家が加賀国を本願寺に任せたのですか。違うでしょう。いまの加賀国は本願寺が占拠しており、それを幕府は認めていないはず。元々は加賀守護である富樫一族の失態が原因ですが、本願寺は幕府が認めた守護ではありません」

「・・・・・」

「やらねばなりません」

上杉晴景は、将軍足利義藤の目を見て強い決意を促す。

「向こうはしつこく言ってくるぞ」

「ならば、今後一揆を扇動することを禁止。本願寺の僧が一揆に加わるもしくは先導したら門跡を永久に剥奪とする事を条件にする」

「一揆の禁止と門跡の剥奪・・・」

「さらに、加賀国から完全に手を引かせる。そして寺の数の制限。武装解除」

「流石に厳しいのではないか」

「まだ、門跡になっていませんから、今のうちに条件を高くしておけばいいのです。実際に各地で一揆を扇動して各地の大名と戦っていますから隠しようがないでしょう。朝廷によく相談されるべきです。各地で一揆を繰り返し扇動して、天下の安寧を損ねていることをしっかりと説明されれば、納得していただけるはず。本来、政は幕府の専権事項。本願寺が加賀国の占拠を続けることは、幕府の大権を侵しているのです」

「分かった。朝廷と話し合ってみよう」

「高位の公家などの婚姻も幕府で斡旋する様にして、幕府に協力的な大名などに婚姻話をつなぐ様にすれば幕府と大名の結びつきも強めることになります。それも幕府の力の一つにもなります。最終的には、全ての寺社の武装解除を目指す事を考えておかなければなりません」

「全ての寺社の武装解除か・・遠いな」

「将軍家が強力になることで成し遂げることができるはずです」

強い幕府の復活が悲願である足利義藤は、上杉晴景の意見を取り入れる事を決断した。



本願寺11世顕如はまだ11歳。

父である10世証如が死去したばかりで幼くして本願寺を継承していた。

だが、まだ幼いため祖母である鎮永如が後見人となっている。

そこに予期せぬ話が舞い込んできていた。

「朝倉と上杉が手を組み、加賀を攻めると言うのですか」

鎮永如の問いかけに下間頼照が答えた。

「はっきりとは分かりませぬが、金沢御坊にその話が舞い込んだようで、話の大本は上杉晴景に近い筋と聞いております。実際、朝倉宗滴と上杉晴景が二条城で会談しております。可能性は高いかと思われます」

「上杉ごとき、一揆を動かして叩けぬのか」

「上杉領にいるものは我らの呼びかけに応じませぬ。また、上杉家は巨大な相手。迂闊に攻めれば我らの損害も大きなものに、さらに朝廷の反発を招く恐れがございます」

「朝廷・・・?」

「門跡の件でございます。最近、朝廷は我らが各地で一揆を煽ってきたことを危険視し始めております。天下の安寧を損なう行為と言い始めております。さらに、将軍足利義藤様も我らに厳しい姿勢を見せてきております」

「朝廷と将軍ですか」

「将軍家は加賀国を本願寺に委ねた覚えは無いと言い出してきています」

「将軍家が何を言ったとしても加賀国を明け渡すことはできません」

「それは当然でございます。ただ・・・」

「どうしたのです」

「はっ、加賀の内部でかなり深刻な対立がいくつも起きていると報告が届いているようです」

「内部対立ですか」

「寺と領民、それぞれに幾つもの派閥のようなものができ、対立をしていると聞き及んでいます」

「・・・ならば、金沢御坊にテコ入れをする必要がりますね。頼照」

「はっ」

七里頼周しちりよりちかと共に金沢御坊に赴き、一揆の指揮をとり、上杉と朝倉を追い払いなさい」

「承知いたしました」

本来の歴史よりもかなり早く下間頼照と七里頼周は、加賀一向一揆を指揮するために金沢御坊へ赴くことになった。

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