第219話 婆娑羅者
「舐めた口を聞くんじゃねえぞ、爺い!」
5人の男達が京の通りで露天を開いている老人の小さな屋台を蹴り飛ばし、老人を殴り倒す。
男達は派手な柄の着物を着て、虎柄の袴を履いている。
男達は、婆娑羅者と呼ばれているもの達であり、彼らは派手な姿で徒党を組んで傍若無人な行いをする溢れ者達であった。
戦国末期になると歌舞伎踊りの流行から歌舞伎者と呼ばれることになる。
「爺ちゃん」
小さな女の子が倒れている老人に縋り付く。
「出すもん出せや」
「僅かな稼ぎしかない儂に出せる銭は・・・」
「うるせ!」
男のうちの一人が老人を足蹴にする。
「やめんか!」
通りかかった一人の年老いた僧侶が男たちに止めるように強い口調で声をかける。
「なんだ〜クソ坊主」
「貴様らは、弱いものを痛め付けて恥ずかしくないのか」
「京は俺たちの天下さ」
「天下だと」
「そう、俺たちは天下の上杉様の家来だ。俺たちに逆らえるのかよ。京の都は俺たちが守っているんだぜ」
「ほぉ、上杉か」
「どうだ。驚いたか」
「このような輩を使っているようでは、上杉家も大した事はないな」
「なんだと」
そこに、上杉晴景と三好長慶の一行が通りかかった。
上杉晴景が声を掛けた。
「御坊様、どうされました」
「この者達が上杉家の権威を傘に弱いものを痛ぶっておる」
「ほぉ〜上杉家ですか、偽物ではありませんか。上杉家は軍規がかなり厳しいと聞いておりますが」
男達がその言葉に声を荒げる。
「なんだと!俺たちが偽物だと言うのか」
「本物なら上杉家のどの武将の下についているのですか」
「上杉家随一の家来である柿崎景家様よ。驚いたか」
「ハハハハ・・・よりによって上杉家中で最も厳しい男である景家の配下とほざくか」
声を上げて笑う上杉晴景。
「てめえ、何がおかしい」
男達は刀に手をかける。
その瞬間、遠巻きに見ている人々の中から強烈な殺気がいくつも放たれる。
上杉晴景を陰から守る軒猿衆から放たれた殺気であった。
僧侶は、その殺気の強さと数に気がつき顔色が変わる。しかし、上杉家を語る婆娑羅者たちは気がつく事はなかった。
その時、三好長慶が前に進み出る。
「この場で抜けば、生きては帰れんぞ」
「なんだと」
「貴様らが景家殿の家来と言い張るなら、景家殿本人に聞けば早い」
「本人・・?」
「景家殿!こ奴らはお主の配下の者か」
三好長慶が一行の中にいる柿崎景家に声をかける。
そして、柿崎景家が前に出てきた。
「こんな奴らは、儂の配下にいない。見たこともない」
「エッ・・・誰だ・・」
「儂が柿崎景家である。貴様らのような輩は、家中で見たことがない。貴様ら誰だ。上杉の名を騙るなら容赦せぬぞ」
「そんな、馬鹿な・・柿崎景家・・本人なのか・・・?」
「この景家の顔も知らぬものが儂の配下の訳があるまい」
「柿崎景家殿本人がこう申しているぞ。さらに申しておけば儂は三好長慶。我が隣に居られるは上杉家当主であり右近衛中将であられる上杉晴景様である。さあ、もう一度先ほどの言葉を申してみよ」
婆娑羅者の男達の顔色が悪い。
「どうした。貴様らが何者か申してみよ」
固まったように動かず、顔からは大粒の汗が流れ落ちている。
柿崎景家が上杉晴景を守るように前に出る。
柿崎景家の動きに合わせて晴景の護衛達が前に出てくる。
「上杉の名を語るものは容赦せぬ。どうした、その手を掛けているものは竹光なのか、抜いてみたらどうだ」
「景家殿、口先だけで弱いものを痛ぶることしかできん輩は、命をかけることはできん。所詮見せかけだ。斬る価値もないだろう」
三好長慶が呆れたように呟く。
「クソッ・・舐めやがって」
その時、婆娑羅者の一人が柿崎景家に斬りかかった。
柿崎景家は斬りかかる刀を跳ね上げ、袈裟懸けに一太刀で斬り捨てる。
血を流し倒れる男。
「「「「ヒェェェェ・・・・・」」」」
他の婆娑羅者たちは腰を抜かしたようにへたり込む。
柿崎景家が残りの婆娑羅者たちに向かおうとした。
「景家。待て」
「ですが!」
上杉晴景が前に出てくる。
「今回は、これで見逃してやろう。二度目は無い。再び我ら上杉家の名を騙るなら貴様らの命はないと思え。失せよ」
「よろしいのですか」
「これ以上は必要無い。無駄に血を流す必要は無い」
「承知しました」
見ると婆娑羅者たちは這いずるように逃げて行った。
晴景は、倒れている老人のもとに歩み寄る。
「大丈夫か」
「ありがとうございます」
「随分派手に壊したものだ。全て儂が買い取ろう。いくらだ」
「上杉様にそこまでしてもらわなくとも」
「だが、生活に困るであろう」
晴景は500文を老人に渡した。
「こんなに」
「壊れた露店も含めるも少ないかも知れんが、これで許してくれ」
「許すも何も、上杉様は悪くありません。ありがとうございます」
老人と子供は何度も頭を下げて帰って行った。
「御坊様、ご迷惑をかけました」
上杉晴景は、僧侶に頭を下げた。
「頭をお上げください。拙僧は何もしておりません」
「御坊様が通りかかっていなければ、もっと酷いことになっていたかも知れません」
「噂通りのお方ですな」
「噂ですか」
「領民を大切にする領主であり、武に優れた領主と聞いております。そんな、上杉晴景様にお会いするために京の都にやってまいりました。我が名は、
越前国朝倉家を支える越前の猛将、朝倉宗滴であった。
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