第217話 桜の下の大茶会
天文23年(1554年)3月下旬
将軍足利義藤様が1月に正式に右大臣となった。
将軍足利義藤の源氏長者と右大臣就任を祝い上杉晴景の発案で大茶会が企画された。
そして、今まさに満開の桜が咲く下で大茶会が開かれようとしていた。
上杉晴景は、2月に北野天満宮と北野天満宮裏の平野神社に申し入れていた。
家臣達に命じて畿内中から桜を集めて北野天満宮と平野神社と神社周辺に桜の木を植えていった。
その数なんと700本。
豊臣秀吉が醍醐寺で行った花見と同じ規模の植樹である。
植えられた桜は、今まさに満開である。
見渡す限り桜・桜・桜である。
将軍様が北野天満宮で茶を立ててくれる。しかも、くじ引きではあるが、身分に関係なく振る舞ってくれる。
花見と茶会の同時開催だ。
北野天満宮境内では、まだ少し梅の花が残っている。
北野天満宮では桜と梅が見ることができる。
京の街では、大変な話題となっているようだ。
暗く辛い戦乱の世。娯楽に乏しい時代、人々の話題を集めていた。
「晴景様。よくもこれだけの桜を集められましたな。いや〜これほどとは・・・」
三好長慶は、花見と茶会を開くためだけにこれだけの桜を集めたことに驚いていた。
「畿内中から大きな桜を集めまくったからな」
「どれほど集めたのです」
「700本の桜を集めた」
「700本!」
700本という数を聞いてた三好長慶は、さらに驚くのであった。
「そうだ。700本だ」
「よく集める事ができましたな。銭も相当かかったのではありませぬか」
「どれほどかかったか、分からんな。だが、幕府の銭ではなく、上杉家の銭で行っている。とりあえず集めよと指示を出したら700本が集まった。祝いの景気付けに良いではないか」
事もなげに言う上杉晴景。
三好長慶は、これだけの桜を集めてみせる上杉晴景の力と財力を目の当たりにして、再び驚くのであった。
「景気付けですか・・・これは景気付けなどという生優しいものではないかと思いますぞ」
「長慶殿」
「はっ、何か」
「チマチマと少しばかりの桜の下で茶会をしても何も面白くない。誰も目新しさを感じないだろう。上様が源氏長者となり、右大臣となった。この時に誰もが驚くほどの大きな祝い事をすることで、人々の意識が変わるのだ。新しい時代が始まる予感に人々が感動するのだ」
「意識が変わり、新しい時代の予感ですか・・・ですがどの程度集まるのですか。噂では、花見では何か美味いものが配られると聞きましたが」
「黒砂糖を使った蒸饅頭とさつまいもを蒸したものを振る舞うつもりだ」
「黒・・黒砂糖ですと!」
「そうだ。黒砂糖を使った蒸饅頭だ」
「本気ですか・・・黒砂糖。あれはとても高価な物ですぞ。それを使った饅頭をタダで振る舞うのですか」
「そうだ。何も問題あるまい」
「いや、問題のあるとか無いとかの話では・・・」
「ハハハハ・・・心配性だな。十分な量を用意してある。心配するとしたら作る早さが間に合うのかどうかだろう。小ぶりの饅頭だか、一人2個で5千人分。蒸さつまいもは同じく5千人分ある。これで足りなかったら勘弁してもらおう」
「いや・・ですから、そういう問題では・・・」
心配する三好長慶ではあるが、上杉晴景はしっかりした考えの上で動いていた。
そもそも黒砂糖は、明国産や琉球産ではなく、上杉領内で作っているために元手はかかって無い。一部の人以外は上杉・今川で黒砂糖を作っていることを知らない。
黒砂糖を使用した饅頭を配ることで公家衆、武家、庶民にいたるまで砂糖の甘みを知ることになる。
一度、砂糖の味を知った多くの人々は、高くても砂糖を欲するようになる。
簡単に言えば、リピーターを作るための試供品的なものだ。
さつまいもも一度味を知れば、次からは抵抗なく手に入れるようになる。
さつまいもの生産は、飢饉対策のために畿内で広めるつもりだ。
タダで配ることで普及の弾みとなる。
現在、日本国内で黒砂糖を作っているのは上杉家と今川家のみ、黒砂糖の生産は他に広めるつもりは無い。つまり独占的に商売できるということになる。
いよいよ茶会が始まった。畿内の名だたる茶人が多くきている。
千宗易、津田宗及、武野紹鴎、大林宗套、今井宗久。
将軍足利義藤様が茶を立てている相手は、近衛前久様。本来なら右大臣であるが、上様が右大臣となる関係で、右大臣を数日経てすぐに関白・左大臣となっていた。
公家衆、武家、茶人達へのもてなしが終わると抽選で当たった庶民へ上様が茶を振る舞っていく。
茶人達は、それぞれ自ら野点を始めている。
それぞれが、桜の花の下で茶を点てていると一陣の風で桜の花びらが舞っていく。
風に舞う桜の花が野点に風情を添えていく。
三好長慶や松永久秀らもそれぞれ茶人のもとで茶をいただいている。
花見会場の様子を見にいくとタダでもらえるものを目当てに多くの人々がいた。
武家も公家も庶民も桜の下を行き交っている。
人々の手にはそれぞれ貰ったものを手にしている。
中には既に食べ始めている者もいた。
桜の花の下を多くの人々が身分に関わらずに自由に歩いている姿がそこにあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます