第216話 秋の焼きいも祭り

天文22年(1553年)11月

上杉領からさつまいもと南瓜が大量に京の都に送り込まれてきた。

大量のさつまいもを見た者達は、これが食べられるかと言って怪訝な表情をする。

表面が薄紅色をしていることが気味悪く思われているようだ。

大量のさつまいもを見た者達はどうしていいかわからないようだ。

「晴景様、これは本当に食べられるのですか」

三好長慶が不思議そうに尋ねてくる。

「火を通すと実に美味いのだ。早速焼いて見せよう」

室町御所の庭園には落ち葉には事欠かない。

こんなところで落ち葉で焚き火をしていいのか一瞬迷ったが、食欲には勝てず気にしないことにして皆に落ち葉を集めさせた。

現代に例えたら首相公邸あたりで勝手に焚き火をする様なものだ。

現代なら警察に捕まるか任意同行だな。

ここの警備は全て上杉の家臣だから大丈夫だろう。

それに自分自身が事実上の幕府の軍事責任者だから問題なかろう。

大量の落ち葉を集め、さつまいもを落ち葉の中に入れる。

現代ならアルミホイルでくるんだり、濡れた新聞紙でくるんで焼くのだが、戦国の世にアルミホイルは無い。新聞紙も無い。和紙はあるが和紙も高級品だからおいそれと使えない。

大量の枯葉の中でじっくり焼いていくか、もしくは、竈門の上においてゆっくりと焼いていくしかない。

落ち葉が一気に燃えないように気をつけながら、ゆっくりと落ち葉に中で焼いていく。

火のついた落ち葉の山の中で蒸し焼きにすると言った方がいいだろう。

火が強すぎるとさつまいもの表面の皮だけが黒焦げになり、さつまいもの芯まで火が通らずに生焼け状態となる。

ゆっくりと焼いていくと落ち葉の煙に混じって微かに焼き芋のいい匂いがする。

「そろそろ頃合いか、1本出して見るか」

燻る落ち葉の山から枯れ枝を使って焼き芋を1本取り出す。

手ぬぐいを手に焼き芋を手で折る。

力を入れなくとも簡単に二つに折れた。

焼き芋の断面は黄金色をしており、そこから湯気が立ち、甘い焼き芋の匂いがあたり一面に漂う。

晴景は一口焼き芋を頬張る。

焼き芋の独特の香ばしい甘さがしてくる。

「これは美味い」

三好長慶に焼き芋を手渡す。

その甘い香りと黄金色の実に引き寄せられるように三好長慶も口に運ぶ。

「う・・美味い」

黙々と焼き芋を食べる三好長慶。

そこに、焼き芋の匂いに誘われるように上様もやってきた。

「この美味そうな匂いはいったい・・・」

上杉晴景と三好長慶が焼き芋を頬張っている姿を見る。

「儂を呼ばずに、こっそりと何を食べているのだ」

訝るような目でこちらを見てくる。

ごまかす訳にもいかず、上杉晴景は燻る落ち葉の山から焼き芋を1本引き出すと手拭いで二つに折り。一つを上様に渡す。

「皮を剥いて、お食べください。熱いかもしれませんので、ゆっくりお食べください」

怪訝な表情をしていたが、焼き芋から立ち上る甘く香ばしい焼き芋の匂いに思わず一口食べる。

「こ・・・これは、美味い」

一心不乱に焼き芋を食べる上様。

上杉晴景は残りの焼き芋を取り出し、共まわりの者達に振る舞っていく。

松永久秀も焼き芋を受け取る。

上様も三好長慶も一心不乱に食べている姿を羨ましそうに見ていたため、受け取るとすぐさま口に運ぶ。

「この香ばしさと甘さは・・・・・」

松永久秀も、もはや言葉もなく黙々と食べていく。

皆があっという間に焼き芋を食べ尽くしてしまった。

皆がもう無いのかという顔をして上杉晴景の顔を見る。

「晴景殿、もう無いのか」

「上様。もう一度焼きますので少し時間をいただけますか」

「分かった。焼けるまで待つ。焼いてくれ」

上様他、皆は食べる気満々だ。

仕方なく燻り続ける落ち葉の中にどんどんさつまいもを入れていく。

さつまいもの食べ方を簡単に教えるつもりだったが、なぜかひたすら焼き芋を焼くことになっている。

「落ち葉が足りん。集めてくれ」

焼き芋が食べたいらしく皆がすぐさま落ち葉を集め始める。

「そ・・そんなに集めなくても・・・」

皆が大量の落ち葉を集めてくる。

落ち葉の煙と焼き芋の匂いが別名花の御所と呼ばれる室町御所全体に漂うのであった。

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