第215話 上杉版二条城築城
大徳寺の会談から3ヶ月が過ぎようとしている。
上杉晴景は、普段は室町御所の一室にいるのだが、平城の築城が始まると頻繁に築城現場に行く事が多くなっていた。
なぜなら、室町御所にいると公家衆からの面談の申し入れが頻繁に来るからである。
「公家衆の相手なんぞやってられるか」
上杉晴景は公家衆の相手にうんざりしていた。
朝廷に領地をくれるくらいだから、自分達ももらえるかもしれないと考える公家が多くやってくるのだ。
断っても断っても全く意に返さない、その鉄のような意志には、驚くばかりだ。
公家衆の相手は幕府の奉公衆に全て任せて上杉晴景は急いで室町御所を抜け出す。
そんな上杉晴景の供回りの中に三好長慶がいた。
三好家の家督を嫡男慶興に渡し、自ら望んだように上杉晴景に仕えていた。
家督を嫡男に譲り、身軽になった為なのか険しい表情は柔和な表情へと変わっていた。
「なぜ、松永久秀殿がいるのだ」
なぜかいつも供回りに松永久秀が混じっているのだ。
「それは不思議でもなく、居て当然でございます」
「いや、何が当然なのか分からんのだが・・・・・」
「元々三好長慶様の側衆のような役割の者ですから、三好長慶様が上杉晴景様の側衆ならば当然この松永久秀も居ると言うことになります」
「松永殿は儂の側衆ではないのだが」
「ですから三好長慶様の側衆でございます」
毎日の様にこんな不毛なやり取りが繰り返されている。
これ以上言っても仕方が無い為、これ以上は諦めて築城現場に向かう。
築城現場に着くと早朝から多くの者達が築城に取り掛かっている。
1km四方の敷地に堀をめぐらし混凝土の塀をめぐらせていく。
平城であるため防御力を上げる必要があるために、塀の高さを上げることになった。
平城の塀の平均的な高さは6尺〜7尺程度(約2m)。高くても10尺(3m)までいかない。
今回は、15尺〜16尺(約5m)の高さにする予定だ。
鍵爪の付いた縄を投げ入れて登られることを防ぐため、塀の上に屋根の用な物は作らず、鍵爪などが引っかかるものは全て無くしている。
敵が鍵爪付きの縄を投げ入れても引っかかることなく外に戻るだけとなる。
徹底的に華美な部分は排除して、城内の者達が戦うために拘った作りにするつもりだ。
門の作りも防御にこだわっている。門の上に巨大な混凝土の塊を作って用意しておき、門が破られそうになったら、混凝土を支える柱を破壊して、門の上の混凝土の塊を落として、門を封鎖する予定だ。
城の死角を無くすために櫓を複数作り、完全に死角を無くす様にする。
天守は作らずに、本丸、二の丸、三の丸を作る。
建築材料は、事前に別の場所で加工されてから運ばれてくる。
ここでは、ひたすら組み立てていくだけだ。
「しかし、この築城の速さは信じ難いですな」
三好長慶は、築城現場に来る度に驚きの声を上げている。
他の大名達からしたら異常な速さらしいが、上杉からしらいつもの事。
特に異常に思うことはないのだが、世間からしたらその認識がおかしいらしい。
誰も困ることは無いので変えるつもりは無い。
上杉の城は着々と完成に向かっていた。
上杉晴景は、築城現場を離れると近隣の農村を見て回っていた。
作物の生育の悪い田畑が目立ち、さらに耕作されていない田畑も見られる。
「荒れた田畑が多いな」
「畿内は戦乱に明け暮れていましたから田畑が荒れるのも仕方ないかと」
三好長慶は、荒れた田畑を見ながら答えた。
「天文の飢饉の時は、畿内ではかなりの死者が出たと聞いたが」
「詳しい人数は分かりませんが、2〜3万人が死んだと聞いています。上杉領では餓死者が出なかったと聞きましたが本当でしょうか」
「餓死者は出なかった」
「それだけ領内が安定していたということでしょうか」
「領内の安定が一番だが、やはり早期に領内をまとめ無駄な戦を無くした事。次に河川改修工事を積極的に行い水害対策が出来たこと。新田開発と新しい作物の導入と雑穀を含めた作物の増産体制と備蓄。これらが全てやれて初めて飢饉で餓死者を出さなかったのだ」
「聞いているだけで気が遠くなる様な気がしますな」
自らも三好一族を率いてきた三好長慶は、上杉晴景の言う言葉の意味とその難しさを理解できたと同時に、自分にそれを全てやれと言われてもできないであろうと思えた。
「京を含め畿内に関しては、やはり戦乱と高い年貢であろう」
「戦乱はわかりますが、高い年貢ですか」
「年貢はどんなに高くとも5割で止めるべきだ。それを越えていくと、少しのきっかけで農民が逃げ出す。農民が逃げ出し、減った年貢を集めようと年貢を上げる。するとまた農民が逃げる。これを繰り返すと気がつけば荒れた田畑ばかりになり、飢饉で飢えに襲われることになるのだ。おそらく年貢が5割を越えているところが多いのではないか」
「多くはそうでしょうな、それでは維持していけない大名も多いのでは」
「それだからこそ殖産興業が重要だ」
「殖産興業・・・?」
「商業を活発させ、新しん産業を起こしていくのだ。上杉領内を一つ挙げれば陶器。多くの窯元を作り、陶器を生産して売り、それで銭を得ていくのだ」
「なるほど・・・」
「まず、畿内に上杉領から新しい作物を導入して、生産量を上げていこう」
「新しい作物ですか・・・?」
「さつまいもと南瓜だ」
ここから畿内に新しい作物が導入され、農村の食料事情が改善されていく始まりとなるのであった。
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