第211話 上杉晴景の狙い
将軍足利義藤は上杉晴景と二人だけで話し合うことにして東山霊山城の奥の部屋へ呼んでいた。
「晴景殿。此度は大義であった」
「はっ、上洛の御内書をいただきました故、急ぎ上洛いたしました」
将軍義藤は満足そうな顔をしている。
「まさか、細川晴元が上杉に攻めかかるとは思わなんだ」
「考えようによっては好都合と言えましたな」
「好都合か・・・?」
将軍足利義藤は、好都合と言う言葉に思わず聞き返した。
「はい、畿内における多くの騒乱の火種を作り続けていた一人が細川晴元。晴元がいる限り六角殿は晴元に厳しく出ることが出来ず、上様と細川晴元が衝突すれば最終的に細川晴元につくことになります」
「なるほど、確かに言われてみれば、そうであろうな。義賢の父である定頼の頃も、我が父義晴が細川晴元と戦いになれば、定頼は我らを裏切り晴元についていた。日頃、将軍家への忠節を口にするが、将軍家と晴元と比べると晴元を取るのだ。六角の腹の中は、将軍家よりも細川晴元の方が重要なのだとよく思ったものだ」
足利義藤は自嘲気味に笑う。
「晴元はもはやおりません。ならば、細川晴元の領地は丸ごと将軍家直轄領となされませ」
「丸ごと将軍家直轄領だと・・・」
「我らは将軍家よりの御内書により上洛いたしました。つまり幕府軍とも言えるはず。その幕府軍に攻撃をかけたのです。本来なら一族もろとも御敵として滅びることになるものです。それにもかかわらず妻子を助けるならば、領地を没収すべきです。細川京兆家は公家のような扱いにして力を与えずに残すようにしていくべきかと思います」
「細川家の他の者達が黙っておらんだろう」
「細川晴元を止めなかったものは同罪の謀反人として扱えば宜しいでしょう。手勢を貸し与えたものも同罪。領地没収に異議を唱えるものは謀反人として、幕府御敵とし、子々孫々に至るまで朝敵とすると布告するしかありません。従うものにはある程度領地安堵を認めれば良いのです。細川京兆家に力を残せば、間違いなく将来に禍根を残します」
「うむむむ・・・・」
「細川京兆家の領地はどこです」
「山城国、摂津国、丹波国、讃岐国、土佐国。これらの守護に任じている」
「ではそれら全てを将軍家で召し上げるべきです」
「だが・・・」
「それらのうち1割程度を朝廷の直轄領とすることで朝廷と調整されませ。そうすれば綸旨も出してくれるでしょう。摂津守護代は三好長慶。摂津を将軍家直轄領として三好長慶を守護代にしておけば、実質的に上様の家臣となります」
「朝廷を巻き込むのか」
「それが最も良いかと思います。財政的に苦しい朝廷も直轄領が手に入れは助かるはず」
「だが、もっと寄越せと言うのではないか」
「そのように言ってきたら、朝廷にこちらの要望を出して聞いてくれたら増やせばいいのです」
「要望だと」
「上様は、現在征夷大将軍であり近衛中将であられますな」
「そうだ」
「それに加えて、源氏長者と右大臣以上を要求なされませ」
「源氏長者・・・」
「征夷大将軍だけでは完全な武士の頭領とは言えません。源氏長者は、源氏一門の最高権威。源氏長者となることで朝廷が公式に全ての源氏の頭領と認めることになります。征夷大将軍に加えて源氏長者をもらい、あとは右大臣以上をもらうことで他の大名では簡単に犯す事のできない権威を持つことになります。足利将軍家では8代将軍義稙様が源氏長者になられて以降誰もなられていません。源氏長者となりそれを広く告知する必要があります」
「朝廷の認める源氏の頭領か・・・」
「さらに、綸旨をいただくときに、錦の御旗の使用をお願いしてください」
「錦の御旗もか・・・」
「細川領の将軍家直轄領化に反対するものたちと戦う場合、錦の御旗を前面に掲げ、幕府軍であり、朝廷軍であることを前面に出すべきです。敵対するもの達に事前に警告するのです。刃を向ければ朝敵であると」
「だ・・だが・・・」
「上様。ぐずぐずしている時間はありません。戦いは敵よりも如何に早く手を打つかに掛かっています。決断なされませ。おそらく三好側も松永久秀を使い朝廷に働きかけを始めているはず。手をこまねいていてもなにも変りません。それとも、今までのような無法が罷り通る世のままで良いのですか」
晴景の言葉に義藤は思わず唇を噛み締める。
「三好側が朝廷に働きかけているのか」
「三好側は和睦の道を探して動いているのでしょう。上様とは直接的な戦いはできるだけ避けようとしているようです」
「三好長慶と和睦せよと言うか」
「上様の地盤を固めるためにも、今は三好との戦いは避ける方が良いでしょう。そのためにも、征夷大将軍に加えて源氏長者と右大臣以上となり、錦の御旗が必要なのです。これだけ揃えば、三好長慶も上様に対して簡単に牙を剥くことはできないはずです」
「上杉はどこまで儂を支えてくれる」
「ならば、この上杉晴景は上様の矛となり盾となりましょう」
足利義藤はしばらく考えこむ。
「そうか・・・これより朝廷に参る。軍勢を率いて共をせよ。三好が邪魔するなら打ち払ってくれ」
「承知いたしました。戦いは我らにお任せを」
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