第189話 西美濃三人衆
美濃席田郡北方城
美濃の農民達は農作物の収穫に汗を流していた。
稲の穂は黄金色の染まり、穂は重そうにしている。
農民達の気配を感じると稲の穂を狙う鳥達が逃げていく。
農民達は、皆笑顔で収穫の喜びを表していた。
そんな中、
3人はお互いに領地が近く、話が合うため若い頃からお互いに協力して幾多の難局を乗り越えてきた。
安藤守就が最も歳をとっているがまだ五十にはなっていない。
後の二人は四十前後だ。
稲葉良通と桑原直元は、奥の部屋に通された。
そこに安藤守就が座って待っていた。
「今年の収穫はことのほか良さそうだな」
稲葉良通の座りながら安藤守就に声をかける。
「思いのほか収穫がありそうでなによりだ。収穫が良さそうで一安心だよ。領民達が皆笑顔で喜んでいる」
「ところで、今日は何の話で我らを呼んだのだ」
稲葉良通と桑原直元は安藤守就の前で守就が話しだすことを待っていた。
「また戦が始まりそうだ」
安藤守就は白湯の入った茶碗を手に呟いた。
「上杉家との戦が始まる。良通殿、直元殿。儂のところに上杉からの使者が来た。二人のところには上杉からの使者は来たのか」
「儂のところには来た。直元殿はどうだ」
「ああ・・儂のところにも来た。上杉の使者から上杉家には前の美濃守護である土岐頼芸様が保護されていて、さらに将軍家より道三殿討伐の御内書が出されたと聞いた」
「良通殿、直元殿。どうやら西美濃では我ら三人のみ使者が訪れたようだ」
「上杉の使者がそう言っていたな」
稲葉良通の言葉に桑原直元も頷く。
「守就殿。道三殿は勝てると思うか」
三人の中で一番年下となる桑原直元が安藤守就に尋ねる。
「正直、厳しいと思う。予想をはるかに上回る大軍だ。上杉側は本気で道三殿を討つつもりであろう。北の飛騨からは2万8千の軍勢。東の信濃からは3万の軍勢。おそらく、東美濃の遠藤家は上杉に従うだろう」
「尾張国、道三殿の義理の息子になる織田の大うつけは、助けに来るのか」
「上杉の動きに合わせ、今川義元も尾張国に軍勢を差し向けている。こちらに構っている余裕は無いだろう。尾張も一枚岩では無い。今川の相手で手一杯だろう」
「今川も動いているのか・・」
「上杉家と今川家は同盟関係だ。当然、歩調を合わせるだろう。上杉が美濃を攻めれば、織田の大うつけの後ろ盾の道三殿は動けん。今川義元がその隙を見逃すはずが無いであろう。さらに、六角も動いていると聞く」
「六角だと」
「道三殿が朝倉に支援を頼んだらしい。どんな条件をつけたか分からんが、美濃の一部を渡すくらいは言うだろう。六角はその朝倉を牽制しているようだ」
「なぜ、六角が」
「上杉家に将軍足利義藤様から御内書が出されたのは聞いたな」
頷く二人。
「六角義賢殿の妹は土岐頼芸様の正室なのは、美濃の国衆ならば当然わかっているだろう」
「「当たり前だ」」
「六角義賢殿は、将軍足利義藤様を支える大名の一人。だが、管領細川家と三好長慶を相手にするにはいかに六角殿といえども、流石に荷が重いだろう。そこで、上杉を京に呼び込もうというのだろう。お主達も将軍家が一色家から養女をもらい将軍家の名で上杉と縁組をした話を聞いたであろう。話を聞いた時は何かあるともっていたが、このような形で来るとは、考えもしなかった」
「なる程、それで将軍家と上杉家の縁組ですか。そして、六角と上杉の間にいて、美濃守護を追い出し美濃を乗っ取り信用できない道三殿が邪魔。上杉が道三殿を追い出すために朝倉の横槍をさせないために六角が動くということですか」
桑原直元が頷きなら呟く。
「朝倉も本気で道三殿を助けようとは思っていないだろう。上杉と六角を同時に敵に回したくはないだろうからな。せいぜい火事場泥棒を狙うぐらい。できたら美濃の一郡でも掠め取ろうと考えている程度だろう」
「守就殿、良通殿。御内書は本当だろうか」
「流石に将軍家の名を使いわざわざ嘘をつく意味が無いだろう。嘘が分かった時、上杉の信用が地に落ちることになる。道三殿討伐の御内書が出されたのは本当だろう」
安藤守就の言葉に稲葉良通も頷く。
「儂は、上杉側に付こうと思う。良通殿、直元殿はどうする」
「守就殿が上杉に付くならば儂も上杉に付くことにする。どのみち、これだけ大掛かりな策が動いているのだ。我らの出る幕は無い。大人しくして父祖伝来の領地を守ることに専念するべきだろう」
稲葉良通の言葉を聞き、桑原直元も賛同する。
「儂も上杉に付くことで異論は無い」
「ならば我ら三人は上杉に付くことにする。火事場泥棒が出ない内に農民達に作物の刈り入れを急がせたほうがいいな。それと、道三殿から兵を出すとように指示が来たら、六角に不穏な動きありとでも言って、道三殿には兵を出さぬようにするぞ」
「「承知した」」
美濃の有力国衆の西美濃三人衆と呼ばれる男達は、上杉家に付くことを決め急ぎ戦の準備に入るのだった。
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