第188話 決意の一手
江戸城で囲碁を打つ晴景と景虎。
「こうして二人で囲碁を打つのは久しぶりだな」
「兄上は忙しすぎます」
「なら、もう少し書類の処理を手伝ってくれ、困っている兄を助けると思って」
「それは別です。兄上でなければ分からぬことが多すぎますから・・・」
あっさりと拒否されてしまった。
「兄上の形勢は不利なのに楽しそうですね。何か逆転の秘策でもあるのですか」
「さて、それはどうかな、あるかも知れんし無いかもしれん・・・」
本来の歴史なら今の時期、自分は病魔に犯され寝たきりになっていた頃だ。
そして、本来の歴史ならあと半年ほど後の天文22年2月に景虎との和解ができぬまま寿命が尽きていた。
さて、今回は足掻けるだけ足掻いてみたがどうなることやら。
だが、景虎と仲良くやれてこうして二人で囲碁が打てている。
それだけで十分に幸せなような気がしてきて、なぜか自然に笑みがこぼれてしまう。
景虎は囲碁の腕をメキメキとあげ、景虎が本気で戦ったらもはや勝てん。
おそらくかなり手加減してくれているのだろう。
あまり差が開かぬようにしてくれているのが分かる。
こんな穏やかな日々が続いて欲しいものだ。
「おや、お二人で囲碁ですか」
小夏が茶を持って入ってきた。続いて志乃も入ってきた。
「これでどうだ」
晴景の打った一手に景虎はニコリとする。
「これで私の勝ちです」
景虎の打った一手で勝敗が決した。
「あ〜負けた〜。茶をくれ、茶だ」
「はい、茶は小夏が入れました。どうぞ」
自分と景虎に茶を出してきた。
「いただこうか」
景虎と二人で茶を飲む。
「美味いですね」
「美味いな」
穏やかな日差しの中を吹き抜けてきた風が部屋にゆっくりと流れ込んでくる。
ゆっくりと流れる風の中で、ゆったりと流れる時間を楽しむように四人は茶を楽しんでいた。
飛騨国
宇佐美定満は飛騨国で北美濃への進軍に備えて、早い段階から北美濃周辺の情報収集をしていた。
東美濃は調略できたと情報が入ってきた。
村上義清殿からは北信濃の東家は、調略して味方にする価値が無いかも知れないと連絡が来ている。
飛騨南部の国衆達の話でもあまり評判は良くない。
身内や縁者が力を持ち始めると下剋上を恐れてすぐさま粛清する。
ほぼ濡れ衣とも言える言い掛かりをつけ、謀殺、暗殺、騙し討ち。
そんな東家当主である
商家や農民相手に乱暴狼藉を働く、家臣に対しても気に入らぬことがあれば、家臣を足蹴にすることが数え切れぬほどあると聞こえてくる。
「宇佐美殿」
「時盛殿か」
飛騨北部を治める江馬時盛が入ってきた。
飛騨南部は上杉家直轄領となっている。
「いよいよ美濃攻めですな」
「既に準備は済んでいる。あとは時を待つのみだ」
「将軍家より美濃討伐の御内書をいただいたとお聞きしました」
「それは事実だ。既に晴景様の手元に届いている。さらに前美濃守護である土岐頼芸殿も上杉家におられる。大義を得て、軍勢の準備も終わった」
「美濃の東家は調略されないのですか」
江馬時盛の言葉に厳しい表情を見せる。
「乱世の世といえども東家内部の粛清は目に余る。嫡男も人の上に立つ人物では無い。そのような者達を調略して上杉家で抱え込む謂れは無い。そのような人物は晴景様のためにはならん。儂はあえて鬼となり北美濃を更地にするつもりでかかるつもりだ」
「ですが、交渉しだいでは・・第三者を介して東常慶から接触がありましたから調略の可能性はあるのではありませぬか」
「時間の無駄である。北美濃の国衆の素性は調べ上げてある。信用できそうに無いものは最初から叩き潰したほうがいい。東家の領地が半減してもいいなら受け入れるが」
江馬時盛は宇佐美定満の鋭い眼光と厳しい姿勢に、これ以上何も言えなかった。
北美濃攻略軍の総大将は宇佐美定満であり、江馬時盛はその指揮下に入ることになる。
飛騨には上杉の5千軍勢が既にいる。
越中には2万の軍勢が待機している。
そこに江馬時盛の軍勢3千が加わり、北美濃攻略軍は2万8千となっていた。
宇佐美定満は北美濃の国衆に関してかなり調べ上げていた。
さらに、進軍ルートやそれぞれの城の内部に関しての情報もかなり集めている。
東美濃からの進路を使う3万の軍勢は、美濃に入るために信濃で待機していた。
近々いよいよ美濃への進軍を開始することになる。
そして、今川家も上杉に合わせて尾張国を攻める算段である。
今川家は、駿河・遠江・三河の軍勢を使い尾張と戦うことになるようだ。
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