第186話 土岐の使者
慌てて晴景と景虎は、越後府中から江戸城に舞い戻って来た。
江戸城に晴景と景虎が到着すると広間で3人の人物が晴景達を待っていた。
ひとりは、上総国衆で伊隅郡伊隅荘の
土岐為頼殿は、上総国が上杉領となった時に何度か顔を合わせている。
里見義堯の室(妻)の父親にあたる人物で、上総の国衆ではかなりの力を持っている。
かなり早い段階で上杉に従っている上総国衆だ。
「為頼殿、どうされた」
「ぜひ、晴景様のお力に縋りたく参上いたしました」
「それで、何が起きた」
「まずは、後ろの二人を紹介致したく」
土岐為頼殿の後ろに二人の男がいる。
「前美濃守護であった
「前の美濃守護だと」
「はい、頼芸殿は斎藤道三の謀略により美濃を追われ、尾張の織田信秀殿を頼られたそうです。しかし、織田信秀殿が病で亡くなると尾張国から厄介者扱いされることとなり、尾張国に居続けることもできず、実弟で常陸土岐家を継いだ治頼殿を頼られ、治頼殿から土岐一族で上杉家の国衆となった私に相談が来た次第」
「上杉晴景様には初めてお目にかかります。土岐頼芸と申します。美濃守護でありながら国を追われるなどという生き恥を晒しております」
土岐頼芸というと文武両道の人物で武芸もそれなりに出来、特に絵がうまいと聞いている。
「ならば、儂に用があるのは土岐頼芸殿と言うことか、いかなる話か」
「どうか、どうか美濃国を取り返すためにお力をお貸しください」
土岐頼芸殿が必死に頭を下げている。
美濃の蝮が相手か、そうなると尾張も動くだろう。
なかなか一筋縄では行かぬ相手だ。
だが、尾張国はまだまとまってはいない。
織田信長がある程度尾張国を掌握するまでは、まだ数年かかる。
さてどうする。
「兄上」
「景虎か」
「美濃の蝮、斎藤道三は黒い噂の絶えない男。謀略により多くの者達を貶め、幾度となく政敵を毒殺していると聞き及んでおります。そのような人物。断じて許す訳にはいきませぬ。美濃討伐はこの景虎にお命じください」
景虎は、もうやる気満々だ。
「う〜ん・・・」
「晴景様、美濃を取り返していただけたら、美濃半国を差し上げます。そして上杉家に従います」
「常陸国の土岐治頼も上杉家に従います」
「兄上、頼芸殿、治頼殿がここまで言われているのですよ」
景虎がにじり寄ってくる。
「分かった。分かった。ならば、その事を将軍家にも伝え、将軍足利義藤様より美濃討伐の許可を得てから行うこととする。さらに、尾張国織田家も動くはずだ。今川義元殿とも連携を密にせねばならん。土岐頼芸殿の存在と将軍家の討伐許可があれば美濃国衆を崩しやすくなるであろう」
「兄上、承知しました」
「頼芸殿。先ほど頼芸殿が申した条件は、将軍足利義藤様にも伝えることとなる。よろしいか」
「承知いたしました」
「直ちに将軍足利義藤様に書状を送り、討伐許可を得ることとする」
「晴景様」
「どうされた。頼芸殿」
「将軍家に書状を上げてもなかなかすぐに動きませぬ。大丈夫でしょうか」
土岐頼芸殿が不安そうな顔をする。
「そこは大丈夫だろう。最近、儂は将軍足利義藤様のかなり年上の義理の息子になった。だからすぐに討伐許可が出るだろう。心配はいらん」
「はっ・・?・・将軍足利義藤様の年上の息子?」
しばらく意味が分からず困り顔の土岐頼芸であった。
美濃国稲葉山城
斎藤道三は、土岐頼朝を追放した後、美濃国内に残っている土岐家の勢力を完全に一掃して、磐石な支配体制を作ろうとしていた。
そんな時に、土岐頼芸が上杉家の保護下に入ったと伝えきいた斎藤道三はイラついていた。
「クソ・・尾張国内であっても、躊躇わずにさっさと殺しておけば良かったか」
「土岐頼芸の他にさらに悪い話がございます」
家臣の不破光治が口を開く。
「さらに悪い話とは何だ」
「上杉家と将軍家が縁戚関係となったそうでございます」
「何だと」
斎藤道三は驚愕の表情となる。
「何かの間違いでは無いのか」
「本当でございます。一色宗家の側室の娘を足利義藤様が養女として上杉晴景の側室に送り込んだそうで、さらに同じ時期に朝廷も上杉晴景に対して、左近衛少将従四位下を与えたとのこと。官位で言えば細川管領家と同じ従四位下。破格の扱い。朝廷と将軍家の上杉に対する期待の大きさを表しているものと思われます」
「チッ・・一色宗家か、土岐家よりも格上。さらに将軍家も絡むか。面倒なことになったな。官位もいきなり従四位下か・・しかも近衛少将。まさに破格の扱いだな」
「細川管領家を牽制する意味もあるようです」
「上杉は美濃に攻めてくるか」
「大義名分を得た以上、ほぼ間違いなく攻め寄せてくると思います」
「上杉側を切り崩すことはできるか」
「上杉側は結束が固く切り崩しは難しいかと、それよりも周辺大名家を味方につけるべきかと。狙い目は朝倉家と織田家になるかと思います」
「ならばすぐにでも朝倉と織田の協力を取り付けろ。それと美濃国衆から寝返りが出ぬようにせよ」
「承知しました」
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