第180話 乱世の異端児
天文21年2月末(1552年)
天王寺屋の津田宗及が江戸城にやってきたとの報告を受け、厩橋城から江戸城にやってきた。
江戸城内に作らせた茶室で津田宗及と茶の湯を楽しむことにする。
茶室で茶を楽しんでいると余計なことを考えずに純粋に茶を楽しめる。
津田宗及の点てた茶をいただく。
ゆっくりと茶をいただくと一流の茶人の点てた茶はやはり違う。
「宗及殿、うまいな」
にこやかに微笑む津田宗及。
「嬉しいお言葉です」
しばらく茶の湯を楽しむ。
「宗及殿。此度は江戸まで来られたのは、何か起きましたか」
晴景の言葉に表情を引き締める。顔つきが茶人宗及から商人天王寺屋津田宗及にかわる。
「2つございます」
「聞こう」
「一つ目はサトウキビの苗が手に入りました。琉球ではウージと呼ばれるそうでございます。サトウキビの苗を百株お持ちしました。それと、栽培のやり方を聞き出して、書き出して起きました。ご覧ください」
手書きの1冊の書を出してきた。
「これは驚いた。もっと時間がかかると思っていたぞ。さすがは天王寺屋だ」
「栽培が上手くいけば国内で砂糖が生産できます。そうなれば国外からの砂糖は締め出し、砂糖を独占できます」
「その通りだ」
「砂糖生産と販売にはぜひ天王寺屋をお使いください」
「分かっている」
なんだか悪徳代官と悪徳商人の密談のようになってきた。
「それと、これから上杉様の領内で養蚕に力を入れるとお聞きました」
「まだ品質が低い。明国のものと太刀打ちできん。だが、作りながら品質を上げていけば、明国からのものは排除できると考えている」
「ならばこの津田宗及もお手伝いいたしましょう」
「天王寺屋も絹の生産に関わるのか」
「品質が低くとも使い方次第かと、販路はお任せください」
「分かった。いいだろう」
「では、二つ目でございます。尾張の虎と呼ばれる織田信秀がかなり重い病いのようです」
「尾張の織田信秀が死にかけているというのか」
「はい、おそらく長くてあと半月」
「尾張で家督争いが始まることになるな」
「嫡男信長と三男信行の争いとなりそうです」
「天王寺屋はどう見る」
「織田信行の支持が多いように思います」
「ほう・・織田信行か」
「織田信長は普段からの態度が悪く快く思わない者が多いようです」
「噂に聞く尾張の大うつけか」
「商売で尾張に寄りました時に遠くから見ました。遠くからでもすぐに分かります。あれは驚きます。常に着物の袖を外し、模様の派手な半袴、朱色の太刀、茶筅髷を派手な色の糸で巻いております。常に歩きながら柿などを食っていて、後ろには同じような風態をした連中を多く従えながら街中を歩いております。あれならば、尾張の大うつけと言われて仕方ないかと」
「まさに歌舞伎者だな」
乱世の世と言っても一応大名や国衆であれば、それなりに身なりを整えているのが当たり前だ。
信長の身なりは、現代で例えたらド派手な色で染めた特攻服の集団が、派手な髪型で常に街中を歩いているのと同じだ。
そりゃみんなが顔をしかめるし、人によっては怖がるだろう。
「周りがいくら言っても聞かぬようで、傅役の方も困っていると聞いております」
常識人なら信長の奇行は理解できん。
理解できんどころか頭を抱えるだろうな。
「そうか、儂としては信行が家督を継ぐなら願ったりだな」
津田宗及は意外だと言わんばかりの顔をする。
「それは織田信行ならば御し易いということでしょうか」
「当然だ。織田信行はどこまで行っても乱世の世の常識人に過ぎん。老人達が好む行儀が良いだけの男だ。だが、信長は違うぞ。儂と同じ乱世の異端児だ」
「乱世の異端児・・ですか」
「常識人は思考が皆同じ。どんなに飛躍した考えのように見えても結局は他人と似たことしかできん。異端児は、その常識を打ち砕き易々と越えていく」
「晴景様は、虎豹騎軍を作り、新田開発、河川改修、銭を作り、独自に大陸と交易をする。他の大名が真似をしようとしてもできませんな」
「儂の場合は、それを実行する以外に無かったからだ。そうしなければ、国が貧しいままで戦乱に明け暮れるままだからだ」
「必要と頭では分かっていても実行できない者がほとんどです。それを実行できると言うことはそれだけ並外れた才能なのです。父津田宗達が言っておりました」
「そう言ってもらえると嬉しいな。信長に関しては言った通り、信長は乱世の異端児であり、それもただの異端児では無く並外れた異端児だ。だからこそ、尾張の虎と呼ばれた信秀が後継者に指名し、美濃の蝮が娘を嫁がせたのだ。中身まで見た目通りの男であれば、信秀は後継者にせずに廃嫡する。美濃の蝮も相手しない。それを周りが分かっていない。信長もあえてよく見せようとしていないこともあるが」
「ならば、織田信秀が死んだ後は・・」
「織田家内部での争いが激化するだろう。最終的には信長が尾張を手にすると思うが、今のところは両者の勢力に大した差は無いだろう。大まかな勢力は、譜代の家臣は信行。若手で家を継げないもの達が信長と言ったところだろう」
「しばらくは、尾張に注意を払う必要があると言ったところでしょうか」
「何か変化があれば知らせてくれ」
「承知しました」
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