第178話 宇都宮城包囲

蘆名盛氏の居城会津黒川城に下野国壬生綱房の家臣が来ていた。

対上杉戦に支援を要請するためだ。

「盛氏様、下野国壬生の使いが来ております。いかがいかが致します」

蘆名家の四宿老の一人、平田舜範ひらたきよのりは、壬生の使者を広間に待たせ蘆名盛氏がいつも政務を行う部屋に来ていた。

「下野国壬生の要件はなんだ」

「どうやら宇都宮家を乗っ取ったものの、幼い宇都宮の嫡男を守る芳賀高定が上杉を頼ったため、上杉が大軍を下野に送り込んできたため、壬生は宇都宮城で籠城しているそうで」

「頑固なまでの忠義者と噂の芳賀高定が上杉を頼るか・・・それで」

「宇都宮城を包囲している上杉を背後から討って欲しいそうで」

「奴らは分かっておらんな。上杉の怖さと強さを」

「上杉の怖さと強さですか?」

「我が岳父であり、この奥州の全てをまとめ上げようとした伊達稙宗殿が戦を避けた相手だぞ」

「出羽南部庄内での事でございますね。大型安宅船を使った兵の大量輸送。鉄砲を誰も知らない頃に大量に運用していた事ですな」

「岳父殿は、上杉から攻めてきたら戦うが此方からは避けるべきだと言っていた。少なくとも上杉晴景が生きている間は」

「今の上杉家はその頃よりもさらに巨大になっております」

「その通りだ。さらに上杉晴景の後継者の上杉景虎もかなり厄介な相手のようだ。少しぐらい領地を割譲してもらう程度では割りが合わんな。下野国を丸ごとくれるなら戦ってみてもいいが」

「いかがします」

「ならば、儂は数日前から体調が優れずに寝込んでおることにするか」

「分かりました。ではそれを理由に丁重にお帰りいただくことに致します」

「それでいい」

蘆名家から断られ,そして,佐竹家からも同じように断られる壬生家であった。



上杉景虎率いる軍勢は、壬生綱房らが籠城する宇都宮城を包囲していた。

景虎率いる上杉勢は上野国から下野国に入り、宇都宮城に向かう途中の敵対的な国衆はことごとく叩き潰してきた。

敵対的な国衆を残しておいても、後で困ることになると判断したからである。

「朝信」

「はっ、兄上の申していた策を行う。直ちに取り掛かれ」

「承知しました」

景虎の指示を受け、斎藤朝信が準備を始める。

すぐさま宇都宮城を取り囲むように柵を立てていく。

柵はかなり頑丈に作られており簡単には壊せないように見える。

堀の周辺は柵は1列であるが、城門への橋周辺では2重に立てている。

籠城している者たちが簡単に打って出れないようにしていく。

柵を立て終わると、軍勢の内1万を北部・東部の制圧に振り向けた。

柵が出来上がった日の深夜から数時間ごとに宇都宮城に大砲が打ち込まれ始めた。

昼間は城門など周辺。

深夜になると兵達が眠っているであろう周辺にランダムに打ち込んでいく。

城内の兵達が眠くなりウトウトし始める頃になると大砲が打ち込まれ,衝撃と爆音で強制的に起こされる。

大砲を打ち込まれる衝撃と爆音で起こされると,しばらくは緊張感から眠ることができない。

数時間して緊張感が解け,ウトウトし始めると再び大砲が打ち込まれる。

この繰り返しで宇都宮城内の兵達の疲労は増していた。

睡眠不足から居眠りをする兵達。

1週間ほどして籠城する壬生勢の疲労が重なる深夜。

その隙をついて宇都宮城に入り込む人影があった。

上杉家の軒猿衆であった。

無言のまま事前に調べておいた兵糧庫へ向かう。

ウトウトしている兵糧庫の見張り数名を素早く始末する。

兵糧庫を開けると手早く油を撒いていく。

越後から取り寄せた燃える水。

十分に燃える水を撒いたら火を放つ。

男達は一斉に城外へと逃げ出す。

宇都宮城の兵糧庫から火の手が上がる。

火の勢いは強くあっという間に燃え広がった。

「火事だ,兵糧が燃えているぞ」

兵糧庫が燃えていることに気がついた兵達が,必死に水をかけて消そうとするが水をかけるとさらに火が強くなる。

「火が消えないぞ・・」

「城内に火がまわるぞ」

「周辺を取り壊せ,急げ城が燃えるぞ」

必死に火を消そうとする兵達。

周囲に油の匂いが充満する。

睡眠不足で集中力を欠いている壬生勢の隙をついて,宇都宮城に蓄えられている兵糧を燃やした軒猿衆であった。


景虎は,宇都宮城を取り囲む上杉の陣営の中で,宇都宮城から立ち上る炎を見てた。

「景虎様」

闇の中から景虎を呼ぶ声がする。

「軒猿衆か・・・上手くいったようだな」

「はっ」

「兵糧はどの程度焼くことができた」

「おそらく,8割は燃えるもしくは燃える水を吸って使えぬと思われます」

「分かった。ご苦労であった」

軒猿衆は闇の中に消えていった。

数日後の深夜。壬生綱房達は,作りの弱い裏手側の柵を壊して那須方面へと逃げ出した。

壬生綱房たちが逃げ出したことで,宇都宮城は陥落したのであった。

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