第172話 房総半島攻略戦‘’伍‘’

上杉景虎率いる本隊は、武田勢の陣営が見えるところまで来ていた。

景虎は、武田の陣を見ていた。

狭い山間の地で大軍を動かしにくい地。

上杉側が大軍の利を生かせない地を選び、武田側は魚鱗の陣を組み、三段に陣を組んでいるようだ。

上杉景虎の下に真田幸綱がやってきた。

「景虎様、迂回して我ら上杉勢の背後を突こうとしていた武田騎馬隊は、残らず討ち取ったとの報告が入りました」

「朝信殿は間に合ったということだな」

「武田側大将の飯富虎昌を斎藤朝信殿が討ち取ったとのことです。武田の軍師と思われる山本勘助は鉄砲にて討死。武田奇襲部隊は壊滅」

「わかった。他に武田の奇襲部隊はいないのか」

「斎藤朝信殿が、他に奇襲部隊がいないか周辺を捜索しながらこちらに向かっているとのこと」

「わかった。ならば、我らはやるべきことをやるまでだ。武田との決戦に挑むとするか」

「幸綱」

「ハッ」

「皆を集めよ」

「承知しました」

上杉景虎は、上杉側の諸将を集めた。

「いよいよ、武田との戦いだ。この戦いにしっかり決着をつけ、関東に安寧をもたらさねばならん。皆の奮起を期待する。武田側で降伏するものがあれば丁重に扱え、また暴行略奪は禁止である。そのような真似をしたものは切り捨てる。それは、一軍の将であろうと足軽であろうと変わらん。良いな」

「承知いたしました」

真田幸綱の大きな声に上杉側の諸将も景虎の言葉に同意して頭を下げた。

戦場での略奪行為は、乱取りと呼ばれ戦国の世では当たり前の行為。

しかし、上杉晴景からの指示で上杉家の名の下で行われる戦においては、乱取り行為は厳しく処罰される。

上杉家に新しく加わる者達には、まずそのことが厳しく申し渡される。

新しく加わった者の中には最初不満を言う者もいるが、その様なものには所領没収で放り出されることになるため文句を言うものはいない。

「先鋒は、真理谷武田信隆殿と里見義堯殿、二人に頼もう。しっかりと結果を示せ」

「ハッ、真理谷武田信隆必ずや景虎様に満足していただける結果を示してご覧に入れます」

「ハッ、この里見義堯お約束通り戦にて示してご覧に入れます」

「期待しているぞ」

「「ハッ」」

そして、各々の持ち場へと散っていった。

しばらくして、上杉側本陣から法螺貝の音が鳴り響く。

同時に上杉勢の先鋒に用意された抱え大筒が次々に火を吹く。

抱え大筒から放たれた砲弾が次々に武田の先鋒に着弾。

抱え大筒により崩された武田の先鋒に、上杉側先鋒を申し付けられていた真理谷武田信隆と里見義堯の軍勢が武田に襲い掛かる。

少し離れた後方では、上杉家直轄軍である虎豹騎軍が睨みを効かせる。

真理谷武田信隆、里見義堯が少しでも裏切るそぶりを見せたら武田勢共々討ち取る構えだ。

虎豹騎軍は、油断無く長槍を揃え、鉄砲はいつでも使えるように構えている。

上杉勢の放った抱え大筒の砲撃で混乱状態の武田側からわずかばかりの弓矢による攻撃。

わずかばかりの弓矢では、上杉側先鋒の勢いを抑えることはできない。

真理谷武田信隆と里見義堯もここでしっかりと力を示さねば後がないと考えていた。

上杉家の次期当主であり、関東を任されている上杉景虎の前でしっかりと存在を示しておき、必要とされる存在でなければ、消えていくことになるという恐れを抱いていた。

既に、上杉側が圧倒的に数が多いと噂が流され浮き足だっていた武田側の足軽達。

そこに、抱え大筒による砲撃を受けさらに混乱に拍車をかけた。

そんな状態の武田陣営に上杉勢が雪崩れ込んできた。

武田側は刀と槍で必死に応戦するが勢いの差はどうにもならず、持ち堪えられずに武田の先鋒は崩壊した。

逃げ出す足軽達。

崩れた穴を埋めるように武田の後続が出てくるが、前からは逃げる先鋒の足軽達がやってくる。

前から逃げてくる足軽達が武田の後続部隊の動きを邪魔していた。

そんな混乱状態の武田陣営の様子を見た上杉景虎は、虎豹騎軍の一部を前線に投入する。

そして、前線に投入された虎豹騎軍は、武田勢に容赦なく鉄砲を撃ち込み始める。

無防備な武田の足軽達が次々に鉄砲で倒される。

そのことが一層混乱に拍車をかける。

しばらく鉄砲が撃ち込まれ後続の勢いがなくなると、そこに上杉勢が切りかかる。

武田側の後続の必死の戦いでこう着状態となる。

そこに、景虎の指示でさらに虎豹騎軍が投入された。

後続の虎豹騎軍投入を境に武田勢の勢いはどんどん落ちていき、武田の軍勢は崩壊して散り散りになり逃げ出すことになった。

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