第168話 房総半島攻略戦‘’壱‘’
上杉水軍の鉄甲船と船に積み込んだ大砲により、安房国と上総国の武田水軍はほぼ壊滅状態となっていた。
武田水軍を壊滅させた鉄甲船は、次の出撃に備えて武蔵国に作られた桟橋に係留されている。
安宅船に貼り付けられた鉄板が陽の光を受けて鈍く光っていた。
上杉晴景は、武田を放っておけば今後も調略と策略をめぐらして内部分裂を狙ってくることが予想されるため、房総半島の攻略に着手することを決断した。
総大将を上杉景虎に命じ、上杉勢3万と北条勢5千。
合わせて3万5千で安房国と上総国を攻略をすることとなった。
上杉水軍と今川水軍により軍勢を房総半島に渡すことになる。
既に敵の水軍は壊滅しており、邪魔をするものはいない。
「景虎、武田をこのまま野放しにしておくことはできん。今後の憂いを断たねばならんぞ、放っておけば調略や策略をめぐらし我らの内部分裂を狙ってくる。伊達を唆し、北条を唆す。同じことを繰り返してくるだろう」
「承知しております。ここで完全に禍根は立つべきと思います。ですが、下総はどういたしますか」
景虎は、懸念のひとつを口にする。
「既に古河公方様に下総を鎮めていただくようにお願いしてある。間も無く古河公方様の使者が下総に着くであろう。万が一の場合、この晴景自ら3万の軍勢を率いて下総にあたることにする。心配はいらぬ」
「承知しました。ならば、下総は兄上にお任せします。我らはまず佐貫城を攻略してそこを足場としていきます」
「わかった。良いだろう。もし、海岸沿いに敵が待ち構えていたら、鉄甲船から大砲で攻撃して先に敵を蹴散らせ」
武田側が海から上陸してくる我らを狙ってくるのは当然であり、ならば海沿いで待ち構えている敵を艦砲射撃で蹴散らすのも当然の戦略である。
「承知しました」
軍勢を一度に運べるわけは無いため、数回に分けて上杉水軍が運ぶことになる。
房総攻略第1陣は、海沿いに展開する敵を一掃して後続部隊の上陸しやすくする事が任務となる。
今川水軍の船も借りて1万の軍勢を送り込む。
大将は真田幸綱になる。
房総攻略第1陣1万の軍勢が乗る船は、海を順調に半島に進んで行く。
次第に海沿いの砂浜に広がる松林の中に待ち構える武田勢が見えてくる。
どうやら弓矢を大量に用意しているようだ。
上陸部隊の船に向かい大量の弓矢が降り注ぐ。
上陸部隊は木製の盾を掲げて矢を防ぐ。
木製の盾に矢が次々突き刺さる。
上陸部隊を援護するため2隻の鉄甲船は、海岸に平行するように船の向きを変える。
それぞれの船の側面には10門もの大砲が用意されている。
船団を指揮するのは九鬼定隆である。
鉄甲船を操るのは九鬼定隆率いる九鬼水軍。
「上陸部隊を支援する。大砲打ち方用意。撃て!」
2隻の鉄甲船からの艦砲射撃が始まった。
海沿いの松林の中で待ち構えている武田の軍勢の中に、次々と着弾して大きな爆発と土煙が舞い上がる。
そして多くの兵たちの叫び声とうめき声が響き渡る。
そんな中でも砲弾は容赦なく松林の中に降り注ぐ。
砲弾が着弾するたびに松林の松が倒れて多くの足軽が巻き込まれていく。
松林に大砲の砲弾が打ち込まれると、弓矢による上陸部隊への攻撃が止まった。
松林の地形が変わるほどに砲弾を打ち込んだところで、上陸部隊が松林に殺到していく。
「味方が上陸した。砲撃止め」
九鬼定隆の指示で2隻の鉄甲船は砲撃をやめた。
大砲による砲撃で完全に戦意喪失状態の武田側は、一気に崩されて足軽たちが逃亡を始めた。
上陸部隊を指揮するのは真田幸綱。
「深追いはするな。追い払うだけで良い」
上陸部隊は海岸から少し入った開けている場所に、簡易的な馬防柵を作り後続部隊の到着を待つことにする。
「後続部隊が揃うまでこの周辺を守れ、近づく敵には鉄砲と抱え大筒の使用を許可する。近づく敵は追い払え。直ちに馬防柵を設置せよ」
事前に決められた通りに、鉄砲と抱え大筒で警戒する者たちと簡易的な馬防柵を設置する者に別れて急いで作業が開始された。
そこに物見に出していた真田の忍びが戻ってきた。
「幸綱様、武田の騎馬隊が接近してきております。その数約5千」
「分かった」
「武田の騎馬隊が接近している。鉄砲隊準備せよ」
真田幸綱の言葉に警戒を強める上杉の軍勢。
土煙を上げ接近する騎馬隊が見えてきた。
「まだ撃つな。しっかり引きつけろ」
次第に接近してくる武田の騎馬隊。
上杉の陣営内に緊張が高まる。
上杉家の鉄砲隊は馬防柵の内側で鉄砲を構えて指示を待ってる。
「撃て〜!」
真田幸綱の合図で鉄砲隊の攻撃が始まった。
鉄砲隊の射撃は途絶えることなく続く。
鉄砲の音に驚き暴れる馬。
馬から振り落とされ、鉄砲で撃たれる騎馬武者。
鉄砲の射抜かれ倒れる馬。
二人がかりで抱えている抱え大筒から砲弾が放たれる。
密集した騎馬隊の中で爆発音と立ち上る土煙。
鉄砲と抱え大筒の攻撃で大きな損害を出した騎馬隊は、もはや上杉の陣営に近づくこともできずに散り散りになり引き上げるしかなかった。
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