第166話 天王寺屋の計算
堺は日本有数の交易港であり、年々その規模は拡大の一途。
堺の交易量の増加に伴う、堺の人口も急激に増加している。
多くの人々が通りを行き交い、通りには多くの店が立ち並ぶ。
大陸との交易に伴い、大陸から来たように思われる人々も通りを歩いている。
人々は見慣れているのか振り返りもせずに歩いていた。
他の日本国内とはまるで違う景色である。
その中に堺の豪商天王寺屋津田宗達の店もあった。
「親父様、京の都に
津田宗達の息子の助五郎(後の津田宗及)が店の中に入ってきた。
「店先で大きな声を出すものではない。奥に入りなさい」
父津田宗達に言われ、慌てて店の奥の部屋に入っていく。
「助五郎その話は聞いている。南蛮人の扱うものは興味はあるが様子見だ。今回の南蛮人は、南蛮人の宗教を広めたいらしい」
「南蛮人の宗教ですか」
「将軍様は南蛮人に布教は認めない方針と聞いている。すぐにでも帰ることになるだろう」
「どんなことを言うのか、一度聞いてみたいものですね」
「やめておけ、そこにはあまり深入りしない方がいいだろう。上杉晴景様が以前から南蛮人の宗教は危険だと言っていた。その教えが広まると、その国が南蛮人に乗っ取られ、全ての人々が奴隷にされると言っておられた。南蛮人の宗教はとても耳障りが良く、ゆっくりと効いていく毒のようなものだとも言っておられた」
「奴隷ですか」
「交易船からの話を集めると、かなりの国が南蛮人の宗教が広まったら乗っ取られているようだな」
「それは、恐ろしい話ですね」
「我らは商人ではあるが、利益だけに目を向けるのでは無く、人を見る目を養わなくてはいかんぞ。利益にばかり目を奪われるととんでもない落とし穴にハマることになる」
「分かっております。ところで、その手にしている書状はどこからのもので」
津田宗達は一通の書状を手にしていた。
「上杉様からの書状だ」
堺の豪商天王寺屋の下に上杉景虎から書状が届けられていた。
「親父様、上杉様は何をご依頼ですか」
「助五郎、この度上杉様は関東を制した。今の上杉様の領地は、越後、佐渡、信濃、甲斐、相模、上野、武蔵、越中、飛騨これに出羽の一部を含めれば10か国になる。さらに同盟関係の安東家、今川家を加えれば、その力は圧倒的だ。六角様や三好様でも足元に及ばん。あのかたが本気になれば六角様や三好様でも歯が立つまい」
「親父様が上杉晴景様に賭けことが大当たりだったと言うことですな」
津田宗達は昔を懐かしむような目をした。
「晴景様は、いつも私を驚かせるお方だ」
「それで、依頼の件は」
「おお・・そうであった。大至急、船を作って欲しいそうだ」
「船でございますか」
「安宅船2隻、関船6隻だそうだ」
「それはまた急で・・・」
「この船の依頼は、おそらくそう遠く無いうちに、関東における総仕上げをなされるおつもりであろう」
「関東の総仕上げですか」
「上野、武蔵、相模は上杉領となった。古河公方様の後ろ盾は将軍家と上杉家。関東で残る敵対勢力は安房、上総、下総になる」
「下総は、国内で揉めていると聞き及んでいます」
「それは、上総にいる武田が手を出しているからだ。だが、下総は元々古河公方様に近い存在。古河公方様が間に入れば収まる可能性がある。そうなれば、残るは安房と上総」
「それと船がどう結びつくのですか」
「相模から伊豆を荒らす海賊衆は、安房と上総の水軍衆。つまり上総の武田の指示で伊豆と相模の沿岸を荒らしているわけだ。船を依頼された。つまり武田の海賊衆を根こそぎ叩くおつもりであろう」
「急に船を用意しても戦えるのですか」
「上杉水軍は精鋭だぞ。上杉家と安東家の水軍は、北は蝦夷から南は越前沖まで勢力を広げていて海を完全に牛耳っているぞ。大陸とも独自に交易をしているほどだ」
「大陸と交易ですか、ですが上杉家には割符は無いはず。割符がなければ
「そうか、お前にはまだ話してなかったな。これから言うことは秘密だ」
「はい」
「上杉様は安東様と共に独自に明国北部で交易をされている。相手は女真族。当然、それを知る儂も密かに加わっている」
「えっ・・大丈夫なのですか」
「問題ない。精鋭揃いの水軍衆が護衛について交易をしている。交易には巨大な千石の安宅船が数隻使われている」
「千石の安宅船ですか」
「これだけでも上杉水軍の力が分かるであろう。船が完成したら上杉と熊野の水軍衆が受け取りに来るそうだ」
「上杉はわかりますが、熊野水軍ですか」
「上杉水軍衆には熊野水軍出身が多いためだ」
「な・なるほど」
「助五郎、お前が陣頭指揮を取って至急船を作る手配をせよ。これから先、お前が上杉様との関係を深めていかねばならん。上杉家の次の時代を背負うのは景虎様だ。お前は景虎様に顔を覚えてもらえ。上杉様が安房の海賊衆を制圧されると、三河から北。越前から北の交易路は、全て上杉家と安東家が牛耳ることになるだろう」
「そこに我ら天王寺屋が加わることで、天王寺屋が独占できると」
助五郎の言葉に笑みを浮かべる津田宗達。
「そうだ。だからこそ、最優先で行え。それと、船には少し特別な作りを依頼されている。それも含めて急げ。良いな」
「承知しました。この助五郎にお任せください」
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