第152話 後手後手
相模国小田原城
北条氏康は、古河公方に本格的に圧力をかけていくことにした。
圧力を掛け、圧迫し続ければやがて折れるであろうと見ていた。
古河公方の手足となる関東管領山内上杉、扇谷上杉は既に滅んでいる。
8万の大軍で負けたのだ、他の関東の大名も動きにくいだろう。
その隙に、我が妹の芳春院殿とその子である梅千代王丸を手に入れる。
その後、古河公方家嫡男足利藤氏を廃嫡に追い込み、我が甥である梅千代王丸を古河公方家の嫡男として継がせる。
梅千代王丸が古河公方家を継ぐことで、我が北条家に足りない家格が備わり名門となる。
そうなれば上野国から越後上杉を追い出して関東を統一だ。
北条氏康は、北条家の輝かしい未来を疑っていなかった。
「それでは、直ちに古河公方に使者を送れ、我が妹である芳春院殿とその子である梅千代王丸を一刻も早く北条家に返せと言って参れ」
家老の一人である松田盛秀に命じていた。
「承知いたしました」
松田盛秀が立とうとしたとき、北条綱成が慌てて飛び込んできた。
「氏康様、一大事にございます」
「どうした」
「足利将軍足利義藤様の指示で、次の古河公方は足利藤氏に決まりました。さらに足利将軍足利義藤様から義の字を賜り足利義氏と名乗ることを許されたそうです」
「何だと・・何かの間違いではないか」
北条氏康は思わす大きな声を上げた。
「馬・・馬鹿な・・いくら何でも早すぎる。次の古河公方を足利将軍が後見するなどあり得ん」
「そのあり得ない事が起きております」
「間違い無いのか」
「既に古河公方家に足利将軍家からの使者が到着しているとの報告が来ております。近隣の大名達は既に祝いの席に駆けつけているそうです」
「将軍家の使者だと・・あまりにも手回しが良すぎる。我らに何の情報も与えずに、一体どうやって」
北条氏康にとっては、まさに寝耳に水。
古河公方足利晴氏の側室であり、妹でもある芳春院殿からはそのような事は言ってきていない。
妹の芳春院殿からは、古河公方はいつもと変わらぬ日々を過ごしている。兄氏康からの要求に悩んでいるようだとの文がきているだけだ。
完全に情報を封鎖されて、北条側に情報漏れが無いように徹底されていたようだ。
「どうやら越後上杉家上杉晴景が動いた様でございます」
「上杉晴景だと」
「古河公方領内で手に入れた話では、5月〜6月にかけて、上杉景虎が越後国春日山城に戻りしばらく戻らなかった時期があります。どうやらその時期に上杉晴景・景虎の両名は上洛して、足利将軍足利義藤様に拝謁して、古河公方家に関することを将軍家と相談した様でございます。その結果、足利義氏が古河公方家を継ぐことが決められたそうでございます」
「なぜ、上杉晴景が古河公方家に口出しをする。奴は関係ないだろう」
「古河公方足利晴氏の指示で筆頭家臣でもある簗田晴助が上杉晴景に支援を依頼したそうです」
「おのれ、余計な事を」
北条氏康は、怒りのあまり右で握っていた扇子をへし折っていた。
「如何いたします」
「完全にしてやられた。我らには何もできん。足利将軍家が足利藤氏が古河公方足利義氏となることを認めて後見し、それを宣言したのだ。面白くないが、祝いの使者を出して足利義氏に祝いの品と祝いの言葉を送らねばならん。それをせねば、我らはさらに見くびられることになる。これでは迂闊に攻めることもできん。何か攻める口実を作らねばならん」
「お待ちください。今動くのは危険でございます」
「なぜだ」
「武蔵国衆からしばらく戦は控えて欲しいとの声が多くあります。地震の影響で農民が逃げ出し、田畑も荒れ果て戦をする状態ではないと言っております。さらに、上杉晴景はこちらが動く事を待っているフシがあります」
「何だと」
「厩橋城築城で多くの人員が越後領内から上野国に入りましたが、厩橋城完成後築城に関わったもの達は越後に帰らずに、厩橋城と平井城・沼田城に留まっております。その数2万5千。その全てが越後上杉家直轄軍。農民兵はおりません」
「築城に関わったもの達は帰ったはずだ」
「最近知ったのですが、どうやら帰ったふりをして農民や商人姿で戻っていたようです」
「綱成。戦って勝てるか・・・」
「かなり厳しい戦いになるかと。正直、今の武蔵国衆はあてに出来ないかと」
「ならば、こちらも朝廷と将軍家を使うか」
「朝廷と将軍家は越後上杉寄りのようです」
北条氏康は訝しむ顔をしている。
「古河公方家に訪れた将軍家の使者が話していた内容を入手しました。どうやら畿内の三好長慶と幕府との戦いは、上杉晴景の策により三好長慶は足利将軍足利義藤様に従うことになったようです。そのため、畿内の戦乱を収めたことで、朝廷と足利将軍足利義藤様の信任がことのほか厚いとのこと」
「上杉晴景。奴は一体何をしたのだ」
「残念ながら詳細までは掴めておりません」
「ならば、今はジッと我慢の時か・・・しばらく死んだふりでいるしか無いか」
北条氏康は腕を組み眉間に皺を寄せていた。
そんな、北条氏康のもとに隻眼の一人の男が訪れるのであった。
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