第127話 景虎!河越夜戦に出陣(弐)
したたかに酔い潰れていた関東管領上杉憲政の軍勢は、北条氏康の強襲と太田資顕の裏切りにより総崩れとなって混乱状態となっていた。
「扇谷上杉家の上杉朝定様が北条により討たれました」
「な・・なんだと」
扇谷上杉家の上杉朝定が討たれたと聞き驚きを隠せない上杉憲政であった。
関東管領上杉憲政の家臣たちの多くは酒に酔いマトモな反撃ができないでいた。
しかし、その中で長野業正率いるの軍勢は、酒をほとんど飲んでおらず北条勢の攻撃に唯一まともに立ち向かっていた。
しかし、北条の猛攻の前に次第に後退を余儀なくされていた。
「憲政様、このままでは危険です。上野国に撤退いたしましょう」
「馬鹿なことを言うな。この関東管領上杉憲政がここで引くわけにはいかん」
「ほとんどのお味方は酒に酔いまともな戦いが出来ていません。このままでは全滅です」
長野業正の厳しい言葉を聞き、周囲を見渡すとまともに動ける者たちはわずかであることが見てとれた。
そこには多くの味方の屍が転がっていた。
「・・わ・・わかった」
「
「業正、頼むぞ」
慌ただしく逃げる上杉憲政は太田資顕の裏切りに激怒していた。
「太田資顕の奴め、裏切るとは武士の風上にもおけん奴だ。自らの主である朝定を殺すことに手を貸したも同じだ。クソッ・・・氏康め、この借りは必ず返してやるぞ」
逃げる上杉憲政への追撃を長野業正が
長野業正は50歳を越えているとは思えぬ程の武威を北条勢に見せつけていた。
関東管領軍随一の猛将の力を遺憾無く発揮して、北条を押さえながらゆっくりと撤退していった。
夜が明け切らぬ中、勝ち鬨を上げる北条氏康の軍勢。
勝利を確信して気が緩んだその時、越後上杉の軍勢が現れた。
越後上杉勢を見た北条氏康と北条の軍勢は慌てた。
そして、同時に河越城から燃え上がる炎が見えた。
河越城から立ち上る炎を見た瞬間、北条氏康は上杉景虎と越後上杉勢に全ての策が見透かされていたことに気がついた。
呆然とする北条氏康と北条勢に上杉景虎率いる越後上杉勢が襲い掛かった。
上杉景虎は、越後上杉の軍勢に檄をとばす。
「狙うは北条氏康の首一つ、氏康を逃すな」
景虎の檄に応えるかのように鬨の声をあげ猛然と攻める越後上杉勢。
北条勢を攻める越後上杉勢の中でひときわ目立つ男がいた。
越後上杉が誇る猛将鬼小島弥太郎であった。
三十人力と噂されているその怪力により、特注の槍を縦横無尽に振るっている。
通常の槍よりもはるかに太く長い槍。
その槍を枯れ枝を振り回すように軽々と振り回すその姿は、まさに鬼神のごとくである。
鬼小島弥太郎が振るう槍にあたれば、人が軽々と吹き飛ばされる。
返り血で槍が朱槍のごとく染まっていく。
「どけどけ、北条氏康はどこだ〜」
北条勢は必死に行手を塞ごうとするが鬼小島弥太郎の槍に次々に倒されていく。
「景持。弥太郎殿ばかり活躍させておく訳にはいかんぞ。手柄を全て取られてしまうぞ」
甘粕泰重は嫡男の景持に檄を飛ばす。
「弥太郎に負けてられん。我こそは越後上杉家家臣甘粕景持なり。命の惜しくない奴はかかってくるがいい」
甘粕景持は、鬼小島弥太郎に負けじと槍を振るう。
上杉景虎は、馬上で戦場を見渡していた。
数人の家臣に守られて逃げる武将を見つけた。
「奴に違いない。いくぞ付いて参れ」
景虎は、刀を抜いて馬を走らせる。
景虎の後ろを慌てて真田幸綱達が追いかける。
「我こそは上杉景虎なり!北条氏康!その御首級貰い受けるぞ」
馬を走らせる景虎に気がついた鬼小島弥太郎・甘粕景持は、景虎を守るために景虎の進む先へと突き進む。
乱戦状態のその只中に景虎は馬を走らせ突っ込み刀を振り下ろす。
景虎の振るう刃は、北条氏康の兜の前立ての左側を切り落とし左頬に傷を残す。
景虎はそのまま走り抜ける。
再び、北条氏康に向かって行こうとした。そこに、古河公方を攻めていたはずの北条勢である北条綱成が軍勢を率いて駆けつけてきた。同時に河越城を攻めていた越後上杉勢の柿崎景家が景虎に合流してきた。
河越城を見ると完全に炎に包まれている。あの炎ではもはや消火はできまい。
「ここらが引き上げどきか、幸綱引き上げだ」
「はっ」
越後上杉勢の引き上げの法螺貝が吹かれる。
「北条氏康、今暫くの間その首を預けておいてやろう。次に会うときはその御首級を必ずや貰い受けるぞ。ハハハハ・・・」
上杉景虎は速やかに撤退して行った。
後に残った北条勢は、満身創痍の状態であり、重要拠点である河越城は燃え尽きて灰となっていた。北条氏康は、思わず座り込むのであった。
北条氏康は扇谷上杉家上杉朝定を討ち取り、古河公方・関東管領の8万もの軍勢を退けた。しかし、越後上杉家上杉景虎により河越城は完全に焼かれ、氏康が率いていた八千の軍勢は2割近くが討たれ、生き残った者たちも満身創痍であった。この戦の最終的な勝者は越後上杉家の上杉景虎と言われ、上杉景虎の名は関東に広く知れ渡るのであった。
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