第120話 噂話

天文13年11月中旬(1544年)

飛騨国

三木直頼改め姉小路直頼と名を変えたものの、朝廷も幕府もそれを認めようとしていなかった。

朝廷や幕府に多額の銭を配ったが全く反応が無い。

「クソ・・・なぜだ」

「どうやら当家に対する誹謗中傷の噂が京の都に流れている様です」

朝廷や幕府に顔の効く家臣が京の都での状況を説明した。

「誹謗中傷だと」

「はい、朝廷や幕府内はもちろん京の町中まで当家に対する噂話が流れております。無抵抗の姉小路高綱殿をなぶり殺しにしたとか、無抵抗の村民達を村丸ごと焼き討ちにして皆殺しにしたとか、従わない神社仏閣をことごとく焼き討ちにしたとまことしやかに噂が流れている為かと思われます」

「なんだと・・・」

「朝廷の公家衆や幕府の将軍様や側衆もその噂を信じているようでございます。我らが訪れると少々嫌な顔をされてしまいます。噂は根も歯もないものだと説明しておりますがかなり時間がかかるかと思われます」

「誰がそのような噂を・・・」

「口さがない京雀たちにかかれば、火の無いところに煙を立て、小さな蛙を巨大な化け物にしてしまいます。気にしても仕方ないかと思われます。今は噂話に飽きて当家に対する噂を忘れるまでひたすら待つのが良策かと思います」

「噂を忘れるまで待つしかないか・・・」

「それしかないかと、あとは定期的に銭を配るしかありません」

「チッ・・・どこまでも強欲な奴らだ。分かった。銭は何とかする。ならば年貢を少し上げるか・・・」

「では、引き続き朝廷や幕府に姉小路家の名跡継承の働きかけをいたします」

「ウム・・・頼むぞ」



越後府中春日山城

上杉晴景は各地からの報告を受けていた。

「景康、飛騨の三木直頼は、姉小路家の名跡に執着していると言うことか」

「はい、兄上。飛騨の三木直頼は姉小路高綱を討ち取った後、姉小路直頼と名乗っております。さらに、朝廷と幕府に対して姉小路家の名跡の継承を認めて飛騨国司とするように働きかけているようですが厳しいようです」

「なぜだ」

「三木直頼に対する誹謗中傷の噂が朝廷や幕府・京の町に流れている為かと思われます」

「どのような噂だ」

「無抵抗の姉小路高綱殿をなぶり殺しにしたとか、無抵抗の村民達を村丸ごと焼き討ちにして皆殺しにしたとか、従わない神社仏閣をことごとく焼き討ちにしたとまことしやかに噂が流れている為かと」

「噂がどこまで真実か分かるか」

「姉小路高綱殿に関する部分は分かりませんが、村を焼き討ちにしたとか、神社仏閣を焼き討ちにしたとかは無いようです。飛騨北部の江馬殿からもそのようなことは起こってないとの話を聞いております」

「誰かがわざと流したのか」

「誰がそのような噂を流したのかは分からぬようです。ただ、三木殿は姉小路家の名を継ぎ飛騨国司を目指しているため、さらに朝廷や幕府に対して多くの銭をばら撒く様です」

「飛騨国は険しい土地が多い。そこまでの銭が用意できるのか」

「おそらく年貢を上げるようです。三木殿が支配する飛騨南部の村々に年貢を1割増やすとの通達が出ているようです」

「年貢を1割も上げるのか、危険だな」

「この状態が続くなら村を捨てるものが続出するか、もしくは一揆が起きるかどちらかと思われます」

「江馬殿には、三木殿の動きに十分注意を払うように伝えてくれ、それと越中でも飛騨で一揆が起きた場合と三木殿が江馬殿を攻めた場合に対応できるようにしておいてくれ」

「承知いたしました」

「飛騨の動きには十分注意を払ってくれ、三木殿が姉小路家の名跡を認められることになれば飛騨の情勢も怪しくなる。おそらく飛騨統一に向けて動き出しぞ」

「ならば、我らもその噂に便乗して、三木殿の噂を朝廷や幕府に流したらどうでしょう」

「噂が立ち消えにならぬようにすると言うことか」

「噂話に飽きたらその噂は消えて行ってしまいます。ですから定期的に新たな噂を流せば、体裁にこだわる朝廷と幕府はしばらくの間は姉小路の継承と飛騨国司の件は認めないかと」

「なるほど、分かった。噂話で済むなら安いものだ。すぐにさせるとするか」

「景康、引き続き越中を頼むぞ」

「お任せください」

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