第102話 信玄!新たなる野望(弐)
再起を期すためには、まずは領地と兵が必要だ。
そして、里見を屈服させることも!
武田晴信は、
御旗と盾無は晴信の先祖である源頼義が、天皇家から下賜されたのもので甲斐武田家の家宝であり、甲斐源氏武田家の当主としての証でもある。
武田晴信の勢力は、一騎当千の
里見に知られる前に速やかに周辺勢力を飲み込むことが必要だ。
そして、安房国を手に入れ、上総国を手に入れる。安房国と上総国を合わせれば40万石をこえる。甲斐国の倍近い石高だ。
上総国は甲斐武田の家臣達の縁戚も多数いる。真理谷武田の始まりとなる武田信長が甲斐から上総に移るときに同行した甲斐の国衆の子孫も多い。さらにいくつもの勢力が入り乱れていて、切り取るにはまたと無い場所だ。
ならば、夜襲で一気に攻め込み城主を倒し、配下の家臣ごと飲み込む。
「信方」
「ハッ!」
「佐貫城に夜襲をかける。ただし、火は使うな。城を丸ごと手に入れるぞ」
「承知いたしました」
信方が出ていくと、入れ替わりに虎泰が入ってきた。
「晴信様、目通り願いたいと言っておる者がおります」
「誰だ」
「元佐貫城城代加藤入道殿にございます」
「来たか。会おう」
真理谷信隆と対立している真理谷信応の後ろ盾とも言える真理谷全方側国衆だ。
髪を剃り落とし坊主頭の男だ。年は50歳ぐらいであろうか、ただ目つきは鋭い。
「武田晴信である」
「加藤入道と申します。甲斐源氏武田家当主武田晴信様にお会いできて恐悦に存じます」
「ここに来たということは、儂に力を貸すということで良いか」
「ハッ・・・武田晴信様なら上総国をまとめ上げ、上総国の乱世を終わらせることが出来るお方と思い参上いたしました。我が先祖は、武田信長様と共に甲斐よりこの上総にやってまいりました。甲斐源氏の本家である晴信様には、ぜひとも上総の乱世を終わらせ上総に平穏をもたらしていただきたくお願いいたします」
「わかった。必ずや上総国をまとめ上げ平穏をもたらそう。そのためには、我らの武威を示さねばならん」
「武威を示すでございますか」
「そうだ。力を示さねば日和見の者たちは動くまい」
「確かに、ならば城を切り取りますか」
「当然だ。お主が昔城代を務めていた佐貫城を取る」
「承知いたしました。城も周辺の土地も我が庭のようなもの、我が手勢も存分にお使いくださいませ」
「今夜動くぞ、何人用意できる」
「今夜なら百名は用意できます。数日時間をいただければ五百名は用意できます」
「百名用意してくれ、その後周辺を平らげていくつもりだ。残り四百名も動けるようにしてもらいたい」
「承知いたしました」
月が雲間から時折顔を覗かせる深夜。
「よいか!これより我らの再起をかけた戦いが始まる。我らが関東の覇者となる第一歩だ。心してかかれ、抵抗する者は切り捨ててかまわん。ただし、火は使うな。我らの城とするのだ。いいな」
無言で頷く一同。
武田晴信率いいる軍勢が佐貫城に向かって出発した。
時折顔を見せる月が行き先を照らしている。
既に先乗りで甲州忍び達が佐貫城に忍び込んでいる。
城内は寝静まっており完全に油断しきっていた。
甲州忍び達が武田勢が到着したことを確認すると、門番になりすましていた甲州忍び達が城の城門を開ける。
城門が開けられると同時に無言のまま一斉に城内に雪崩れ込んで行く。
軍勢は事前の打ち合わせ通りに、任されたそれぞれの制圧箇所に向かう。
異変に気がついた者が声を上げる。
「敵・・敵襲〜」
声を上げた者はすぐに切り捨てられた。
「歯向かう者は容赦せぬぞ、命が惜しくば刀を捨てよ」
そう声を上げながら、加藤入道の案内で奥に進む。
奥からは刀がぶつかり合う音が聞こえてきた。そして、暫くすると音が止んだ。
奥の部屋には、城代を切り倒した飯富虎昌がいた。
「晴景様、この飯富虎昌が敵城代を打ち取りましたぞ」
「でかした、虎昌。城内の敵方に無駄ない抵抗はするなと触れ回れ」
「承知いたしました」
城代が打ち取られたことを知った者達は、抵抗をやめて大人しく指示に従った。
加藤入道は、驚いていた。佐貫城は常に攻防が繰り広げられる要衝。
真理谷同士の内紛、里見氏、北条氏が常に攻防を繰り広げているため、警戒が厳重なはずであった。
「ここは警戒が厳重な城の一つ。それにもかかわらず、ほぼ被害無くあっさりと落としてみせた。儂らは恐ろしいお方を担ぎ上げたのかもしれん」
加藤入道の呟きは闇に消えていった。
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