第101話 信玄!新たなる野望(壱)
天文9年12月中旬(1540年)
武田晴信は、
甲斐を脱出して山中を通り北条に逃れた。百名ほどで逃れてきたが、後から追いかけてきた家臣達が追いつくと三百名近くになっていた。
暫く相模にいたが、三百名近い武田勢を脅威に感じた北条氏綱により、
いわば厄介払いされたのだ。
たが、武田晴信はこれはまたとない好機と見て、条件付きでその申し出を受けていた。
真里谷氏は甲斐源氏武田家の傍流であり、甲斐武田一族でもあった。
そのため真理谷武田とも言われていた。
真里谷氏は里見氏派と北条氏派で内紛となり始めていた。
北条派は、椎津城の真里谷信隆殿。里見氏派は信隆の弟である
真理谷信隆は長子ではあるが庶子であり、弟の信応は正室の子であるため家督争いでもあった。
真理谷家家督は信隆が継いでいたが、里見氏との戦いに敗れ北条を頼り逃れていた。
やがて北条家と房総の国衆達との戦いが始まり国府台の合戦で、北条が敵側の旗頭でもある小弓公方こと足利義明を倒してたため、信応側の隙を突いて椎津城に戻っていた。
さらに真理谷武田家中に里見氏や北条氏が介入を始めて内紛の火種が大きくなり始めている。
「晴信殿、よろしくお頼みいたします」
目の前で真里谷信隆殿が頭を下げていた。
和歌を好むと聞いていたが、見た感じ武人という雰囲気は感じない。戦は苦手なのかもしれん。
「頭をお上げください。私は北条殿に厄介になっている身。氏綱殿から真里谷殿を助けてやってほしいと頼まれたのです」
「ですが、晴信殿は我ら真里谷武田の本家にあたるお方」
「我ら主従は流浪の身。お気になさらずに、我らがお力になりましょう。必ずや里見の連中を追い払って見せましょう」
「よろしくお願いいたす」
真里谷信隆は深々と頭を下げていた。
武田晴信は、甲斐源氏武田家の傍流である真里谷信隆との挨拶を終えると、用意された屋敷へと来ていた。
「晴信様、なかなか良い屋敷でございますな」
「信方、本家である我らに気を使ったのであろう」
真里谷信隆は、軍勢の数は少ないが本家でもあり北条氏綱殿からの援軍である武田晴信に、かなり気を使い広い屋敷を用意していた。
屋敷の広間には、すでに晴信の側近達が来ていた。
「真里谷信隆殿との会談はいかがでしたか」
飯富虎昌が声をかける。
「上々だ。かなりやり易い相手だ」
「フフフ・・・それはようございました。しかし、一時はどうなるのか思いましたぞ」
「ここは、我らが再起を期す場所だ。里見などの敵対勢力の領地は切り取り放題と氏綱殿の言質と書状をもらってある」
「晴信様、我らに敵対するものは全て切り取ってしまえばいいと言う事ですな」
「ククク・・・里見であろうと古河公方であろうと・・・同族の傍流の家であろうとだ」
「傍流の家は本望でしょうな。偉大なる本家のためになるのですから」
「良いか、我らはこの上総国を切り取り、安房国、下総国を切り取り、関東を丸ごと切り取ってくれる。源氏の本流たる我ら甲斐源氏武田こそが関東の覇者に相応しいのだ。古河公方、関東管領、北条も丸ごと飲み込んでくれる」
「晴信様には甲斐国は狭すぎますな、源氏の本流たる晴信様には広い関東こそが相応しい。武田の騎馬武者を率いて関東の平原を駆ける晴信様が目に浮かぶようだ」
「そのためには、まず力を付けねばならん。ここには海がある。将来、船を使えるようになれば交易で富を得ることもできる。まずはここでの地盤を固めねばならん。そのためには我らの力を示す必要がある」
「里見側の城を取りますか」
「ならば、佐貫城を奪うか、富田郷左衛門!」
「ハッ!」
「佐貫城と周辺を調べよ。準備が出来次第、一気に攻め落とす」
「承知いたしました」
北条氏小田原城
北条幻庵は、北条氏綱の決定に頭を抱えていた。
「叔父上、何をそんなに困っているのです」
「氏康殿か・・・兄上(北条氏綱)にあれほど武田晴信を殺すか閉じ込めておくべきだと言ったにもかかわらず、武田晴信を上総国の
「真理谷殿は武田殿の一族ではありますが、いくつもの勢力に分裂しており、我ら北条に組みする真理谷信隆殿の領地は小さく、我らに頼るしかない程度の力しかありませぬ。問題ありますまい」
「違う!そうでは無いのだ。武田晴信を上総国に送るということは、虎を野に放つことと同じだ。しかも、武田信虎をはるかにこえる虎だ」
「虎を野に放つですか・・・」
「そうだ。人は試練を乗り越え、それを糧とできた時に化けるのだ。上杉晴景との死闘で屈辱を幾度となく舐めた武田晴信は、野に放たれることで恐ろしいほど手強い虎に大化けするだろう。甲斐国を失っているにもかかわらず、武田晴信の下には一騎当千の強者どもが多く従っている。今までの武田晴信とは違うぞ」
「それほどにですか・・・」
「今までの武田晴信は、経験も少なく脇の甘さがあった。だが、甘さを捨てた武田晴信なら少なくとも安房国・上総国は飲み込むだろう」
「里見も手強く強か、簡単には行かないはず」
「だといいのだが・・・場合によっては密かに消えてもらうことも考えねばならんと思っている」
叔父幻庵の言葉に氏康は驚いていた。
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