第95話 長雨や集めて早し信濃川
天文8年7月上旬(1539年)
雨の降らない空梅雨が続いていたが、6月下旬になり徐々に雨が降り出し既に2週間降り続いている。弱いながらも雨が降り続いていた。
空は常に雨雲に覆われ、太陽は姿を見せない。
今朝からシトシト雨が強い雨に変わり城下に降り注いでいる。
暴れ梅雨の様相を見せ始めている。
領内の主な川は、かなり河川改修を進めてきた。
今まで積み重ねてきたことが試されているかのようだ。
直江親綱が長雨の報告に来た。
「晴景様。今のところ越後府中の河川では、土手が決壊した箇所はございません」
「他はどうなっている」
「越中、信濃、出羽庄内でも河川の氾濫は発生していないとのことです。ただ、信濃川が少々危険かと思われます」
「信濃川か・・・」
「土手は切れた箇所はまだありませんが、水が土手から溢れそうな箇所がいくつかございます」
「信濃川の土手をかなり高くしたがそれでもギリギリだと言うのか」
元々の土手を倍近い高さにして、ローマンコンクリートで固めた土手から水が溢れそうな箇所があるらしい。
「分水路が出来上がっていたらまだ違うかと思いますが、分水路が未完成のためこれは仕方ないかと思われます。あとは早く雨が上がってくれることを待つしか無いかと」
信濃川は越後領内だけでなく、信濃国で降った雨も流れ込んでくる。越後領内で雨が上がっても信濃国で降っていたらそれだけで流れてくる水の量が増える。
日本一長い川であり、そこに流れる水も膨大な量だ。
「やれることはやった。あとは待つしかないか」
降り続く雨を見ながら早く雨が上がってくれることを祈らずにはいられなかった。
信濃川下流域
激しい雨の中上杉家の家臣達が見回りに来ていた。
「異常箇所は無いか」
「こちらの土手は異常ありません。ただ、水量がかなりの高さまで来ております。このままでは川の水が土手を乗り越えてしまいます」
そこに、一人の男が慌てたように走ってくる。
「大変だ。大変だ。信濃川の土手を川の水が乗り越えているぞ」
「何!どこだ案内しろ」
激しい雨の中、慌てて家臣達は土手から信濃川の水が溢れている箇所にやってきた。
「これ以上近寄るな。近寄るな。足をとられて流されるぞ。近寄るな、近寄るな。水に飲み込まれるぞ」
家臣達は離れたところから信濃川の土手を見ていた。
信濃川の土手を乗り越えた茶色い水がどんどん流れ込んできていた。
「これは不味い。急ぎ近隣の村々に注意を呼びかけろ。急げ、早く知らせろ」
「越後府中の晴景様にお知らせしろ」
家臣達は、手分けをして村々への注意と越後府中への報告を行うためにそれぞれ走り出していた。
さらに2日経ってようやく雨が止んだ。
家臣達に領内の被害状況を確認させていた。
「親綱、被害状況はどうなっている」
「現在入っている報告では、河川改修を行った川で土手が切れた箇所はございません。しかし、信濃川下流域で水が土手を越えた箇所が三箇所ございます。後は小さな川が結構な数溢れたようです。ただ、民家に影響はございません」
「水に流されたり、家が流された者はいなかったと言うことか」
「はい、人的被害や家が流された者はおりません。多少、田畑が水に浸かったところがございます」
「復旧に人の手が必要な箇所には、虎豹騎軍を使うことを許可する。作物の収穫の見込めないところは年貢を免除。食料が不足するところには食料支援を行え」
「承知いたしました」
かなりの長雨と暴れ梅雨でかなりの被害を覚悟したが、長期間に渡り取り組んできた河川改修が功を奏して被害が最小限で済んだようだ。
多くの河川で土手を高くする。そして、ローマンコンクリートを多く使用して土手を丈夫にする。
さらに、桜の木々を多く植え、桜の根により土手を丈夫にする。
これらの取り組んできたことが無駄でなかったが嬉しかった。
そして、多くの田畑が生き残った。多少なりとも収穫が見込める。
これで飢饉を乗り越えていける。
皆で力を合わせれば乗り越えられるメドがついた。
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