第77話 越中の乱‘’芽生え‘’
天文6年5月上旬(1537年)
越中国、
神通川の西岸の土手から東岸を見るとその様子が見える。
かなりの人数が築城の作業に取り掛かっているのが分かる。
しかも、築城を行なっている範囲を考えると、かなりの大きさのようだ。
築城の速さも、信じられないほどの速さで進んでいる。
領民たちの話では、湊に越後からの船がひっきりなしにやって来て、人と荷物を下ろしていると言っている。
軍勢だけで1万を越えると聞いているのに、さらに船で次々に人が送り込まれて来る。
いったいどれほどの人数を送り込んでくるのだ。
越後上杉勢が築城に取り掛かっている場所は、自分が以前から目をつけていた場所であった。
神通川が東へ大きく蛇行しており、その川筋を城の備えに利用できると見ていたのだ。
あと数年、もう少し力を蓄えたら、あの場所を奪い取り城を築くつもりであった。
あの場所は敵対している越後上杉と椎名家の領地。
ケチを付けても‘’自分達の領地内のことに口出し無用‘’と言われて終わりだ。
せいぜい越中守護である畠山様に、越中の平穏を乱す行為だと言っていやがらせをする程度しか手段が無い。
畠山様も越後上杉とは、事を構えるつもりはあるまい。河内方面での戦で手一杯だろう。
「長職様、これはかなりの大きさの城を作るつもりのようでございますね」
家老の一人である
「そのようだ。狙っていた場所に先手を打たれてしまった。忌々しいがあの場所は、新川郡内だ。やめさせる手立てが我らには無い」
「ですが手をこまねいていたら状況は、ますますこちらに不利となります」
「それは、分かっている。だが、湊でも上杉勢が湊の改修工事をしている。築城の場所と湊で約1万を越える軍勢がいる。我らにはそれに対抗できる力が無い。今は我慢するしかあるまい」
「一向一揆側を焚き付けたらいかがですか」
「一向一揆か・・・だが動くか」
「坊官に利益をチラつかせれば可能性はあるかと」
「しかし、それは危険だぞ。一歩間違えると全てを巻き込む騒乱状態となり、収拾がつかなくなる恐れがる。この越中が加賀の二の舞になりかねんぞ。下手に一向一揆を動かすと我らが一向一揆の風下に立つことになる」
「ですが・・・」
「一向一揆の協力で越中を手にれても、それだけでは済まないだろう。一向一揆側に大きな借りを作ることになり、我らの力と行動が大きく制約されることになる。今は、越後上杉の動きを見るしかない。今は動くな」
家老の寺島職定は、憮然とした表情でする。
寺島職定は元々反上杉の考えの人物であり、越後上杉の動きには強く反発する傾向があった。
「このままでは、越後上杉に越中全てを持って行かれてしまいますぞ。あの築城の大きさ。かなりの大きさですが大きければ時間もかかましょう。いくら越後上杉の兵が銭雇いと言われていても所詮一部でございましょう。あれだけの兵を越中にいつまでも止めておけません。農繁期になれば刈り入れで兵を越後に戻すしか無いはず。長くともあと3ヶ月ほど。そのため越後上杉は急いでいるのでしょう。そこが狙い目になるはず」
「それもそうだが・・・一向一揆側の手を借りるな。危険すぎる」
神保長職は一向一揆は猛毒と同じだと考えていた。適度に上手く利用できる程度の事であれば良薬となるかもしれんが、使い方を誤ると周囲の全てを滅ぼす猛毒になる。
奴らが勝手に動いている時に、協力関係が結べれば対等でいられるかもしれんが、借りを作る形となるとどこまでも譲歩を迫って来るだろう。
一向一揆はあくまでも最後の手段だと思っている。
「いいか、今は何もするな」
神保長職は念を推すように寺島職定に申しつけた。
「承知しました」
寺島職定は、それ以上何も言わずに下がっていった。そして、自らの腹心を呼び寄せた。
「極秘に安養寺御坊の実玄殿に使いを出せ」
実玄は本願寺8代目蓮如の四男蓮誓の次男であり、越中と加賀の一向一揆に大きな影響力を持つ安養寺御坊を預かる人物であった。
「越後上杉の好きにはさせんぞ・・・最後に笑うのは・・・儂だ」
寺島職定はそう呟いて領地に戻っていった。
富山城築城をしている近くに仮の屋敷を作り上げていた。
そこで上杉晴景は、一人の人物を待っていた。
「晴景様、斎藤利基様がお見えです」
宇佐美定満がやってきた。
「通してくれ」
宇佐美定満の後ろから一人の男が入ってっきた。
「
そう男は名乗り頭を下げた。
飛騨と越中国境の
「上杉晴景である。よう参られた」
「お呼びにより参上いたしました」
「斎藤殿、書状でも書いた通り、富山城の築城に力を貸してほしい。頼めるか」
「微力ではございますが、晴景様の家臣として忠節の証として、ぜひお役に立たせていただきたくお願いいたします」
斎藤家の領地は神通川上流にある。
神通川の流れを使い、上流から木材や石材を下流に運搬することができたら、さらに築城速度が上がる。
そのために、宇佐美定満を使いに出し、協力を求めたのだ。
斎藤家にとっても悪い話ではない。木材や石材を売ることができ商売としてうまい話のはず。
越中の国衆や領民には、築城の人夫には通常よりも高い銭を払い、資材はしっかり適正価格で買い取る。
タダ働きや、物をタダで出させることは無い。
それどころか、逆に飯と酒がタダで出る。
城の築城を通じて、国衆や領民を取り込んで行き、越後上杉についた方が得だと思わせれば敵対勢力を弱めることにもつながる。
銭が気軽に稼ぐことができ、銭で気軽に物の売り買いができると分かり、いつでも買えるとなれば一揆の力を大幅に弱めることにもつながるだろう。
そして、敵対勢力でもある富山西部の農民も大量に雇い入れ、それにより‘’天下泰平‘’銭が越中国内で大量に流通し始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます