第76話 富山城築城
天文6年4月下旬(1537年)
上杉晴景は、宇佐美定満、柿崎景家ら虎豹騎軍第一軍・第三軍と共に越中入りしていた。
越中新川郡代椎名長常の居城である魚津城に立ち寄ると、椎名長常が出迎えた。
椎名長常は、こことは別に越中の堅城と言われる松倉城の整備も行っていた。
越中の金山である松倉金山の近くだ。
「晴景様、わざわざ越中においでくださり、ありがとうごうざいます」
「長常殿、元気そうで何より」
「此度は、この越中に城を築くとお聞きしました」
「そうだ。神通川沿いに築くつもりだ」
「わかりました。しかしなぜ急に城を築くおつもりに」
「越中の今は平静ではあるが、この先を考えると安穏としている訳にはいかん。平穏な時ほど先を見すえ手を打たねばならん」
「一向一揆でございますか」
「それもあるが、
「神保長職ですか」
「かなり力を取り戻しつつあると見ている。このまま放っておくと必ずや新川郡を狙い、越中統一を企むと思う」
「言われてみれば確かに、神保長職は数年前には本願寺の内紛で加賀への援軍出兵もしております。力を取り戻しつつあるかと思われます」
「神保長職と一向一揆への備えとして、見るものを圧倒する城を築く」
「承知いたしました。この椎名長常。微力ながらお役に立たせていただきます」
「よろしく頼むぞ」
虎豹騎軍第一軍は、富山の湊へと向かう。
上杉水軍の大型船は、施設が不足しており今のままでは入港できない。
関船を使って物資と後続部隊を送り込むため、受け入れと周辺警戒にあたっていた。
上杉晴景は、椎名長常と虎豹騎軍第三軍と共に築城の候補地に来ていた。
神通川が東に大きく蛇行している場所に来ていた。
「思い描いていた通りの場所だ。川が蛇行した南側に城を築こう。神通川の流れと神通川の水を使い堀を二重にする。城の大きさは東西南北にそれぞれ15町(1町=約110m)ほどの大きさで作る」
「平城で15町!本気でございますか!山城ならともかく、平城でございますよ」
椎名長常が驚きの声を上げる。
「長常殿。儂は本気だぞ。言ったはずだ。見る者を圧倒する城を作ると!」
江戸時代の記録にある富山城の倍以上の大きさ。さらに姫路城の広さよりも少し広い。
高さは流石に姫路城のようにはいかんと思うが、それなりの高さの天守を作るつもりだ。
先月末の重臣たちとの協議で自分の意見を押し通した。
城の大きさは東西南北に15町の広さ。
神通川の流れと水を使い、堀を二重に作る。
本丸に
天守に連結する形で小天守を作り、二の丸、三の丸と
石垣は、土中の水抜きを考慮しながらコンクリートで固めるつもりだ。
この話を聞いた真田幸綱がすぐさま直談判に来た。
自分に城の縄張りをさせてほしいと言ってきた。簡単に言うと城の設計をさせてくれと言うことだ。朝から離れずに懇願してくるため、とうとう根負けしてしまった。
対武田などの備えをしっかりして第二軍と交代してから越中に来いと言っておいた。
他の軍団長たちは呆れて笑っていた。
神通川の土手で出来上がった富山城を想像してみる。
川面に天守を始めとした城の全体が写り、荘厳な景色となっているところを思い描き想像していると、こちらに向かって1頭の馬が走ってくるのが見えた。
「晴景様〜」
自分を呼ぶ声聞き覚えのある声がする。
「まさか!もう来たのか!!!」
「どうやら、そのまさかのようです!」
柿崎景家の少し呆れた声がする。
こちらに駆けてくる馬から少し離れてもう1頭馬が走ってくる。
きっと弟の源次郎だろうな。あいつは兄で苦労するタイプか。
「真田幸綱、ただいま参上しました!富山城のことはこの幸綱にお任せあれ!」
この場所に真田幸綱の大きな声が響き渡る。
信じられほどのバイタリティだな。
この疲れ知らずのエネルギーはどこからくるのやら。
「そ・・・そうか・・よろしく頼むぞ」
「必ずや日の本一の城を作ってご覧に入れましょう」
そこにもう1頭の馬がついた。
やはり幸綱の弟、源次郎であった。
兄幸綱とは正反対に完全に疲れ切っている。
「ハァ・ハァ・・・真・・真田・・・源次郎に・・・ございます」
「源次郎。水を飲め、そして休め」
完全に疲れ切って、馬から降りると立てずに座り込んでしまった。
「景家。源次郎を今日くらいはゆっくり休ませてやってくれ」
「承知いたしました」
幸綱には、暴走しない程度に張り切って頑張ってほしい。
だが、どんでもないものを作りそうな予感がする。
幸綱に任せた以上、後はどうにかなるだろう。
きっと大丈夫だ。きっと・・・。
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