第68話 新生‘’虎豹騎軍‘’

天文5年11月中旬(1536年)

想定を上回る早さで甲斐武田家、相模北条家、駿河今川家による甲相駿三国同盟が締結されたため、将来の危機に対応するため、直轄軍である虎豹騎隊を強化拡大することにした。

屋敷の広間には、重臣や虎豹騎隊隊長達を集めていた。

「皆の申し伝えることがある。虎豹騎隊の名称を隊ではなく軍として、虎豹騎軍とする」

現在1隊二千人で9隊を各隊長が複数の隊を掛け持ち状態となっていた。

これを整理統合増員して生まれ変わらせることにした。

「現在、1隊二千人で9隊編成を見直し、虎豹騎軍1軍団あたり現在の二千名から四千名に増員して五軍団の編成とする」

人数は将来的にはさらに増やすつもりである。

1軍団あたりの人数は、大名の石高の大きさにすると16万石程度の規模の動員数となる。

近いうちに1軍団あたり20万石程度の大名が動員できる人数の約五千人にするつもりだ。

平均的な動員数は1万石で250名と言われている。これ以上農民を徴兵すると領内の生産活動に悪影響が出ることになると言われている。

「各軍団の編成を申し伝える。

  第一軍、軍団長は宇佐美定満。

  第二軍、軍団長は直江実綱。

  第三軍、軍団長は柿崎景家。

  第四軍、軍団長は真田幸綱。

  第五軍、軍団長は斎藤定信とする」

「私が第五軍軍団団長ですか!」

第五軍に斎藤定信を指名したことに、斎藤定信自身が驚いていた。

「そうだ。長年父為景を支えてくれていた斎藤家であれば、直轄軍の一つを任せてもいいと思っていた。定信、引き受けてもらいたい」

「ありがたき幸せ、全身全霊を賭けて努めさせていただきます」

「頼むぞ、期待している」

「ハッ」

斎藤定信の斎藤家は、父為景がどんなに苦境に陥ろうと一度も裏切ることなく支え続けてきた忠臣であり、息子の朝信よりのぶはまもなく10歳になる。息子の朝信は現在越後府中にて毎日学問所で研鑽しており、朝信は将来‘’越後の鍾馗しょうき‘’と呼ばれ上杉謙信の軍事、政治の両面で支えることになる重要な人物だ。

‘’鍾馗‘’とは、魔除け・疾病除けの神を言う。

髭をはやし、片手に剣を持ち、片手で疫病神を押さえつけている姿が有名だ。

「見習いに関しては今まで通り山吉豊守が受け持つこととする」

5軍と言っているが見習いを含めたら実際は6軍体制ではある。

実際の戦の時に国衆の足軽農民兵を集めれば兵力はほぼ倍増することになる。

まさに、戦いは数である。

虎豹騎軍としての軍団としての戦い方、少人数での戦い方などを訓練させていく。

近くに広大な訓練所を作ることにした。訓練用の城や砦も作るつもりだ。

交代で訓練を行い、待ち伏せ・夜襲・欺瞞戦術などのゲリラ戦・籠城戦・各種火器や火薬の扱いについてきっちり教え込んでいくつもりだ。

もちろん今まで通り新田開発、領内の治安維持などもしっかり行っていく。


虎豹騎軍の強化で当面の体制はできた。

諏訪の守りを固めたままにして、待っていては後手に回ってしまう。

このままのんびりしていたら、武田晴信に甲斐を完全に掌握して備えを固める時間を与えることになる。

そして、信濃の国衆に得意の調略をかけて来ることになるだろう。

ならば先手を打って、こちらから積極的に武田に仕掛けることもありか。

「真田幸綱!」

「ハッ」

「甲斐武田が信濃に進出するには、佐久か諏訪を通るしか無い。佐久と諏訪の守りを固めよ。守りを固めると同時に、こちらから甲斐武田家に調略を仕掛けることを許す。武田家中を徹底的に掻き回してやれ。調略用の黄金は全て用意してやる」

甲斐国から信濃に入るには、佐久か諏訪を通るしか無い。三千メートルの南アルプスを越えて木曽から攻めることには無理がある。軍勢が通れる道は限られている。

「承知しました。存分に掻き回してやりましょう。武田家家中では、口には出しませんが信虎追放を怒っている国衆も多いかと思われます。調略にのらなくとも話を聞き、考える者たちもおりましょう」

「武田家中の各国衆に調略の手が伸びているとの噂が出るだけで、武田家中や武田晴信は動揺するであろう」

「なるほど、そうなれば武田家中の者は、疑心暗鬼ぎしんあんきに陥りましょう」

「疑いが疑いを呼び、何でもない事すら疑い出す。人の心に一度疑いの火がつけば容易に消すことはできん。武田家中は大いに揺れ、ひとつにまとまることが出来なくなるかもしれんぞ。武田晴信は父親を追放したばかり、武田家中の動揺はまだ治まっていないだろう。まだ家中をまとめ切れていないであろうから、いまが勝負だ。今をこの時に仕掛けねば甲斐に調略をかける機会を失うことになる」

信虎を追放したばかり、武田晴信はまだ動揺している家中をまとめきれていないはずだ。

いまが仕掛ける時期。今を逃せばこの先、武田家中の切り崩しは難しくなる。

「承知いたしました。武田家中の調略は、全てこの幸綱にお任せください」

真田幸綱は、諏訪の守りを固めて甲斐武田家中を分断すべく、急ぎ佐久へと戻って行った。

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