第50話 軽挙妄動
大宝寺城跡に陣取る砂越氏維の下に、反大宝寺の国衆である
「
「庄内は我らのもの、大宝寺や上杉の出る幕では無い」
「その通りだ。庄内に大宝寺や上杉は必要ない」
「そのお言葉、心強い限り」
「我が安保は農民達をかき集め千人連れてきた」
「我が来次も同じく千人を連れてきた」
「我が砂越は二千集めて参りました。我らで大宝寺と上杉をこの庄内から追い出してやりましょう」
集まってきた足軽達は、皆使い古した甲冑を身につけ、少しサビが出始めた槍を持っている。
砂越の軍勢は、安保氏と来次氏を合わせて四千となっていた。
「安保殿、来次殿、大宝寺は尾浦城に籠っておる。上杉の援軍を待っているのだろう。大宝寺の目の前で上杉を徹底的に叩きのめして大宝寺に見せつけてやりましょう。そして我等こそが庄内の主人だと知らしめてやりましょう」
そこに物見に出していた家臣達が戻ってきた。
「上杉勢四千がこちらに進軍中。まもなくこちらに到着するものと思われます。四千の内、半数が赤備の甲冑を身につけております」
「上杉なんぞ恐るに足らん。何が赤備だ。こけ脅しに過ぎん。戦は力こそ全てだ。上辺を着飾り朱塗りの甲冑などで相手が恐るとでも思ったのか、舐めるなよ上杉」
砂越氏維はギラつく目つきで呟く。
「その通りだ砂越殿、力がないから上部だけ取り繕っているに違いあるまい」
「そうだ、相手を怯ませようという策に違いあるまい」
目前に進軍してくる上杉勢が見えてきた。物見の家臣たちの報告の通り朱塗りの甲冑の赤備が目立つ。
「槍持ちは前に出て構えろ」
足軽達が槍を構えて全面に並ぶ、槍の構える高さや構えは皆まちまちで不揃いである。
上杉勢がゆっくり近づいてくる。
「弓を構えよ・・・放て」
砂越陣営から弓が放たれた。
「かかれ〜」
長槍を軍勢の前面に揃えた砂越陣営の兵が、鬨の声を上げなら上杉の軍勢に向かって駆け始める。上杉勢は進軍を止め、前面の兵達が腰を落として何か棒のようなものを持ち出している。
「ハハハ・・・そんな棒のようなもので戦えると言うのか・・・舐めおって。敵は我らを恐れて動けないでいるぞ、行け行け・・上杉の奴らを一気に突き崩せ・・・それ行け行け」
上杉勢との距離が半町(約50m)ほどに迫った時、轟音と共にその棒のような物の先端から火柱と煙が吹き出してきた。
すると、砂越陣営の最前列にいたもの達が全て血まみれで倒れた。
皆甲冑や兜に穴が空いて、そこから血を流している。
焦げ付くような匂いが風にのって流れてくる。兵達のうめき声が戦場に溢れかえる。
「な・・何が起きた・・・一体・・」
轟音と共に火を吹いた棒のようなものを後ろの者達が別の物に交換して再び上杉の兵が構えた。
再び轟音が戦場に響き渡る。
さらに多くの砂越の兵が甲冑に穴を空けて血まみれで倒れる。
「な・・なんだ・・何が起きている。何で攻撃されているのだ・・・」
凍りついたように動きを止める砂越陣営の兵達。
「止まるな。行け行け・・・行かぬか」
足軽達は、まるで蛇に睨まれたカエルのように、砂越氏維の叱咤にも兵たちの足は動かない。
三度目の轟音が戦場に鳴り響いた。
轟音が鳴り響き、棒のような物から煙と火柱が噴き出すたびに兵が倒れていく。
恐怖のあまり腰を抜かしへたり込む足軽達は、そのまま後ろへと下がっていく。
「な・・何なんだ・・どうなってんだ」
「冗談じゃねえ・・・やってられるか」
「こんな化け物みたいな連中と戦えるか」
足軽の農民兵が一人逃げ出した。一人が二人。二人が三人となり、これが引き金となり次々に農民である足軽が逃げ出し始めた。
「逃げるな・・戦え・・戦え・・どこに行く、戻れ、戻らぬか。貴様ら、切り捨てるぞ」
そんな声は我先に逃げ出す足軽達には届かない。初めて目にした理解できない物への恐怖で、砂越陣営は上杉の軍勢と刃を交えることなく崩壊した。
「逃げるな、逃げるな、逃げる奴は切り捨てるぞ」
刀の刃を向けて恫喝する声を上げても、足軽達の恐怖を抑えることはできず、逃げ出す足軽達を抑えることはできなかった。
「逃げ・・・・・」
再び轟音が鳴り響くと同時に砂越氏維は頭から血を流して戦場に倒れた。
宇佐美定満率いる虎豹騎隊赤備第一軍と共に、庄内の地にやって来た揚北衆二千人は、なすすべなく一方的に鉄砲の的にされ倒れていく砂越の軍勢の姿に恐怖を覚えていた。
「新発田殿・・・ここまで一方的とは・・」
「本庄殿・・儂らはとても恐ろしいものを目にしている。これは儂らの知る戦では無い」
今回は、揚北衆の全ての国衆が同行していた。
全ての揚北衆がこの鉄砲による一斉射撃を目撃している。
戦そのもが大きく変ることを肌で感じていた。
宇佐美定満は、今回揚北衆と共に庄内に入るにあたり、主人晴景より500挺の鉄砲を貸し与えられていた。鉄砲を使い砂越を圧倒し、揚北衆に圧倒的なまでに力の差を見せつけろ、そして、圧倒的なまでの力の差を見せつけることにより、揚北衆の反抗心をへし折れと命じられていた。
晴景より今回の目的は、庄内の制圧と揚北衆へ力を見せつけることであると言われていた。
無理に最上や伊達と戦う必要は無く、向こうから仕掛けてこない限りは放置するように言われおり、揚北衆の態度を見る限り、命じられていたことを達成できたことを実感していた。
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