第41話 羽越同盟

湊安東水軍の敗北を受け、安東尋季はすぐさま湊安東家の取り込みを始めていた。

檜山安東、湊安東の主な国衆を檜山城に呼び集めた。

「湊安東家の安東宣季殿は、我らの止めるのも聞かずに越後上杉家に勝手に戦いを挑み、敗北し亡くなった。湊安東家の嫡男も一緒にこの戦いで亡くなり、湊安東家を継ぐ者は既にいない。それ故、湊安東家当主はこの尋季が引き継ぎ、檜山家と統合するものとする」

湊安東家と檜山安東家を統合して、檜山安東家が全てを取り仕切ると宣言した。

「ふざけるな!」

「いつ我らが配下に降ると言った」

一人が尋季に斬りかかろうとした時、周囲の襖が開かれる。そこには、弓を構えた檜山安東家の家臣たちがいた。

一斉に放たれる矢でその男は全身を矢で射抜かれ床に倒れた。

「不満があるならば遠慮無く言ってもらっていいぞ」

凍り付いたように動きを止める国衆。

「領地に戻って戦支度をしてもらってかまわんぞ、此度の上杉攻めで湊安東の国衆は皆それなりに被害を受けておろう。無傷の我らと戦えるかな・・・」

「しかし・・・いくら何でも」

「言っておるではないか、気に入らなければ領地に帰って戦支度をされよと、帰ることは妨げんぞ。それとついでに言っておくが越後上杉家とは同盟を組むつもりだ」

「・・な・・何ですと・・・」

「越後上杉家はお前らが考えているような柔な相手では無いぞ。無傷の湊安東と檜山安東が束になっても勝てん相手だと見ている。そんな相手によく調べもせずに戦を挑む方が悪い。それゆえ止めたにも関わらず、無視して戦いを挑んだのはお前たちだ」

「・・ふざけるな、失礼する」

三人の国衆が出ていく。

三人が城門まで来た時、目の前の光景に唖然とした。

城門から城下に向かう道の両側に甲冑で身を固め、完全武装状態の兵たちが整列していた。

「おやおや、お早いお帰りで」

「片・・片野殿・・・・・」

「今城門を出られると敵とみなします。ですが檜山城下を離れるまでは攻めませんのでご安心を・・・できるだけ急いで領地に戻りなさいませ。尋季様から出陣の命が下れば直ちに皆様の元に向かいます故」

へたり込む三人。

檜山城に来ず、檜山安東に反対を唱える国衆には直ちに討伐隊が送られ潰されていく。

越後上杉水軍との戦いで、湊安東家は当主と嫡子の二人が亡くなり、配下の国衆も中心となるものが多く亡くなっていたため、強い抵抗もできずに次々に制圧された。

檜山安東家が湊安東家を完全に支配下に収め戦国大名としての地盤を固めることになった。

「ようやく・・ようやく・・・念願の安東家の統合ができた」

安東尋季は悲願の一つが成就したこの喜びを噛みしめていた。

「次は、津軽の奪還ですな」

「奥平。焦る必要は無い。まず力をつけ、周辺を制圧し出羽北部を完全に抑えてからだ。それには、越後上杉と同盟を組み、越後上杉を手本として力をつけることだ」

「越後上杉を手本としてですか」

「全て上手くいくわけではないが、手本とすることで得るものも多かろう。越後上杉の飛躍の要因は領地の開発による国力の底上げにあるとみている」

「領地開発でございますか」

「そうだ・・・ここ出羽北部で飛躍の鍵を握るのは・・・その昔、多くの銅を産出したと言われている尾去沢とその周辺に可能性があると考えている」

「可能性があるのですか・・・」

「片野に調べさせているが、実際採掘してみなければわからんがかなり有望そうだ。上杉を真似て鉱山開発を考え、昔掘っていた鉱山周辺を探させた甲斐があったというものだ。金、銀、銅全てが取れそうだ」



越後府中

安東尋季より書状が届いた。

「ほ〜・・・親父殿、安東家が我ら越後上杉と同盟を結びたいそうだ・・・」

「安東家との同盟か・・・」

「お互いの領国への不可侵とお互いの船の自由往来が軸だな」

「その程度なら、実質的に行われているぞ・・・」

出羽国と越後国を境に北の海を安東。南は能登までの海を上杉。領海を分け合いながらお互いの船は邪魔されずに自由に往来している。

これで能登から蝦夷までの海は、越後上杉家と安東家が協力して牛耳ることになる。

約束通り、蝦夷との交易を安東家が仲介してくれて交易が始まっている。

大陸の豆満江での交易は来年春からと決まった。大陸との交易に合わせて千石を超えるの大型の安宅船を3隻作らせている。出来上がりが楽しみだ。

大陸との交易の時には、高麗人参を含めた日本にない生薬の苗や種をできるだけ手に入れたい。

そして、今作っている上杉家直営の薬草園で栽培させたい。

「安東家としたら同盟関係を内外に示すことが重要だろうな」

「なるほど、他国への牽制にもなるしな・・・・」

「軍事的な面よりも経済的な面を重視しているようだ」

「ほ〜此方を真似る・・・と言うことだな」

「鉱山開発をしたいから技術指導をしてくれと言ってきているな」

「有望な鉱山があると言うことか・・・」

「これから大陸との交易もあり、何かと協力し合うことになる。鉱山の技術指導はいいだろう」

「此度の佐渡沖での海戦で、火薬や鉄砲の存在を安東側が知っているであろうから、そのうちに言ってくるぞ」

「しばらくしたら、同盟相手であるから火薬や焙烙玉は売ってやってもいいが、鉄砲や大筒はまだダメだな。まだすぐに売るわけにはいかん」

「・・そうなったら、天王寺屋との調整が必要だろう・・・」

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