第37話 試作品

大永8年5月下旬(1528年)

いよいよ鉄砲の試作品が完成したとの報告が入った。

急ぎ鉄砲工房に向かうと既に試し打ちの用意をして待っていた。

「平助、完成したのか」

「晴景様、これでございます」

鉄砲職人となった平助が1挺の火縄銃を渡してきた。

ずっしりとした重さが伝わる。

銃の土台となる木製の銃床に上杉家の家紋‘’竹に雀‘’の家紋と長尾家の‘’九曜巴‘’が掘り込まれている。

銃床の部分は南蛮人より手に入れたものよりも少しスリムになっていおり、小柄な日本人の体型に合わせて扱いやすくなっている。

「試作品は3挺できております。何度も試し打ちをしており問題ございません」

火縄銃を手に入れてから2年近い歳月が流れていた。

職人たちは、実に誇らしい表情をしている。

「試し打ちをしたい。できるか」

「問題ございません。こちらに」

木製の台の上に1挺の火縄銃が置かれている。

「火薬と弾丸は既に詰めており、火縄に火種も点してございます」

半町(約50m)先に甲冑が用意されている。

平助の指示に従い火縄銃を構える。

火蓋を切り、引き金を引く。

黒色火薬の爆発音と衝撃が腕と肩から体全体に響き渡る。

目標の甲冑を持って来させるとしっかりと貫通していた。

甲冑の鉄の厚さは、1ミリ〜2ミリ程度。これ以上厚くすると、重すぎて動くとこがままならない。事実上、普通の甲冑ではもはや銃による攻撃を防げないことを意味している。

城攻めの時に火縄銃の銃撃を防いで突撃していく時に、よく竹の束を持って突進していくシーンがあるが、鉄砲が普及した頃、通常足軽が使う口径11ミリの2匁半の弾丸であれば貫通できないが、大型の口径15ミリの6匁の弾丸からは貫通するようになる。

よく言われる弱点は雨だが、自分の考える最大の弱点は、雨よりも狙い撃ちができないことだ。

火縄銃は、ライフリングが刻まれていない滑空砲だ。ライフリングとは銃身の内側に溝を刻み込み、溝に沿って弾丸を回転させながら打ち出すことにより直進性と飛距離を与えるものだ。

ライフリングが無いから、長距離の目標になると玉がどこに飛んでいくか分からんから当たらん。まるで野球で言う変化球のナックル、サッカーで言えば無回転シュートのように一定距離まではまっすぐ飛ぶが、その先はどう変化するか誰にもわからん。

それなら、ライフリングを刻めばと考えがちであるが、そもそも構造上の問題で火縄銃にライフリングを刻むことはできない。

ライフリングを刻めるのは、弾丸の後詰め方式の物だ。

火縄銃は銃身の先端から弾丸を詰める先詰め式。

後詰め式の弾丸はライフリングの刻まれた銃身よりほんの僅かだが大きい。

僅かに大きく作られた弾丸を黒色火薬の爆発力で打ち出すと、弾丸はライフリングの溝に沿って変形しながら回転力を与えられ真っ直ぐに飛び出すのだ。銃弾に刻まれる線条痕と呼ばれるものは僅かに大きい銃弾がライフリングにより変形した跡のことだ。

つまり火縄銃にライフリングを刻んでも、弾丸が銃身に入らんことになる。入る大きさならライフリングを刻むこと自体が無駄ということになる。ただ、ライフリングが無い方が破壊力は大きい。集中運用が前提なら問題ないと言うことだ。

100挺、200挺、300挺と一斉に使用してこその火縄銃だ。遠くにいる特定の個人を狙撃をしても、まず当たらん。できるとしたら人間業じゃない。

ライフリングに関してはしばらくしたら、薬莢や雷管のおおよその知識はあるからゆっくり研究して行こう。

火縄銃は数を揃えて一斉射撃による面の制圧に使ってこそ効果がある。

「・・晴・・・・晴景様・・」

自分を呼ぶ声に我に帰る。

「この威力に我を忘れておった。約束通り褒美を取らそう。銭100貫文と家臣として取り立てよう。鉄砲座を作り鉄砲座の所属とし、鉄砲の製造に取り組んでもらいたい。平助、お前は天王寺屋から来たがどうする」

「わたくしもお仕えさせていただきたいと思います」

「わかった。天王寺屋には秘匿期限を過ぎたら、製造技術を指導してやることにするか。鉄砲は月に何挺できる」

「今の体制ですと50挺でしょうか」

「必要な人の手配をするので、月に100挺以上製造できるようにしてくれ」

「承知いたしました」

「それと、鉄砲を大きくしたものを作ってくれ。城の城門程度は一撃で破壊できる威力のものが欲しいな」

「承知いたしました。時間はかかるかと思いますがやらせていただきます」

次は、量産化が開始されたら虎豹騎隊と水軍で鉄砲隊を組織して運用をしていくことになる。これでさらに軍事力の強化につながる。

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