第26話 虎豹騎隊

大永6年11月上旬

冬入り寸前の越後府中。

虎豹騎隊は6千人になっていた。そろそろしっかりした組織にする必要がある。

親父殿、直江親綱と息子実綱、宇佐美定満、蒲原郡郡代であり三条城主山吉政久共に協議をすることにした。山吉政久は父の古くからの家臣であり、息子は謙信の元で最初の筆頭家老となる豊守。親子揃って我らを支える重要な人物だ。

「虎豹騎隊も6千人になった。そろそろ組織の頭を決めていきたい」

「そうだな。具体的な案はあるのか」

親父殿が問いかけて来る。

「千人で一つの部隊として、2〜3の部隊で大きな部隊として頭を一人置く形にしていきたい。現状6千人のうち、精鋭と呼べるのは2千。冬に間に鍛えれば上げれば精鋭と呼べるのが2千。残りはまだまだこれからとなる」

「頭をどうする」

「虎豹騎隊第一軍の隊長を宇佐美定満。虎豹騎隊第二軍の隊長を直江実綱としてそれぞれ2千を預ける。まだまだの2千は山吉政久の指揮のもと訓練と各種普請を行なってもらいたいと考えている。そして精鋭と呼べるほどになったら部隊を増やして行く。指揮命令の筆頭は親父殿として親父殿の命令が最優先となる。虎豹騎隊第一軍、第二軍共に赤備の甲冑を与えることにする。それ以外は通常の甲冑として扱う」

「それでいいだろうが、儂の次の命令権は晴景お前が持たねばならんぞ。虎豹騎隊を作ったのはお前だぞ。いいか、人に丸投げするなよ。虎豹騎隊を作った者としての責任を果たせよ」

「ハァ〜・・・分かったよ・・・」

組織化したら親父殿に丸投げするつもりだったのに、先に言われてしまった。

「春になったら信濃国善光寺平に高梨家と共に砦を作る。砦は邪魔が入らぬうちに素早く作る必要がある。最初は簡単な作りで良い。出来上がったら虎豹騎隊千人を交代で常駐させる。常駐するようになってから随時砦を強化して、最終的には城のようにしてしまうつもりだ」

青海黒姫山の石灰でコンクリートを研究させている家臣から、使える段階になったことの報告がきていた。固まる速さもそれなりに早いようだ。善光寺平で使ってみるのも面白いかもしれん。

「善光寺平に何故砦を作るですか?」

山吉政久が理由を尋ねてくる。

「理由の一つが高梨家の支援。高梨家が最近、周辺の信濃国衆からの圧力に苦しんでいる。高梨家の弱体化は国境の近い越後府中としては大問題であり、看過できん。

理由の二つ目が信濃国衆に我らの武威を示し、高梨に何か仕掛ければ我らが介入するぞと示すことにある。

理由の三つ目、これが大切だ。信濃国衆に我らの存在を常に意識させる。そして潤沢な資金力を見せつけ、北信濃に我らの新しい貨幣‘’天下泰平‘’を流通させ、北信濃の国衆を我ら無しでは成り立たなくさせる。経済的に我らに依存しなくては、領地の運営もままならなくするのが目的だ。つまり銭の力で北信濃を刈り取ることが最大の目的だ」

一同呆気に取られた表情で晴景を見ている。

「銭の力で北信濃を刈り取るのですか・・・」

驚いた表情の山吉政久が聞いてきた。

「多少は戦も起きるだろうが、できるだけ無駄な戦をぜずに済ませたい。どのみち我らの貨幣を使うようになればこちらに依存するようになる」

「なんとも凄まじいことを考えるお方ですな・・・」

「まったく、我が倅ながら、いつもとんでもないことを考えだす奴だな・・・」

「無駄な血を流さずに済めばいいじゃないか」

「まっ・・・それはそうだが」

「宇佐美定満、直江実綱、山吉政久。3名には虎豹騎隊の件しかと申し付けたぞ」

「「「ハッ、承知しました」」」



直江親綱、直江実綱、宇佐美定満、山吉政久の4名が別室にて協議していた。

「ここ1年半あまりの晴景様の活躍は驚くべきものだ」

山吉政久の言葉に頷く一同。

「佐渡を切り取ったときにも同行していたが、まるで先々のことがわかっているかのような動きをしておられた」

直江親綱は思い出すかのうに話す。

「上条定憲殿の反乱も事前に知っており、準備が整う前に兵を上げるしかないように追い込んだうえで倒された。謀反なんぞ企んでもすぐに露見してしまうであろう。晴景様の情報を得る力は恐るべきものだ。晴景様の情報を得る力、そしてそれをまざまざと見せつけられた我は、生涯忠誠を誓うのみだ」

「宇佐美殿、それほどなのか・・・」

「山吉殿。晴景様は、配下に日の本一とも言えるほどの数の忍びの集団を抱えておいでだ。百人をはるかに超える凄腕の忍びを、直属の家臣として抱えておられる。実際何人の忍びを抱えておられるか晴景様以外は誰も知らん。忍びの目は越後、佐渡だけではない。近隣諸国にまで及んでいるだろう。晴景様が動くときは、事前に忍びが動いている。おそらく此度の信濃国に関しても既に手を打たれておいでであろう。晴景様は忍びたちを軒猿衆と呼んでおいでだった」

「軒猿衆・・・」

「実綱!」

「ハッ・・父上・・なんでしょう」

「この場での話をよく覚えておけ、そして決して他言せぬように」

「わかっております」

「晴景様は我らとは違い、はるか先のことまで考えておられるようだ。その上で一手一手を打たれている。まさに驚くべきことだ。我らは晴景様を盛り立てていくそれだけだ」

一同は頷き、さらに今後の打ち合わせを続けていた。

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