第25話 銭配り

大永6年10月下旬

秋も深まり越後府内は新田開発もあり、大豊作となっていた。

そんな中、父為景が国衆を招集し越後府中に国衆が集まってきていた。

国衆は越後府中に着くなり、あまりの変貌に驚嘆の声をあげていた。

「以前はこれほどに賑わっていなかったぞ・・・」

「なぜ、これほどまでに・・・」

「商人の店がこれほど多くあるとは・・・」

「あれが、噂に聞く赤備の虎豹騎隊か・・・」

「なんで、これほど人の往来があるのだ・・・」

「港が大きくなっているぞ・・・」

「以前は、ここまで船はなかったぞ・・・」

国衆は屋敷の広間に入ってきてからも、越後府中の変わりように噂話が絶えなかった。

国衆の噂話がひとしきり治まったところで親父殿と一緒に広間に入っていく。

親父殿は広間奥の中央に、自分は横に座る。

「皆、よう集まってくれた。今後のことで大きな発表がある」

国衆は皆静まり返り何が話されるのか注目している。

「晴景、皆に話してくれ」

「ハッ・・それでは、この晴景より説明させてもらう。本日より新たな銭を越後領内にて発行いたす」

「銭でございますか?」

上田長尾家の長尾房長が聞き返してきた。

「そうだ、銭だ。今現在、明国から宋銭や永楽銭を輸入して使っておる。だがこれでは不便この上ない。これからさらに発展していくためには自前の銭が必要だ。そこで新たな銭を作ることにした。通称を天下泰平銭。宋銭などと同じの銅銭、さらにその上に銅銭200文にあたる銀銭。金銭1分金、金銭5分金、金小判、金銭大判を作る。金大判1枚は金小判10枚にあたり、金小判1枚は銀大銭10枚、金銭5分金は2枚で金小判1枚、金銭1分金は10枚で金小判1枚とする。簡単に言ってしまえば金小判1枚は銭2貫文ということだ」

国衆は新しい銭と言われてもピンとこないだろう。

「弥次郎、配ってくれ」

家臣たちが一斉に用意しておいた銭を国衆一人一人に配り始めた。

三宝に和紙を敷き、その上に金小判50枚、五分金40枚、一分金20枚、銀大銭20枚、銀小銭10枚乗せ、さらに別に銅銭千枚を紐に通したもの(銭1貫文)も配っていく。

「今配ったのが新しい銭だ。国衆の皆に差し上げる。今日おいでいただいた皆にお持ち帰りいただいて良い。自由に使ってくれ」

国衆は恐る恐る手に取り眺めている。

「さらに各国衆一人一人に儂から金大判2枚差し上げよう」

親父殿が立ち上がり国衆に向かい歩いていく。その背後には金大判を乗せた三宝を持った家臣が付き従う。

親父殿は国衆一人一人に声をかけ金大判を2枚配っていく。

「中条殿、貴殿の働きには感謝しておる。儂からの感謝の気持ちだ受け取ってくだされ」

「おお、これは本庄殿、貴殿の武勇をいつも頼りのしておりますぞ。これを受け取ってくだされ」

「貴殿の働きにはいつも感謝しておる・・・・」

国衆に中には感動のあまり涙を見せるものいた。領地の小さな国衆にはかなりの大金。苦しい台所事情のものも多い。そんな国衆からしたら恵みの雨のようなものだろう。

受け取った国衆は‘’天下泰平‘’の文字と長尾家の‘’九曜巴‘’の刻印されてる金大判の輝きに魅入られたように見入っている。

今日の銭配りで一人当たり現代の価値で約2千万円ほどの銭を配った計算になる。

越後府中の商人たちには事前に新貨幣のことは通知してあるから混乱は起きないだろう。

希望する商人には事前に両替して渡してある。両替で手に入れた状態の良い宋銭や永楽銭以外は全て鋳潰して天下泰平銭に作り替えてしまう。作り替えることでかなりの儲けにもなる。

商人たちには、宋銭、永楽銭以外のビタ銭は‘’天下泰平‘’銭といつでも交換すると言ってある。

「今の越後府中には多くの店が商売しておる。覗いてみて気に入ったものがあれば、その銭で購入するもよし。領地に帰った後使うもよし自由にされよ」

銭を受け取った国衆は、さっそく越後府中の街へと向かった。



「豪気なものだ。さすが守護代殿だ」

ほとんどの国衆が屋敷を出たが親戚である信濃国中野の国衆である高梨澄頼は残っていた。

「澄頼殿如何された」

「少々頼みがある」

「分かった。ここでは込み入った話もできん。奥へ行こう。晴景もついて参れ」

親父殿、自分、高梨殿の三人は奥の部屋へと移動した。

「頼みとは?」

「今倅である政頼が高梨家当主になっておるが、この先周辺の信濃国衆からの圧迫が増してくることが予想される。特に村上と善光寺平(現在の長野市)の支配を巡り対立している。父である政盛の時代であれば跳ね返すこと出来たかもしれんが今はもうそこまでの力は無い」

高梨家は親父殿にとっては大事な縁者。大永4年には、周辺の信濃国衆の圧迫で一時的に領地を追われる事態となったが、親父殿の支援を受け敵対勢力を打ち破ることに成功。領地を奪い返すことができた。

「高梨が弱くなるのは困る・・・晴景どうする」

「いくつかありますが、まず高梨家に資金を出し、その資金で領地開発と兵力の底上げを行う。善光寺平に砦か城を築き、我らの虎豹騎隊を交代で常時善光寺平に常駐させることで、我らと高梨家の絆を周囲の信濃国衆に見せつけることでしょうか」

「それだと、周囲の信濃国衆が反発するのではないか」

「何もしなければしなければしないで、いつか再び高梨家の領地が狙われるだけ。反発されても領地が守れるのであれば、良いのではないですか。それに我らの力を信濃国衆に誇示できる」

「なるほど・・・澄頼殿、晴景の策はどうであろう」

「それでお願いしたい。倅の方は儂から説得する」

「間も無く冬になる。砦は雪解けと同時に工事を行い。虎豹騎隊千人を常時詰めさせましょう。虎豹騎隊が詰めてから砦の改修工事をさせて強化すれば良いので、邪魔が入らぬように最初は簡単な作りで素早くやりましょう。当座の資金として金小判100枚(約2千万円)をすぐに出します。そして雪解けと同時に虎豹騎隊千人を送り、同時に金小判1000枚(約2億円)を資金として高梨家に出しましょう。この資金で領地開発と兵力の拡充をしてください。虎豹騎隊にも周辺の新田開発をさせましょう。虎豹騎隊は普段から新田開発をさせてますから問題ないです」

春から信濃国に進出するための、足場となる砦を確保できることが決まった。

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