第20話 火縄銃

大永6年7月(1526年)

前触れもなく突然天王寺屋津田宗達がやってきた。

「宗達殿、久し振りだな。わざわざ越後までどうした」

「ハッ、ご依頼の南蛮人の使う武器を手に入れることが出来ましたのでお持ち致しました」

津田宗達は、連れてきた店のものに命じて少し大きな長方形の木製の箱を出してきた。

「なんと・・・もう手に入れたのか・・・あと1〜2年はかかるかと思っていたぞ」

「運がようございました。呂宋の地で手前どもの者が偶然南蛮船を見かけ、南蛮人の船員が持っておりましたので交渉いたしました。結果3丁だけ手に入れることができましたので取り急ぎお持ち致しました」

津田宗達はそう言って木箱の蓋を開けた。

中には、間違いなく火縄銃が3丁入っていた。

「晴景様、この津田宗達。お約束通り向こう10年秘密を守ことをお約束いたします。その証として信用のおける腕利きの刀鍛冶を1名連れて参りました」

腕利きの刀鍛冶を連れてくるとは、この3丁を元に複製を考えていることに気づいているようだ。

「フフフ・・・刀鍛冶か・・・」

「この3丁を元に製造技術を見つけ出し、大量生産されるのでしょう。ぜひこの天王寺屋も加えていただきたく」

「抜け目無いな、しかしその刀鍛冶は信用できるのか。その刀鍛冶は秘密を守れるのか・・・」

「平助と申す刀鍛冶ですが、堺周辺でも指折りの刀鍛冶で信用のおける男でございます。平助!」

津田宗達の後ろに控えていた若い男が少し前に出る。

「平助と申します。御許可出るまでこの件は他言致しません」

「いいだろう・・・向こう10年はこの越後領内でのみ製造とするぞ」

「承知いたしました」

越後領内からも信用のおける刀鍛冶を集めて、研究をさせる必要があるな。

警戒を厳重にして、当分の間秘密が漏れないようにしないとだ。

「晴景様、この南蛮人の武器をなんと呼びましょう」

「そうだな、鉄の筒から石のような鉛の球を飛ばすから鉄砲とでも呼ぼうか」

「鉄砲・・・承知いたしました」

「与四郎はおるか」

「ハッ・・・ここに」

「府中の腕の良い刀鍛冶を何人か集めよ」

「承知いたしました」



晴景は父親の為景と津田宗達、刀鍛冶職人、軒猿衆からは千賀地保長と藤林長門を含めた忍び数名達と共に、府中から少し離れた山中にやってきた。

「晴景様、では平助が鉄砲の試し撃ちをいたしましょう」

「ウム・・・頼む」

半町(約50m)先に甲冑を用意してある。

平助は落ち着いて鉄砲に火薬と鉛球を込め、火縄に火を着ける。

ゆっくりと鉄砲を構え、甲冑に狙いを定める。

周囲には府中の刀鍛冶職人3名が見つめている。

平助が引き金を引くと鉄砲の先から轟音と共に火を噴いた。

家臣そして刀鍛冶職人たちは、驚き、そして、腰が抜けたのかへたり込んでいる。

「甲冑を持って参れ」

「・・・・・」

「どうした!」

「ハッ・・・ハイ」

家臣達は慌てて的になった甲冑を取りに行く。

運んできた甲冑を見ると胸のど真ん中に穴が空いている。

「良く見よ、これがこれからお前たちに取り組んでもらう鉄砲の威力だ。鉄砲の扱いに慣れたらこの3倍から4倍の距離で同じように甲冑に穴を開けるぞ」

刀鍛冶職人は穴の空いた甲冑と鉄砲を驚きを持って見ていた。

「晴景・・・これは凄い威力だな・・・」

「親父殿、これを領内で作り出すことができたら我らの敵はいなくなる。ただ、南蛮人の国で作られたものだ。同じものを作り出すのに時間がかかるだろう。1年〜2年はかかるだろうとみている」

「なるほど、すぐにでも使いたいが晴景の言うことももっともだ。時間が掛かるであろうな」

「府中に工房を作り、開発させたいと思う」

「わかった。晴景に任せよう」

為景の言葉を受けて刀鍛冶職人達を見る。

「ここに3丁ある。分解して構わん。堺からきた平助と共に力を合わせて同じものを作り出してくれ。必要なものは全て言ってくれ、全て用意する。工房もこちらで用意する」

「晴景様、承知いたしました」

職人たちは一斉に頭を垂れた。

「良いか、これは重要な秘密事項だ。外部への鉄砲に関する事項の一切を漏らすことを禁ずる。この広い日の本の国に鉄砲はまだこの3丁しか無い。特に、鉄砲の構造、これより開発する鉄砲の製造法、鉄砲の部品、鉄砲そのもの本体。外部に漏らせば命は無いと思え。その代わり、開発に成功すれば一人銭100貫文の褒美を与えよう。望めば家臣として取り立てても良いぞ。皆頼むぞ」

晴景は、軒猿衆の千賀地と藤林に顔向け

「鉄砲の開発工房に関係ないものたちが近づかぬように、また鉄砲に関する事項を盗み出すものが出ないように工房周辺の警戒を軒猿衆で行え」

「「承知いたしました」」

ここ越後における鉄砲開発がいよいよ始まった。



軒猿衆忍び屋敷

鉄砲の試射の後、府中の忍び屋敷に晴景と千賀地、藤林がいた。

「鉄砲の開発工房であるが、軒猿衆の集落内の空き住居を使おうと思う」

府中近くの軒猿衆の集落には、増員を見込んで余分に住居などを作ってある。

そのうちから工房や職人の住居を充てるつもりだ。

「なるほど、我らの集落内であれば自然と監視の目も行き届きやすくなりますな」

晴景の案に頷く藤林。

「そうだ、油断は禁物だが、何かあればすぐに対応できるだろう」

「晴景様」

「なんだ、保長」

「煙硝の件でございます。先日、煙硝を取り出してみたところ以前のやり方の10倍近い取れ高となりました。このやり方であれば領内で大量生産可能かと思います」

「そうか・・・出来たか」

嬉しそうに頷きしばし考えていた。表向きは天王寺屋から煙硝を購入して火薬を作ることにして、領内で煙硝を生産していることを隠しておけば、煙硝の輸入を止められても問題ない。大量生産に向けて親父殿と相談だな。

「よし、山奥の人里離れたところに煙硝の生産拠点を作り村々に管理させることにしよう」

煙硝を生産する村々は秘匿を誓わせ代わりに年貢は免除とするのが良いだろう。

「鉄砲が使える様になるまで数年かかると見ている。その間の戦において火薬をうまく使っていきたい。焙烙玉を投石機で2町〜3町程度(200〜300m程度)飛ばすことで敵の先鋒を崩したいと思っている。投石機そのものは簡単なものだ。後で職人に作らせる。出来上がったら飛距離や破壊力などを検証してもらいたい」

「承知いたしました」

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