第17話 出会いに感謝

雪に閉ざされる越後の長い冬が、ようやく終わろうとしている。

越後の冬は雪が屋敷を埋め尽くす程に降り続く。除雪をして道を作るが雪が降り出すとみるみる雪で埋まっていく。

雪のため人々は何も出来ず家に引きこもるしか無くなる。

雪が降っても動けるように先人達が考えた、雪の上を歩くための“かんじき“はあるがやはり動きが制限されることには変わりない。

さらにこの時代、まともな暖房器具が少ない。

これは不味い。寒がりの自分では耐えられんと思い、職人にストーブの形や概念を教えて、どうにか作ってもらえた。

そして冬に入る前に、幾つか作らせた薪ストーブが出来上がった。

試験運用したら、非常に好評だった。おかげで寒い冬を暖かく過ごすことができた。

越後府中の屋敷に数個あり、家臣達が欲しがったが生産量に限りがあり、予約待ち状態となってしまっていた。

そのためなのか、用もないのに屋敷にいる家臣達が多かった。薪ストーブのお陰で屋敷は暖かいからな。次の冬までには生産量を増やすようにしておこう。確か近くに石炭鉱山や石油もあるはずだな。

まず石炭を開発して使い易いように豆炭を作ろう。そうすれば、冬はもちろん日常生活ももう少し楽になるかもしれん。確か石炭を砕いて粉にして少量の石灰を混ぜ澱粉で固めるのだったよな。そのうち作らせてみよう。

屋敷が埋まるほどに降り積もる雪が、ようやく出歩くのに支障がない程度にまで減った。

雪で閉ざされた期間は、やることが無いためひたすら剣の修行に打ち込んでいた。

冬はよく体調を崩すことが多かったが、この冬は田代三喜殿の薬がよく利き、咳き込むことがとても少なかった。咳き込んでも症状が軽く済んでいた。今まで無かったことだ。田代三喜殿との出会いがあったらこそであった。

人と人の縁と出合いは大切だ。

そして、木刀を振りながら愛洲久忠殿との出会いを感謝していた。

本来であれば無かった出会いだ。

愛洲久忠殿は、とても丁寧に指導してくれている。同行している弟子の方達の話では、ここまで丁寧に指導してくれることはあり得ないとの話であった。

同行の弟子の方は家臣達と虎豹騎隊を指導してくれている。

毎日、ひたすら木刀を振る日々を過ごしている。ひとつひとつの型を繰り返し反服練習をしていく。

「力み過ぎです・・・・もっと素早く・・・構えが崩れている」

少しでも方が崩れるとすぐさま指摘される。

型の反復練習が終わると、愛洲久忠殿相手に打ち込みを行う。

ひと冬経つが打ち込み稽古では、相変わらず一歩も動くことなくこちらの打ち込みを受け切ってしまう。当面の目標は、まず一歩でも良いので打ち込みで動かすことが目標だ。

ひたすら、ただひたすら何も考えずに無心に打ち込んでいく。

何も考えず、無心に放った突きを、愛洲久忠殿が動いて避けた。

できた。やっと一歩動かせた。嬉しさが湧いてきた。

愛洲久忠殿の表情も、なぜか実に嬉しそうだ。

「お見事。見事な突き。これを忘れないように」

「何も考えず、無心の状態で放ったので何をどうやったのかわからないのですが・・・」

「その無心の状態が大切なのです。剣禅一如。無想なる剣はただひたすらに振り続けたその先にある。さあ、続けましょう。どんどん打ち込んで来なさい」

再び、打ち込み稽古が再開され、遅くまで稽古は続いた。

剣の修行を始めた当初は、夕方には疲れ果て動くこともできなかったが、今は疲れていても動けなくなることは無くなった。剣の修行で体力がついてきたことを実感していた。



越後府中忍者屋敷

一人の人物が訪れていた。

「戸隠忍び頭領、戸隠三郎と申します」

平伏する男は年の頃は50歳前後に見える。

「長尾晴景である」

「我ら戸隠忍び全員を長尾晴景様の配下として雇いたいとお聞きしました」

「そうだ、戸隠の忍びは何人ほどいる」

「忍び働きができるものは50名ほどでございます」

「わかった。全て雇い入れよう。条件は聞いているだろう。伊賀組と同じ条件とする」

「ハッ・・ありがとうございます」

「戸隠のものは地の利を生かし、信濃国と甲斐国を中心に情報を集めてほしい」

「承知いたしました」

「将来的に北信濃の半国は、我らの影響下におきたいと考えている。そのためには、信濃守護小笠原と甲斐守護武田の動きが重要になってくる」

「ハッ!」

「可能であれば両家に人を送り込んでもらいたい」

「使用人に入り込めるように手配いたします」

「頼んだぞ」

「お任せください。それと、連絡役を兼ねて倅の戸隠十蔵を越後府中に住まわせたくお願いいたします」

「わかった。少し小さいが屋敷を与えよう」

「ありがとうございます。十蔵」

20代半ばの思わせる男が現れた。

「戸隠十蔵と申します。これより晴景様にお仕えいたします。お見知りおきを」

「わかった。保長、長門。後の打ち合わせは任せるぞ」

「「承知いたしました」」

戸隠を配下に加えられたのは大きい。今のうちから武田の内部に人を送り込めたら打てる手段が格段に増える。場合によっては、将来武田信玄が父親を今川家に追放することを、邪魔することも可能になってくるかもしれん。

そうなったら武田で内部抗争を煽り、武田を消耗させることもありだな。

信玄が家督を継いだ後からでは、他国から甲斐国に入るものは厳しく監視されることになり、間者を入れることがかなり難しくなってしまう。今から手を打てるのは大きい。

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