第14話 鶴子銀山(つるしぎんざん)

大永5年9月下旬(1525年)

佐渡の直轄領となっているところには、それぞれ代官を置いて管理させている。

代官は皆、昔から自分の小姓として支えてきた者たちで最も信頼できるものたちだ。

当然、金山銀山に関わるところは残らず直轄領としている。

本来、数十年後に発見されて開発される金山銀山を、その時まで待っている必要はないだろう。

本来なら今回の鶴子銀山は20年後、今回は開発していない新穂銀山も約20年後。佐渡相川の金山は約75年後発見されて開発される。

上杉謙信の時代に江戸幕府300年を支えた佐渡相川金山は発見されていない。江戸幕府が始まる頃に本格的な開発が始まっている。さらに本来の歴史であれば、上杉謙信の時代に佐渡は謙信に完全に従っていた訳ではない。協力関係にあり、銀山が謙信の手に入った訳ではない。謙信の時代、謙信を支えた越後の金山は鳴海金山(現在の村上市)だ。慶長年間には全国の3分の1を産出していたと言われるほどの金山だ。別名、越後黄金山とも呼ばれた。

佐渡はよく金山の島と言われるが銀の産出量が多い。

小さな鉱山を含めれば40近い鉱山がまだ開発されていない。まさに宝の山だ。

おおよその場所は分かっている。順次探し出して開発していこう。重要な資金源だ。

代官から、指示通り佐渡沢根山中の鶴子にて探した銀山、さらに相川山中で金山、達者川上流にて銅山を発見したと報告が上がってきた。

「晴景様」

「なんだ」

「蔵田五郎左衛門と津田宗達の二人が見えております」

「ちょうどいい、すぐに通せ」

しばらくすると、蔵田五郎左衛門と津田宗達が入ってきた。

「まさか、宗達殿が直接来るとは思わなんだ」

「一度越後国を見てみたいと思いましたゆえ」

「先ほど佐渡沢根山中の鶴子にて銀山、さらに別の場所で金山銅山を発見したの報告が入った」

「「なんと」」

やはり二人とも半信半疑だったようで驚きの顔をしている。

「言ったであろう。嘘は言わんと。すぐにでも開発に入りたいと思っている。これより佐渡に渡るが来るか」

「「お供いたします」」



佐渡河原田城

晴景が広間の奥に座ると本間有泰と代官の小寺正善、蔵田五郎左衛門、津田宗達が入って来た。

小寺正善、まだ20歳前半ほどでやや背が低い。古くから自分の小姓として付いてきた家来だ。

「晴景様、ご指示通り沢根山中を探しましたら鶴子にて銀山を発見いたしました。銀の含有量も非常に高いとことで、既に試験的な採掘を始めております。さらに金山銅山の方もかなり有望な鉱山であります。そちらも併せてこれより本格的な採掘のための街道の整備に入りたいと存じます。そしてこれが試験的に採掘した銀でございます」

木製の三宝に大小様々な大きさの銀のかたまりを乗せて出してきた。

「これが試掘した銀鉱石から採れた銀でございます」

「分かった。できるだけ早期に本格採掘に入れるよう、街道の整備を頼む」

「ハッ、承知いたしました」

「蔵田五郎左衛門、津田宗達。二人には鉱山採掘に伴う人材の手配、金銀銅の取り出し最新の技術、採掘が進めば奥深く掘る必要も出て来るだろうから、採掘の最新技術、これらの調達をしてもらいたい。石見銀山であれば最新の技術があるやもしれん」

「「ハッ、承知いたしました」」

「有泰は、小寺正善と共に街道筋の整備を行え」

「ハッ」

「冬に入るまでに本格的な採掘に入れるようにしたい。皆頼むぞ。」

「小寺、街道整備や銀の取り出しのための準備に銭がかかるであろう。不足するようなら砂金山の採掘を増やし、増やした分で整備費用に当てよ」

「承知いたしました」

「まず鶴子が軌道に乗ったら順次金山銅山の開発に入る。これらが順調に進んだら次の探索と開発をこなうぞ」

「まだあるのですか」

「宗達。俺についてくれば損はさせないぞ」

津田宗達は口元に笑みを浮かべ

「よろしくお願いいたします」

「二人にはこれと別に頼みたいことがる」

「頼みたいこととは・・・」

「常備雇いの兵を集める。とりあえず千人。将来的にはもっと増やすつもりだ」

「なぜでございます」

「今のまままでは、田植えや稲刈りに縛られてしまう。いざという時それではいかんのだ。これからそう遠くない将来には、常備兵が必須になってくる。いつでも自由に兵を招集でき、すぐさま行動に移せる。そうでなくては遅れをとることになる。常備兵と言っても常に戦がある訳ではない。戦がない時は、武芸の調練や新田開発や河川改修などをしてもらうつもりだ」

「なるほど、承知いたしました。越後領内は蔵田殿にお任せし、越後国以外の部分をこの宗達が受け持ちましょう」

「では、この蔵田五郎左衛門が越後領内で人を集めましょう。農民の末っ子や国衆で家督を継げないものなどを中心に声をかけましょう」

「二人とも頼りにしている。頼むぞ」

晴景の新たな試みがこの瞬間から一斉に始まろうとしていた。

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