第13話 開発計画

京の都から越後府中の屋敷に戻り、急ぎ親父殿と二人きりで話をしようと親父殿の待つ部屋に入る。

「ただいま戻りました」

「京の都はどうであった」

「「兄上〜」」

親父殿と話をしようとしたところ、部屋に二人の人物が飛び込んでくる。

妹の綾と弟の景康だ。綾はのちに綾御前と呼ばれ上杉景勝を産み、景康は三男景房と共に守護上杉定実の家臣黒田秀忠の謀反に巻き込まれ春日山城内で殺されることになる。四男の虎千代(のちの謙信)は床下に隠れ逃げ出せた。

弟たちが殺される未来は変えたい。その上でうまく謙信に家督を譲れるように考えていく必要がある。謙信こと虎千代が生まれるのはまだ5年ほど先だ。どうやって当主を譲るかゆっくり考えていけばいい。

「兄様、京の都はどんななの・・・」

「兄上、将軍様はどんなかたでした・・・」

二人は、京の都の様子が知りたくて話をせがんでくる。

「待て待て、後で話をしてやるから、今は親父殿と大事な話があるから下がっていなさい」

「そうだぞ。今は大事な話を晴景とするから、二人は後でゆっくりと兄から話を聞きなさい」

「「え〜」」

二人は晴景の着物を掴んで離さず。出て行こうとしない。

「ハハハハ・・・仕方ないな。後で渡そうと思ったが今渡そうか」

晴景は懐から小さな包みを二つ取り出した。

そして、綾と景康に渡す。

「堺で手に入れた飴だ。噛まずにゆっくり舐めなさい」

二人は包みを開き、飴を頬張る。

この時代は、砂糖はとても貴重品だ。1斤(600g)で150文(約1万5千円)もする。

全て輸入品だ。その為、甘味物はとても少ない。

「「美味しい〜」」

「後で話してあげるから下がっていなさい」

二人は飴を貰いご機嫌な様子で部屋を出ていった。

「将軍様へのご挨拶は無事終わった。千貫ほどを納めてきた。ただ、この先幕府内の権力闘争が激しくなって来ると思う。窓口が細川高国殿だけでは、危ういのではないか」

数年先には細川高国は失脚する。今の内から少しずつ軌道修正させていかないと間に合わん。

それに、幕府の権威は大事だが、それ以上に自前の戦力を整えていかなくては細川高国が失脚した時に苦しむことになる。

実際、歴史上では細川高国が倒れた後、周囲は敵だらけとなり為景はかなり苦しんだ。

「それほどに危ういのか・・・」

「細川家内部の対立や足利家内での対立もあるように思う」

「忍の件はどうなった」

「期待以上だった。順次こちらにやって来る手はず。数名は同行してきている。伊賀崎」

「お呼びでございますか」

為景の背後から男の声がした。

為景が慌てて背後を見ると一人の男がいた。この部屋には、自分と晴景しかいなかったはず。

「・・い・・いつの間に・・」

「伊賀崎と申します。お見知り置きを」

「伊賀崎下がって良い」

伊賀崎は頷くと部屋から出ていく。忍者といえども壁をすり抜ける訳では無い。人の死角、思考の隙、思い込みなどを巧みに利用して、さらに鍛えあげた身体能力を使い、情報を集めていく存在だと自分は思っている。

「親父殿、伊賀忍びを100人以上雇った。彼らを使い、まず越後領内の情報収集と敵対的な国衆の監視などをさせようと思う。そして体制を整え、敵対勢力は随時叩いていくべきだ」

「・・・忍びとは恐ろしいものだ・・・体制を整えるとはどうするつもりだ」

「まず、佐渡の銀山を開発させる」

まず、最初のうち露天掘りができて採掘が楽な鶴子銀山を開発させ、経験を積んで佐渡金山の開発に入る方が効率が良く資金も得やすい。

「銀山だと」

「場所はほぼ分かっている。佐渡の代官達と本間有泰に命じてある。かなり有望な銀山だ。そこに、堺の豪商天王寺屋も組み込み、堺との縁を太くする。天王寺屋とは話はつけて来た」

「天王寺屋だと、堺でも有数の豪商ではないか」

「その銀を使い、親父直属にする銭雇いの常備兵を集めていく。まずは千人。将来的には五千人を集めたい」

「銭雇いはいいが、銭雇いは信用できるのか」

「親父殿、今の越後は、離合集散。今日の敵が明日味方になり、今日の味方が明日敵になる世の中だ。国衆とさして変わらん。銭で雇い、その上でしっかり鍛え込めばいい」

「確かに・・・そうだな。・・・国衆が恐るかもしれんな」

「恐れられるくらいでいいのでは、常備兵は戦の訓練をさせ徹底的に鍛え上げ、同時に長尾家に対する忠誠心を植え付けていく。あと新田開発、河川改修をさせたいと思う。味方の国衆の領地の新田開発にも協力させるなどもいいかも知れん」

「なるほど」

「それと、明国で最新の医術を学んできた医者を呼んできた。田代三喜殿という医者だ。信頼のおけるものたちに医術を教えてもらうように依頼してある」

「医者か」

「少しでもこの体が丈夫になればと思っている」

自分の胸に手を当てて呟いていた。

親父殿は頷いていた。

「親父殿」

「なんだ」

「俺が親父殿を越後守護になれるように支えていく。俺が佐渡の国主、守護に成れたんだ。戦上ずの親父になれぬはずがない」

驚く表情をする為景。

「フッ・・・嬉しいことを言ってくれる・・・それなら自由にやれ、ただ事前に相談はしてくれよ」

「分かった」

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