第8話 仕置
雑太城に入り返り血と汚れを落とすと広間へとやってきた。すぐにでも休みたかったが、今回の仕置きを早急に決めねがならない。
直江親綱と本間有泰は既に来ていた。
「待たせた。此度の仕置きをどうするかだ」
「その前にお願いの儀がございます」
「有泰殿、それは何だ」
「定景様に佐渡国主に御成いただきたく存じます」
「佐渡国主は、有泰殿ではないか」
「此度の件は、佐渡国主として力量が至らぬことが引き起こしたのでございます。その様な者に国主を名乗る資格はございません。それに、私が佐渡国主として仕置きを下しても、誰も従うことは無いと思います。ですからぜひ定景様に佐渡国主に御成いただき、私を家臣として仕えさせていただきたくお願いいたします。幕府には、国主を定景様に譲る旨を届け出いたします。何卒お願いいたします」
本間有泰は頭を下げる。
「・・・どうしたものか・・・」
「定景様、お受けになればよろしいかと・・・有泰殿は、決死の覚悟で我らにお味方し、国主もいらぬ、定景様の家臣になりたいと言っておられるのです。普通はその様なことは言いません。それなりの覚悟を持って言っておられるはず」
「・・・わかった。佐渡国主の件引き受けよう」
また、歴史が大幅に変わってしまうが今更だな。歴史が変わることを恐れても仕方ない。やるだけやったら、後は謙信に丸投げして早く楽隠居することにしよう。
「ありがとうございます。誠心誠意お仕えいたします」
「よろしく頼むぞ。では、仕置きを決めねばならぬ。どの様にする」
「そうですな。普通なら今回の企みに与した者の一族郎党は皆斬首となりましょう」
「親綱、それは分かるがそれをしてしまうと、かえって反発を招く可能性があるのでは無いか」
「ですが、なまじ温情をかけすぎると反乱の目を残してしまいます」
「それでは、佐渡追放でいかがでしょう」
「有泰殿、佐渡追放か」
「はい、本来企みに与したものは一族郎党ことごとく斬首のところ、罪一等を減じて佐渡島内の所領を没収の上、佐渡より追放処分とするとするのです。持ち出せるものや金品は制限し、島を去る期限を決めるのです。没収した所領は、定景様の直轄領とされた方が宜しいかと。今佐渡島内で定景様は、お一人で敵将を含め57名もの敵を切り倒し、赤鬼と恐れられております。恐れられている定景様が最大の領地を持ち、他の国衆の領地が足元にも及ばぬ方が、佐渡は治るかと思います」
「なるほど、敵方にもわずかながらも温情を示しため、わずかな越後側の領地は残す形か」
「越後側の領地は小さいため力を持ちようが有ません」
「親綱はどうだ」
「わかりました。有泰殿の案でよろしいかと思います」
「さて、有泰殿のことだ」
本間有泰は厳しい表情する
「今回の企みに加わったものの、我らに味方し、国主の地位も我らに差し出し、我家臣となることを望むことに対して、所領安堵とし雑太家当主に関しても引き続き有泰殿に勤めていただきたい」
「寛大なる処置をいただき有難うございます」
「ただし、裏切りには容赦せぬぞ」
「ハッ、承知しております。生涯お仕えいたします」
平伏する本間有泰。
「親綱。ことの詳細を至急親父殿に伝えてくれ。それと二人でこのたびの仕置きの御触れを出してくれ。俺は少し休む、流石に疲れた」
「「承知いたしました」」
越後府中に攻め寄せた上条定憲と宇佐美定満は混乱していた。
「な・・・なぜ、敵陣に為景がいる。佐渡に渡ったのではないのか」
上条定憲の怒鳴り声が陣中に響き渡る。
「船に乗り込むところを多くの者が見ておりまする。この時間では戻ってくることは出来ぬはず」
宇佐美定満は狼狽していた。
自ら練り上げた策がはまり、為景は海を渡り佐渡へ向かった、はずであった。
船に乗り込むところを多くの者が見ている。越後府中に送り込んだ者からも、為景が佐渡に渡ったとの報告を受けていた。
だが、為景はこの戦場にいる。
「・・・ま・・まさか・・・佐渡に渡ったのは偽物・・・こちらの策が読まれていた・・・・」
空の越後府中を、楽々占拠でるはずの楽な戦いのはずが、厳しい戦いを強いられることになった。宇佐美定満は、策が見抜かれていたことを痛感していた。
「・・い・・いったい・・どこで策が見抜かれたのだ・・・」
「定満。呆けている場合か、為景がなぜここにいるのかはもはやどうでもいい。この場で奴を倒せばいいだけだ」
宇佐美定満は、我に帰る。
「そ・・そうでした」
「者ども、長尾為景を討ち取れ」
上条定憲の軍勢は、長尾為景の軍勢に向かい鬨の声をあげ殺到した。
「ハッハハハハ・・・やりおった。倅が佐渡を切り取ったか!」
為景は、直江親綱からの書状に目を通しながら上機嫌に笑っていた。
「儂が切り取ることを断念した佐渡を取りよった。しかも、佐渡国主まで手に入れたか。めでたい、めでたい。実にめでたい。儂も倅に負けてはおれんな」
為景が見つめる先には上条派の軍勢がいた。
上条派の軍勢が動き出した。
為景の軍勢の槍と上条派の軍勢の槍がぶつかる瞬間、上条派の軍勢が混乱に陥った。
上条派軍勢後方に控える柿崎利家の軍勢から、味方であるはずの上条派へ次々に矢が打ち込まれていた。
「利家、しっかりと役割を果たしてくれたか」
柿崎利家から内応の確約を得ていたため、利家の動くのを待っていた。
「この機会を逃すな、行け!」
上条派の軍勢は背後からは、次々に矢を射かけられ、前からは為景の軍勢による槍衾が迫り、足軽雑兵が一斉に逃げ出し、軍勢は一気に崩壊した。
上条定憲と宇佐美定満は辛くも逃げ切り、戦場を後にした。
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