第5話 佐渡からの使者

大永5年5月初め(1525年)

為景と定景は、斎藤堯保と名乗る30半ばに見える佐渡羽茂本間家からの使者を出迎えていた。

館の広間には、為景と定景親子、直江親綱を始めとした家臣が数名、そして平伏している佐渡からの使者斎藤堯保がいた。

「越後守護代長尾為景様には、お初にお目にかかります。本間高季ほんまたかすえが家臣斎藤堯保と申します」

「遠路ご苦労である。面を上げられ楽になさるが良い」

平伏していた顔を上げる斎藤堯保。

「今回の用向きは何でござる」

「主より書状を預かってきております。まずはご覧いただきたく」

懐より書状を出し、直江親綱が受け取り、それを父為景に渡す。

受け取った書状を開き中身を読み、自分寄越してきた。

中身は、佐渡島内で河原田本間家の横暴に対抗すべく、惣領家である雑太本間家と羽茂本間家で対抗しているが劣勢であるため、守護代長尾為景に直接佐渡にきて欲しいという内容だった。

書状を同席している家臣たちに回す。

「援軍がほしいとのことか」

「河原田本間家の勢いに押されております。ですが、守護代様がこちらについているとはっきり分かれば、河原田本間家も静かになりましょう。多くの軍勢は不要にございます。為景様は供回りの者たちと佐渡見物においでいただき、長尾家の旗印を掲げていただければ万事治りましょう」

「その程度で済むのか」

「河原田本間家も守護代様のお陰で越後に領地をいただいております。守護代様のご意向に逆らうとは思えません。ただ、書状だけを送っても空返事の書状を寄越すだけでございますので、直接おいでいただきたく存じます」

しばし為景は、腕を組んで考え込んでいた。

「フム・・・よかろう。佐渡に赴くとしよう」

定景は、必死に影山春樹として生きていた時の記憶を辿っていた。今の時期に佐渡から長尾家に援軍要請なんかあったか?自分が知るかぎりそんな事はなかったはずだ。どうゆうことだ。まさか、歴史が変わってしまっているのか?どうもおかしい。

自分がこの時代の長尾定景に転生したせいで、歴史が変わり始めているのかもしれない。

眉間に皺を寄せ考えていると

「・・定・・・定景・・どうした難しい顔をして」

「エッ・・・」

父為景の声に気がつくと佐渡からの使者の姿は無い。

「斎藤殿は・・・」

「もう、下がったぞ・・・それよりどうした」

「・・・佐渡からの援軍要請は、どうにも腑に落ちません。おかしい・・・」

「腑に落ちぬとは・・・」

怪訝な表情をする為景。

「佐渡の中の争いは、いつも本間家同士の争い。意地の悪い言い方をすれば、お互いの力を誇示し合い、ほどほどのところで戦で終わらせる。そこに、島外のものを呼び込むことはしないはず。島外のものを呼び込めば、それだけでこちらに付け入る隙を与えることになります」

「考え過ぎではないか」

「考え過ぎなら良いのですが・・・」

「いくと返答してしまった後だ、今更行かぬと言えまい」

「ですが・・・今回の件は怪しいと思う。とても危険だ」

「だが、羽茂本間家は縁戚の家。簡単に要請を断れんぞ」

「ならば、自分が親父殿の名代として、長尾家の旗印九曜巴を持って佐渡に渡ろうと思う。理由は後からでもいくらでも付けられる」

しばし目を瞑り腕を組み考える為景。

「・・・・・もし、定景の懸念通りならかなり危険だぞ・・・罠を仕掛けている可能性がある」

「もし懸念通りなら、親父殿が越後府中を留守にする方がもっと危険だ。越後府中が危うくなる。もしも懸念通りならばこの越後府中を狙うものが出る可能性が高い。ならば、連れて行く人数を増やし、精鋭を与えてもらい、懸念通り危なければすぐに逃げられるように考えられる限りの手を用意して行く・・・」

「・・・そこまで言うなら、大役を任そう。だが、少しでも危険を感じがしたらすぐに退散しろ。逃げ帰ってもかまわん。命があれば何とでもなる。面子にこだわるな。面子にこだわって死んだら全てそこで終わりだぞ」

真剣な表情で定景に向き合う為景。

「殿、定景様は戦の経験が足りませぬ。ならばこの直江親綱が定景様と共に佐渡に赴き、定景様を補佐致しましょう」

「行ってくれるか」

「ハッ!」

「ならば、選りすぐりの兵を付けねばならん・・・すぐに準備致せ」

慌ただしく、越後府中は佐渡行きの準備に入った。

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