第29話 俺は、亜香里のためにしてあげたいことがある
そして、彼女は頷いてくれて了承してくれたのだ。
これが正解かどうかはわからないが、ようやく彼女の気持ちを少しだけ理解できたような気がした。
今は、翌日の放課後。
碧音は
火曜日の今日は比較的、街中も空いている印象。
それにしても昨日は、香奈がドタキャンしたことで、少々スケジュールが狂ってしまったが、何とか乗り越えられたのは幸いである。
今日はどこに行くかだが、せめて亜香里が好みそうな場所がいいだろう。
チョコバナナパフェもいいのだが、香奈曰く予約制なのである。
故に、そこは無理だとして。
パフェじゃなくても、チョコバナナ系のお店は多分、いくつかあるはずだ。
えっと……確か、ここら辺に。
碧音はスマホを片手に、周辺を見渡す。
「ねえ、碧音。今日はどこに行くつもりなの?」
「ちょっと待ってて。今調べているところだから」
碧音は隣を歩いている彼女に返答した。
「もう、そういうのさ。事前に調べておくものじゃない?」
「ごめん、ちょっと、昨日は忙しくてさ」
「なに? 私よりも大事なことがあるの?」
「……あるかも」
「なにそれ、じゃあ、昨日の告白は嘘だったの?」
「違う。別に嘘じゃないから」
「んん……」
亜香里からジト目を向けられている。
少々、こうなると面倒なのだ。
あまり、亜香里を刺激しないように、何とか穏便に済ませることにした。
「まあ、いいけど。でも、その代わり、私に奢ってよね」
「わかったから」
むしろ、今日はそういう予定であり、想定内の事である。
「あと、今日は、その……家に帰る前でもいいけど。本屋に寄っていかない?」
「本屋? 何か買うのあるの?」
「うん……まあ、ね」
「そうか。亜香里が珍しいな」
「別にいいでしょ。私だって。欲しいものくらいあるんだから」
「へえ、どんなの?」
「な、なんで、言わないといけないのよ」
「だって、俺。気になるから」
「き、気になるとか、やっぱ、変態じゃん」
「え? いや、俺は変態じゃ……」
碧音は辺りを見渡すと、街中を歩いている人らからジロジロと見られる始末。
亜香里が変態だとかいうものだから、疑いの眼差しを数人から向けられているのだ。
いや、変態じゃないから……。
そう思ったとしても、誤解を解くことなんて、碧音にできるわけもなかった。
これは、すぐさま別の場所に移動するしかないと本能的に察し、碧音は亜香里の手を掴んで、咄嗟に行動したのである。
「ちょっ、ちょっと、急に?」
亜香里は少々慌てているようだった。
そして、碧音は先ほど人がいたところから距離を置き、予定では訪れない場所に到着していたのだ。
「ここはどこなの?」
「さ、さあ?」
「なに、わからないの」
「だって、亜香里が変なことを言うんだから、慌ててここまで来たんだからな」
「私のせい?」
「せいっていうか」
「……⁉」
「どうした?」
亜香里の頬はみるみるうちに真っ赤に染まっていき、そして、顔全体が、リンゴのように真っ赤になったのである。
「ば、バカ、というか、いつまで私の手を触ってるのよ」
「ごめん」
「……もう……」
亜香里は背を向け、視線を合わせてくれなくなったのだ。
「ん? そういえば、ここって」
碧音は気になり、スマホをポケットから取り出し、現在地を調べることにしたのだ。
ネットで検索をかけてみれば、ここ周辺には意外にもチョコバナナ系統の商品が売られているお店があるらしい。
いわゆる隠れた名店的がある場所のようだ。
「どうしたのよ……」
「ここら辺に、亜香里を連れて行きたかった店があって」
「そうなの? じゃあ、結果的にはよかったって事?」
「そうなるね」
「へえ、そう」
なぜか、亜香里はどや顔を浮かべていた。
少々憎たらしい感じではあるが、なぜか憎めなかったのだ。
亜香里と共に、その店屋に入店した。
店内はレトロな感じであり、落ち着いた雰囲気のある場所である。
店内に流れているBGMは、クラシック傾向が強そうだった。
「いらっしゃいませー」
店屋の奥からは、女性スタッフの声が響く。
「お二人様ですか?」
奥から姿を現したのは、女子大生くらいのスタッフだった。
「こちらへどうぞ。あちらの席が空いておりますので」
その女性スタッフに案内され、二人用の席に通されたのである。
今日は意外と空いているのか、店内には碧音と亜香里以外に、お客らしき人はいなかったのだ。
「では、こちらお水になります。それと、こちらがメニュー表になりますので、ご注文の方はごゆっくりお決めになられてもよろしいですからね」
女性スタッフはそういうと、そのまま立ち去って行った。
「何にする? というか、なんでもいい?」
「別にいいけど。でも、俺が支払うからって、なんでもは無理だからな」
「わかってるから」
「だったらいいけど」
「私、そんなに図々しくないし」
「俺、そこまで言っていないからな」
碧音と亜香里は、優雅な店屋の中で、ちょっとばかし口論にまで発展してしまった。
普通に会話しているだけなのに、なぜか、言い合いになっているのだ。
「お二人は仲がいいんですね」
そんな中、先ほど店の奥へと戻っていった女性スタッフがやってくる。
「……そういうわけじゃないですから。普通ですから……」
「……はい、普通です」
碧音と亜香里は気まずげに返答した。
二人は少々の躊躇いがあり、互いに視線を合わせることなんてできなかったのである。
「でも、自分の言いたいことを言える関係って素晴らしいと思うんです。私は、まだそういう関係の人はいないので」
女子大生のスタッフは、少々悲しそうな瞳を見せていた。
「……でも、だからと口喧嘩ばかりも良くないですからね。後、こちらは、店長からの差し入れです」
女性スタッフが、二人がいるテーブルに置いたのは、皿に綺麗に盛り付けられたチョコバナナパフェだった。
「え、別にここまでしてもらわなくても」
碧音は遠慮がちに言うものの。
彼女は、遠慮しないで下さいと言った。
「ここのお店、来月中にしまってしまうので」
「しまう? ……閉店ということですか……?」
亜香里は申し訳程度に聞く。
「はい。そうですね。近頃売り上げもよくないので、時代というものでしょうかね。店長がもう、限界かもしれないと言っていましたので」
その女子大生の声質が小さくなった。
「でも、気になさらず、食べていただいてもよろしいので。少々、変なことを言ってしまいましたね。ごめんね。こういうことを、お客様の前で言うなんて」
女子大生は慌てた感じに、姿勢を整えると、再び奥の方へと向かって行ったのである。
「というか、亜香里ってさ、チョコバナナ好きなんだよね?」
「な、なんで、それを知ってんのよ」
「この前。レストランのメニュー表で、チョコバナナの写真ばかり、見て気がするけど」
「そんなところまで気にしなくてもいいのに……」
「でも、食べたかったんじゃないの?」
「そ、そうよ。まあ、あのお姉さんから、出されたものだし……普通に、食べるけどね」
亜香里はそう言いながら、フォークとナイフを器用に使い、食べ始めている。
その姿を軽く見ながら、碧音も食べるのだった。
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