第27話 香奈にはちょっと、相談に乗ってもらいたいんだけど

「それで、亜香里とは、どうだった? 今回の休日、いい感じになった?」

「まあ、それなりにはな」

「へえ、私がいなくても、できてんじゃん」

「うん、亜香里の姉に助けられたこともあるけど」

「亜香里の姉? じゃあ、一人でできてないじゃん。そうやって、嘘つくー」

「……ごめん」

「まあ、いいよ。一応、亜香里とはいい関係になったってことね」

「そういうことにしといてくれ」

「わかりましたよ。それで、今日はどうするの?」

「普通に」

「普通に何?」

「……亜香里には、色々と話したいことがあってさ」

「あって」

「でも、一人じゃちょっとやっぱ、無理で」

「もうー、やっぱ、一人じゃできないじゃん」

「俺だって、最初は一人でやろうとしたんだ。それで、昨日の内に亜香里に話そうとしたんだけど、やっぱ緊張するんだよな」

「緊張しすぎだよ」


 香奈から強く指摘されてしまったのだ。


 けど、香奈と相談したことで、少しだけは気が楽になった感じである。


 本当は姉である葵に相談する予定だったが、急に仕事が入ったようで、ごめんとだけメールで返事を返されたのだ。


 しょうがないと思い、碧音は今、午前の移動教室終わりに教室へ戻らず、中庭のベンチに二人で座り、真城香奈ましろ/かなに相談したのであった。




「任せて、大丈夫。そういうことなら、なんでもやってあげるから」


 香奈は満面の笑みを見せてくれるのだ。


 彼女の顔を見ると気が楽になる。昨日の件もあり、心が苦しくなるものの、仲間の笑顔に助けられた感じだ。


「というか、お昼時間だし、今から一緒に食事する? 亜香里に色々と話すことがあるんでしょ?」

「そうだな。香奈は、何か食べるものを持ってきてるの?」

「私はね、朝来る時にコンビニでサンドウィッチとかは買ってきてるけど」

「そうなんだ」

「碧音は? 何も買ってきていない感じ?」

「うん」

「じゃ、購買部にでも行く? 早くしないとさ、本当に売り切れちゃうよ。この学校の購買部ってさ。十五分くらいでパンとかもなくなるし」

「だったら行くか」


 二人は、校舎一階の昇降口の出入り口付近、そこで簡易的な購買部を開いている場所へと向かうのだった。






 購買部でパンを一つだけ購入したのち、校舎の屋上へと向かったのである。


 外の風は涼しい。

 今は七月であり、少々熱く感じるものの、風によって、心に心地よくなるのだ。


 高野碧音たかの/あおとは香奈と隣同士でベンチに座った。


 二人がいる校舎の屋上には、あまり人がいない。

 だからこそ、比較的話しやすい環境である。


「じゃ、まず何から話す?」

「だったら、どこに亜香里を誘うかなんだけど。どこがいいと思う」

「それは……雰囲気がいいところとか?」

「そうだとは思うんだけど、どこかな街中とか?」

「それでもいいんじゃない? 出来るなら、亜香里が好きそうな場所がいいよね。亜香里って、甘いものが好きだから、ケーキ専門店とか、あとはね。そういえば、つい最近ね、ドーナッツ専門店もできたの。だから、そういう場所でもいいかも」

「そうか……甘いものか」


 確かに、甘いお菓子関係の専門なら、亜香里は喜びそうである。


 そういえば……。


 ふと思う。

 亜香里は以前、チョコバナナパフェを食べたそうな表情をしていたのだ。


 そういうパフェ専門店でもいいかもしれない。

 であれば、そういう場所を事前に調べておいた方がいいだろう。


「亜香里って、チョコバナナ専門店とか、この近くにあるの知ってる?」

「ここ周辺で? そうだねぇー、確かね、隣街とかにあったかも。じゃあ、そこにする?」

「あるの? だったら、そこで」

「でも、予約制だったかも」

「予約制なのかよ」


 碧音はドッと力が抜けるように溜息を吐いた。


 予約制であれば、今日中にどうとか無理である。


 やっぱ、日程を変える?

 その方がいいのか……?

 でも、早いところ、亜香里には伝えたいことがあるのだ。


 碧音は考え込み、パフェ専門店に行くことを今は諦めるのだった。




「まあ、予約に関しては、別の日にすればいいんじゃない?」

「そうだな。後で、様子を見て予約しておくよ」


 碧音はそう返答し、スマホのメモ帳に、何となく今後の予定として記しておくことにしたのだ。


「じゃ、すぐに入れる店屋にした方がいいと思うし、ケーキ専門店にしない?」

「香奈が、そういうなら。そこでいいよ」

「場所わかる? 分からないなら、そこまで案内するけど」


 碧音はわからないと返答した。

 そして、碧音は彼女からケーキ専門店の場所を教えてもらい、スマホでHPを検索したのである。


 その店のHPには、色々なケーキの写真が掲載されており、チョコラケーキやチーズケーキが有名らしい。


 チョコバナナケーキとは、さすがにないよな。

 そんなものはないか。


 碧音はある程度調べ終わった後、スマホを制服のポケットに戻したのである。


 その頃には、隣の席に座っていた香奈は、事前に用意していたサンドウィッチを食べ終わっていた。


 だから碧音も、早いところ購買部で購入したパンを食べることにしたのだ。


 碧音は比較的遅めに購買部で買ったために、品数が少なかったのである。


 今、碧音が口にしているのは、ピーナッツ味のコッペパンだ。


 そこまで好きではないが、何も食べないよりかはマシだろう。






「……香奈って、ここにいたの?」


 屋上に誰かがやってくる。

 それは、偶然にも話の中心になっていた大野亜香里おおの/あかりだった。


「というか、なんで二人で、ここにいるの?」

「ちょっとね、色々あって」

「色々って?」

「まあ、いいから。じゃ、碧音。私、亜香里と別のところで話すから、あとでね」

「あ、ああ」


 碧音はコッペパンを咀嚼したまま返答した。


 隣に座っていた香奈は席から立ち上がると、亜香里に話しかけながら屋上から立ち去っていく。




 周りを見渡せば、数人ほど仲間内で食事を取っている人らがいるが、碧音は屋上で一人になった。


 孤独にベンチに座り、お昼時間を過ごす。碧音はようやくコッペパンを食べ終えたのである。


 香奈と会話し、亜香里と一緒にデートする場所を決めてもらったわけだが、あとは自分の考えを亜香里に伝えるだけ。

 最終的には、自分自身の問題になるだろう。




 それに昨日、亜香里の姉である葵から昔、亜香里と一緒に遊んだ場所に案内された。

 あまり見慣れない場所であったが、写真と似ているところもあり、ゆっくりと思い出せてきたのである。


 確かに、亜香里とは幼い頃から出会っていた。

 彼女は、碧音が昔のことを忘れていたことで、高校で出会った時から不満な態度を見せることが多かったのだろう。


 それに彼女とは約束を交わしたのだ。

 次会ったら、碧音から告白すると――


 碧音も、あの頃は亜香里のことが好きだったのである。

 でも、もう会えないと思っていた。

 だから、碧音は、日々の生活を送る中で彼女との約束を忘れていったのだろう。




 絶対に今日、自分の想いを伝えないといけない。

 そう思い、碧音はベンチから立ち去るのだった。

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