第19話 亜香里って…実のところ、俺の事、どう思ってんだろ…
街中の書店内。
そんな亜香里は、何かを購入していたようで、書店名の記された紙袋を手にしている。
彼女に何を購入したのか聞いたとしても、なかなか返答してくれることはなかった。
なんだろ……。
それにしても、何を書店で購入したのだろ?
なぜかわからないが、気になる。
そうこう考えつつも、碧音は、香奈と亜香里。三人で書店を後にすることになった。
結果として、碧音は何も購入しなかったのである。
欲しいラノベはあったものの、金銭的な問題と、自宅には、まだ読み切っていないラノベが山ほどあるのだ。
ある程度、片付いてから、少しずつ購入していこうと思った。
三人で夜の街を歩き、近くにあったハンバーガーショップに入った。
そこで、一時間ほど夕食のような食事をとった後。各々の家に帰ることになったのだ。
街中から少し離れた場所で、
香奈は、また来週ね、といった感じに言い、そのまま手を振って自身の家に帰っていったのである。
騒がしい子だと思う。
今日一日で、多くの経験した気がして、今振り返れば、ドッと体に疲れが押し寄せてくるようだった。
碧音は軽く溜息を吐き、街中から離れた夜道を見渡す。
電灯の明かりで、うっすらと周りを確認できるような感じだ。
夏に近づいている夜の風を浴びながら、碧音は道を歩く。
「……」
「……」
二人は無言だった。
碧音と亜香里は、二人っきりになったものの、自発的に話すことはしなかったのだ。話すことに抵抗があるという理由もある。
……こういう時って、何を話せばいいんだ?
碧音は考えれば考えるほどに、口ごもってしまう。
「……さ」
「ん……?」
何か、言ったのか?
碧音は今、左隣を歩いている亜香里の方をチラッと、横目で見やった。
ん……?
碧音は彼女の様子を伺う。
「……あんたってさ。そのさ……ラノベが好きなんでしょ?」
「……そうだけど。なぜ、それを? 聞いてきたの?」
急に質問されたことも相まって、変にカタコトな話し方になってしまった。
「別にいいじゃん……」
「そうか……」
また、亜香里は何も話さなくなったのだ。
ただ、二人が歩いている足音だけが軽く響いているだけだった。
というか、それだけかよ……。
碧音は少々、つまらなくなり、口を軽く閉めた。
なぜかわからないが、もう少し亜香里の声を聞いていたかったと思う。
そんな不思議な感覚に陥りながら、二人は自宅へ、ただひたすらに向かって歩き続けるのだった。
本当に、何も話さないのかよ。
碧音は彼女と一緒に自宅へ繋がっている道を歩いているのだが、彼女とは全く会話していなかった。
変な空気感で、なかなか話しかけられなかったのだ。
それしても、あのことは本当なのか?
亜香里が碧音のことが好きだということである。
今、その彼女は隣にいるのだ。
話しかけられる距離感であるが、声を出せなかった。
碧音はチラッと横目で見る。
すると、亜香里は少々頬を赤めているようだった。
恥ずかしいのか?
とは思いつつも、碧音も亜香里のことなんて言えない。碧音自身も、この状況で発言することに抵抗があったからだ。
今のところは余計に話さない方がいいだろう。
そう思い、二人で無言の時間を過ごすのである。
振り返ってみれば、亜香里の姉が、あとで家に来ると言っていた。
いつ来るのだろうか?
彼女とは連絡先の交換もしておらず、そういった予定を聞き出すことなんてできなかった。
父親の方に関しては、同じ会社にいるということから問題はないと思う。が、亜香里には、姉が来るということを伝えておいた方がいいのか?
それとも、わかっているのか?
そういうところは、姉妹間で、どういったやり取りが行われているのか、気になるところだ。
それにしても、姉の方は、亜香里とは違い、笑顔が魅力的な女性だった。
考えれば、姉の方は何歳なのだろうか?
見る限り、二十代後半?
それくらいだった。
であれば、亜香里とは、一回りも年が離れているということになる。
姉は社会人で、今まで一人暮らしをしていた妹のことが心配で、碧音の家に泊めることにしたのだろう。
でも、姉の家で一緒に過ごせるのなら、わざわざ。碧音の家に泊まらせる必要性はない気もする。
謎だ。
何かあるのか?
数時間前の喫茶店内。姉の話し方を見ても、それほど亜香里とは関係性が悪いというわけでもなさそうだった。
「……んん……なんだろ」
「……え? 何が? よ」
「んッ⁉」
急に亜香里から反応され、碧音はビクッとした。
そして、亜香里同様に、碧音も、その場に立ち止まる。
「何が、なんだろ、なの?」
「いや、なんでもない……から」
碧音は左にいる彼女からサッと視線を逸らすように、右を向く。
「考え事?」
「気にしないでくれ」
亜香里はジト目で見つめてくるのだ。
故に、碧音は彼女の方へ視線を向けることはできなかった。
「なんか、気になるんだけど。そういう風に言われると」
「……」
「なに? 言いたいことがあるならさ。ちゃんといえばいいじゃない。バカ、変態のくせに、恰好なんてつけてさ」
そんなことを言われるとイラっとする。
碧音は彼女の方を見た。
「な、なによ」
「あのさ……亜香里って、俺のことが好きなのか?」
碧音はもうやけくそになりつつ、直接的に彼女に告げてしまった。
「……え? ……え、え⁉ ち、違うから、バカッ」
亜香里の頬が次第に真っ赤になっているのが分かった。
彼女の口から放たれたセリフは、碧音に対する、いつも通りの悪口である。
「違うから、へ、変な勘違いしないでくれる? というか、なに? なんで、そう思ったのよ。おかしいのよ。わ、私が、あんたの事、好きなわけないじゃない。バカ、最低じゃん、というか、こっち見んなッ」
亜香里は焦っている。
だからなのか、早口になっていたのだ。
「でも……」
「でも、なによ。というか、勘違いも甚だしいからッ」
彼女からそっぽを向けられてしまった。
あれ……?
違ったのか?
もしかして、あの二人に騙されていただけ?
碧音も急に恥ずかしくなり、口ごもってしまう。
やっぱり、何も言わない方がよかった気がして、二人がいる場所に気まずい空気感が漂い始めるのだった。
「というか、私、もう帰るから。あんたは、どっかに行けばいいわ」
「え? 帰るってどこに?」
「それはいつもの家よ」
「……俺の家か?」
「……そ、そうよ。しょうがないじゃない。あんたの家に泊まるように指示されてんだからッ」
亜香里は怒った口調で、さっさと歩いていく。
「あ、ちょっと、待って」
碧音は気づき、言った。が――
ゴン――ッ
「い、痛ッ、な、なによ。何なの……」
亜香里は正面を見ずに歩いていたこともあり、近くの電柱に頭をぶつけてしまっていたのだ。
「だ、大丈夫か?」
「うっさい、大丈夫だし。んん……もう、いいから」
亜香里は現状の空気感に堪え切れず、その場から立ち去って行ったのだ。
「ちょっと待てって」
碧音は、全力で走り去ってく彼女を、追うことになったのだ。
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