第18話 碧音って、いつもこういうの、読んでるんだ…
「遅いー、碧音、どこに行ってたの」
ようやく街中からデパートの五階まで、
少々疲れていることもあり、声が小さくなっていたのだ。
「ごめん、ちょっと、色々あってさ」
「色々? 怪しいんだけど」
「いや、なんだっていいだろ、別に……」
碧音はチラッと、香奈の近くにいる亜香里の方を見やった。
碧音は色々な意味でドキッとした。
そして、碧音は彼女から逃げるように視線を逸らす。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないから」
碧音は香奈に対して、流すように言った。
「でも、どっかに行くなら連絡くらいはしてよね」
「わかった」
「もうー、次から絶対だからね。まあ、今回はいいけど。じゃ、行こッ、もう時間的にも、六時を過ぎた頃だし。早く次のところにね」
香奈は明るく振る舞い、今いるデパートの五階フロアから、二人を連れ出そうとしていた。
今から向かう先は、デパート内にある書店。
それはエスカレーターで一つ上に移動すれば、辿り着ける場所である。
碧音は三人の中で先頭に立ち、エスカレーターに乗って移動していた。
そのあとに続くように、亜香里、香奈がいる。
故に、背後から嫌な視線を感じてばかりだった。
恨まれているのか、どうなのかは真意不明なのだが、睨まれているような気がしてならなかったのだ。
それにしても、あの件は本当なのだろうか?
先ほどの喫茶店内。
そこで、亜香里の姉と出会ってきたのだ。
今後のことを話したりと、色々なやり取りがあった。
亜香里に姉がいたというのも驚きなのだが、父親の上司が彼女だったというのも、さらに驚きだったのだ。
亜香里は本当に、碧音のことが好きなのだろうか?
香奈と同様に、亜香里の姉も、亜香里は碧音に対して好意を抱いていると言っていたのである。
亜香里の友人。そして、亜香里の姉からも言われ、その亜香里の好意的なものは、真実なのだと感じるようになった。
だが、亜香里本人からは、直接、好意的なセリフを聞いていない。
しかしながら、碧音の方から聞くというのは少々気まずいのだ。
そんなに仲がいいわけでもないのに、好きかどうかを聞くとか無理すぎるだろ……。
「ねえ」
「ん?」
刹那、背後から亜香里の声が聞こえる。
比較的強い口調であった。
「な、なに?」
碧音は少し振り返って問う。
「早く先に行ってくれないと、前に進めないんだけど」
「え?」
「え、じゃなくて……」
亜香里は少々怒り気味だった。
よくよく考えてみれば、碧音はエスカレーターの上に到着しているのだ。
少々考え事をして、ボーッとしていたらしい。
「ごめん……」
「いいから、さっさと進んでよ」
亜香里から強く言われた。
けど、彼女の表情は、少々躊躇いがちな顔つきである。
発言は強いのに、あまり視線を合わせてくれないのだ。
碧音もうまく彼女に瞳を見れなくなり、気まずげにわかったと返答した。
そして、三人はエスカレーターのところから離れ、書店へと向かうのである。
「では、デートをしてもらうからねッ、二人とも」
書店に入ったところで、香奈はなぜか、またもや仕切り始めた。
「というか、香奈はずっと一緒じゃなくてもいいからな」
「なんで? じゃないと、碧音って、うまくデートできないでしょ?」
と、香奈から耳元で言われた。
「まあ、そうかもしれないけどさ」
「でしょ。というか、まあ、今日だけはいいじゃない。私が色々とアドバイスをしながらやるつもりだから」
「うん……」
碧音は頷いただけだった。
それよりも、亜香里の方は、と思い、彼女の方を見やると――
「それで、碧音は何を買うつもりなの?」
亜香里から、そう問われたのだ。
「いや、別に、とくには……」
「というか、本屋に行くって言ったの、碧音じゃん。何も考えなしなの?」
香奈はまた距離を詰めてきて、軽く囁いてきたのだ。
「そういうのやめてくれ」
「いいじゃん。それで、どういう本が好きな感じ?」
「なんだっていいだろ……でも、一応、好きなのは、ラノベだけど」
「ラノベ?」
「うん、そうだって。知ってる? 香奈は」
「あまり知らないけど。どういうの?」
「それは、あまり知らない方がいいかもな」
碧音は極力、発言を避けることにした。
碧音が好きなラノベは少々、内容的に、香奈には言えないところがあったからだ。
「もしや、言えない系の奴?」
「知りたいか?」
「私は知りたいけど。じゃ、行く? 案内してよ」
「……わかった。じゃあ行くか」
亜香里を含め、碧音と香奈は、書店のラノベコーナーへと向かうことにするのだった。
これじゃあ、碧音と香奈のデートみたいじゃない。
亜香里は、二人の後を追うように店内を歩いている。
数日前に、香奈から、碧音とデートのセッティングをするからと言われた。
けど、今の状況を見ていると、碧音と香奈のデートになっているのだ。
なんか、つまんないし……。
思っていたのと大幅に違い、亜香里は不満そうに店内を見渡しながら、二人の後を追い、ラノベコーナーに到着していた。
へえ、こういうの読んでるんだ、碧音って……。
亜香里は、ラノベコーナーを見渡し、近くの棚に並べられていたラノベを手にしていたのだ。
……ッ⁉
なに、これ。
女の子しか、表紙に描かれてないじゃん。
亜香里は元あった場所に、ラノベを戻そうとしたのだが、チラッとだけ中身を見てみたくなったのである。
男性向けのラノベを読むことに抵抗があるのだが、碧音がどういうのに興味を持っているのか、気になってしょうがなかった。
み、見たいけど……。
亜香里は、ラノベを読むようなイメージはない。だから、他人からの視線が気になってしょうがなかったのだ。
だから、亜香里は、碧音と香奈から距離をとったところで、背を向けるように、袋に包まれていないタイプのラノベを見開いた。
……へ、へえ、こういうのなんだ……。
亜香里は初めて見た小説の雰囲気に、色々な意味で圧倒されつつあった。
でも、しょうがないよね。こういうのも見たくなるもんね。碧音も……。
亜香里は気恥ずかしさを感じつつ、本棚に、今手にしているラノベを戻そうとした。
刹那――
「ねッ、亜香里。今、碧音が話したいことあるんだって」
「いや、いいから。そういうのは」
少し離れたところで、碧音と一緒にいる香奈から話しかけられたのである。が、今、亜香里は、イメージにそぐわないラノベを手にしているのだ。
振り返ることに抵抗があり、背を向けたまま会話することにした。
「亜香里? どうしたの? 具合でも悪いの?」
「な、なんでもないの」
「そう?」
「わ、私、ちょっと別のところに行こうかなぁ。ごめんね、あと少ししたら、戻ってくるから」
と、亜香里は背を向けたまま返答し、店内の別のエリアへ駆け足で移動するのだった。
な、なんで、こういうラノベを手にして店内を移動してんのよ。
なんか、恥ずかしいんだけど……。
亜香里の羞恥心は今のところ、収まることはなかったのだ。
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