第15話 この写真って、いつ撮られたものなんだろ…
「香奈の奴、勝手にセッティングしやがって……これじゃあ、先週の土曜日のように、別行動できないじゃんか」
自宅の勉強机前の椅子に座っている
あの時の記憶がフラッシュバックして、どうしてもセッティングを断ることなんてできなかった。
セッティングというのは、今週の金曜日。街中で
木曜日の今から本当に亜香里と普通にデートするのかと、まだ何も起きていないのに、心配事ばかりが脳裏をよぎるのだ。
「……というか、小説書くことに集中できないんだが……」
碧音は亜香里のせいで、集中力を妨害されているところがあった。
今日分の投稿が残っているのに、なかなか、その推敲が進まないのである。
香奈とは口づけをしてしまったこともあり、碧音には拒否権はなかった。
学校にいる時、香奈は真剣な表情を見せ。そして、クラスの皆にバラしちゃうかもと、冗談ぽく碧音の耳元で囁くように忠告してきたのだ。
香奈は威圧的というわけではないが、余計な言動を見せれば何をされるかわからない。
ましてや陰キャみたいな、パッとしない存在の奴が、クラス内でも人気のある陽キャ女子と如何わしいことをしたなんて明かされた日には攻撃の的にされてしまうだろう。
そんなのは嫌だ。
そういうことも相まって、香奈には従っているのだが、それにしても今週の学校生活は本当に苦しかった。
「まさか、香奈が、ああいう奴だったなんてな」
明るい女の子は、内面も明るいと思っていたが、そうじゃなかった。
もはや、友人の亜香里のことになれば、どんな手でも使う、ヤバい女子だということが分かったのだ。
あらかじめ気づけて良かったと思うべきか。何も知らない方がいいというべきだったのか。
でも、多分、あらかじめ気づけて良かったのだろう。
碧音はそう思うことにした。
「でも、亜香里って……本当に俺のことが好きなのか? でも、あいつが俺のことを好きになる要素なんてあったか?」
高校に入学して二か月ちょっとが経った程度で、まだ学園祭も体育祭も大きな学校のイベントもなかったのだ。
そんな環境下で、亜香里が碧音に好意を抱くところなんてありもしないはずだが。
ただただ、謎が残るだけだった。
碧音は再び、パソコンの方へと視線を向ける。
先ほどまでのことは全力で忘れるようにして、本日投稿用の小説に関する推敲に力を入れ始めていたのだ。
「亜香里のことは……」
真剣に紛らわせようとして必死になり、ひたすらパソコンのキーボードを叩き、推敲を進めていた。
「これで、大体終わりかな……」
真剣にやったお陰で予定より早くに終わった気がする。
亜香里のことを考えないようにと必死になりすぎて、逆に推敲が早くなったのかもしれない。
碧音は小説投稿サイトを開いて、本日用の作品の投稿準備を進めるのだった。
本文を、マウスを使ってコピーして、サイトの方に載せる作業である。
「これで後はルビを振って、ちゃんと表示されるか最終確認をして……」
碧音はプレビューを用いて、投稿後の表示確認をしつつ、大丈夫だと思ったところで投稿用ボタンを押したのだった。
「あ、はああ……やっと、終わったあ。これで、今日の作業は終わり。後は、明日投稿用のプロットの確認と……アズハさんとの打ち合わせか。そういえば、今日まで小説、アズハさんは終わってるのかな?」
碧音はパソコン横に置いてあるスマホを見やる。
アズハからの返答はまだない。
他にやることがあって忙しいのか。今、必死になって書き起こしているところなのかは不明。
でも、結果はどうであれ、本日が約束の日なので、できるだけ早めの返事が欲しい。
碧音はスマホを手にし、一応、アズハにメールを送っておくことにした。
≪今月、コンテストに応募する用の作品についてなんですが。今日確認予定なので、そろそろ、打ち合わせとかでもよろしいでしょうか≫
碧音はそういった一文を送信したのだった。
ひと段落が付いたところで、スマホの画面上に視線を向けると、夜七時四十五分に差し掛かったところだった。
まだ、すぐにはアズハからの返答はないと思い、ゆっくりと過ごそうと思った。
碧音はラノベの棚に向かい、何を読もうか一先ず考える。
「……というか、このラノベ……本当になんで買ったんだろうな。特に思い入れもないのに」
碧音はこの前読んだラノベを手により、表紙や裏面のあらすじのところに目を通す。
そのラノベは、亜香里と似た感じのキャラが登場する作品である。
ただでさえ、亜香里のことが好きじゃないのに、この作品は本当に色々な意味で心に来るものがあった。
「……ん?」
何か手にしているラノベの後ろのページからはみ出ているものがあった。
疑問に感じ、その飛び出たところのページを開く。
「……なんだろ。ラノベの特典のイラストとかか?」
そう思って見やると、ラノベとは全く関係のないものだった。
「これって、写真?」
その写真には、二人の男女の子供が映っていたのだ。
一人は――
「俺か? というか、よくよく見てみたら、俺が小学生の頃じゃんか。なんで? それと俺の隣にいる子は……誰だろ。というか、いつ撮られた写真なんだ?」
写真の裏面などを見てみるが、特にこれと言った情報などは記されていなかった。
「意味不明だな。俺がこのラノベに写真を挟んだってことか。ってことは、それなりに重要なもの?」
いや、わからない。
本当に真意不明だった。
碧音が、その写真に写っている女の子をジーッと眺めていると。
刹那、勉強机に置いてあったスマホのバイブ音が突然鳴り響き、体をビクッとさせてしまった。
「な、なんだよ……め、メールか。驚かすなよ」
急な静かなる空間の破壊に、碧音の心臓の鼓動が早くなりつつあった。
碧音は深呼吸をしたのち、メールを確認する。
送り主は、アズハだった。
≪ちょっとごめんね、さっき仕事が終わって。小説の方は書き終わっているから、あと三分くらいしたら、もう一度、私の方から連絡をするから≫
そんな返答文があったのだ。
小説を書き終わっていないとかではなく、急な仕事によって、なかなかメールをできなかったらしい。
碧音はその写真を再びラノベの後ろのページに挟み、本棚に戻すのだった。
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