第14話 き、君って、そういう人だったのか…⁉
二日間の休日も明け、本日は月曜日。
体が重い。
何かが肩にのしかかっている、そんな気がしてならなかったのだ。
それもそのはず。今週もまた、亜香里とデートすることになったからである。
本当に勘弁してほしい。
はああ、と大きな溜息しか出なかったのだ。
碧音はスマホを片手に教室の自分の席に座り、画面上に表示されているネット小説サイトを眺めていた。
……何とか毎日、更新はできてるけど。後はアズハさん次第なんだよな。
メールでやり取りを取ってはいるが、まだ事後報告は貰っていなかった。今週中の木曜日までには書き上げられると言っていたが、大丈夫なのだろうか?
そもそもが、今日で六月は終わり、明日からは七月なのである。
教室の窓から見てもわかるほどに、太陽の陽ざしが室内に強く入り込んできているのだ。
そこまで暑いわけではないが、体感的に熱さを感じていた。
碧音は再び、スマホに視線を向ける。
なんか、まだランキングが上がらないな。
毎日投稿しているはずなのに、未だに自分の作品がランキング一桁台に入ったことがないのだ。
来月中には……いや、今年中かな。できれば、ランキング入りをさせたいんだけどな。
碧音はスマホ画面をスクロールさせながら、つまらなそうに何となく眺めていた。
刹那、隣の席に彼女が座った。
「……なに?」
「ん? べ、別になんでもないし」
「じゃあ、こっちを見ないで」
「わ、わかってるから。お、お前のことなんて、なんとも思ってないから」
「……」
亜香里は無言でジーッと見つめた後、二時限目の準備を始めているのだった。
嫌な奴だな……。
こんな奴とまたデートとか。
碧音がそう不満げにスマホを見ていると――
「ねッ、碧音と亜香里って意外とっていうか、結構仲がいいでしょ?」
クラスメイトの陽キャ女子――
「「は、そんなことないし」」
「ハモってんじゃん」
席に座っている碧音と亜香里は、チラッと互いに視線を合わせるが、不満げに視線を逸らすのだった。
「そう言ってさ。仲いいくせにー、まあ、なんていうかさ。碧音、ちょっといい?」
「なに? 話?」
「そうだけど。二人っきりで話したくて」
「そうか。わかったよ」
碧音はスマホを制服のポケットにしまい、席から立ち上がる。
「香奈、どこに行くの?」
「気になる感じ?」
「べ、別にそうじゃないけど」
亜香里は顔を背けながら、友人の香奈に返答していた。
「じゃ、行こっか。碧音」
「うん」
碧音は授業合間の休み時間を使って、香奈と共に教室の外へと向かうのだった。
「それで、亜香里には告白できた?」
「してないから」
「してないのー、もうー、亜香里だって絶対に、告白されることを待ち望んでるって」
「いや、そんなわけないって……俺、亜香里と仲良くないし」
「なんで? さっきだって、普通に会話してたじゃない。あんなに楽しそうにさ」
「どこが、だよ」
校舎の四階廊下にいる碧音はぶっきら棒に返答する。
今は周りには誰もおらず、香奈と二人っきりな状況であった。
にしても、なぜそこまでして、亜香里にこだわらせようとするのだろうか?
「俺は絶対に告白しないし」
「でもなぁー、絶対にお似合いだと思うんだけど」
「それは、ない。絶対に」
碧音はきっぱりと言い切ったのだ。
「でもね。もしだよ、亜香里が別の男の人に奪われたら?」
「そんなの勝手にすればいいよ」
「勝手に? 本当に?」
「あ、ああ……というか、あいつのことを好きになる奴がいるのか?」
「なんか、言い方が最悪―」
「しょうがないだろ。俺は、あいつのこと……そんなに好きじゃないし」
碧音は香奈から視線を逸らしてしまう。
「でもね、噂によればね、亜香里のことを好きな人がいるみたいだよ」
「まさか。どういう奴だよ」
「気になる感じ?」
「な、ならないって」
「へえ、素直じゃないなぁ」
「俺は十分に素直だし」
「へえぇ、そうなんだ」
香奈は意味深な顔つきを見せた。
「……」
碧音は俯きがちになりながら口ごもる。
「ん? どうしたの?」
「いや……でも、言った方がいいのかな」
碧音は思いつめたように、再び香奈の方を見た。
「俺さ、この前、亜香里とデートしてたんだ」
「じゃ、好きなんじゃん」
「でも、誤解するなよ。でも、それは、父親から頼まれて付き合ってただけでさ。なんていうか、俺、あいつとは付き合いたくないし、どうすればいいのかなって」
「へえ、そういうこと。意外と、私が知らないところで、すでに付き合ってんじゃん。碧音の嘘つきー」
「……」
別に告白して付き合ってるわけじゃない。
ただ、父親のために仕方なく付き合っているだけだ。
今まで父親は、母親と別れてから一人で仕事とかをして、高校まで育ててくれたのである。
だから、その恩を感じているからこそ、父親の前では、なかなか断ることができなかった。
でも、嫌々亜香里と付き合うくらいなら、何かしらの手段を使って円満な形で別れたいのだ。
しかし、その案が思い浮かばないのである。
どうすべきか悩むところだ。
「意外と付き合ってるってことね。そんなに嫌なら、いっその事、亜香里のことを好きになればいいよ」
「いや、だから――」
碧音が否定的な言葉を口にした直後――
視界が真っ暗になった。
そして、遅れて気づくことになるのだが。
今、碧音はキスをしていた。
亜香里の友人である香奈と口づけをしていたのだ。
「……ね、私とキスしたんだし。私に任せて。亜香里のことを好きにさせてあげるから♡」
「……ど、ど、どういうことだよ」
「だからね、碧音? さっきのキスの事、誰かにバラされたくなかったら、私の指示に従って、ね?」
「……」
碧音は恥ずかしさを感じつつ頷いた。
ど、どうなってんだよ。
碧音は自分でも、自身の心臓の鼓動が早くなっていくのが分かった。
香奈は単なる陽キャなだけじゃない。意外にもビッチであることを知ってしまったのだ。
香奈の脅迫交じりのセリフ。普段は明るい印象なのに、いきなりの豹変ぶりに、碧音は寒気さを感じるようになった。
「私とキスしたんだよ。碧音―、私の意見に従ってくれるよね。私ね、本気なの。友達の亜香里が困ってるなら助けたいの」
「だとしても、き、キスするかよ……」
「だって、友達が好きになる相手なんだもん。試しに、ちょっとだけ味見確認しておかないとね」
「俺を料理扱いするなよ。別に、俺には毒なんて入ってないし」
「ま、いいじゃん。そういう事。私ね、君と亜香里を何が何でも付き合わせたいの。そのつもりでいてね。じゃ、そろそろ授業始まるし、私、先に戻ってるね」
香奈は普段通りの表情に戻ると、柔らかい笑みを見せ、そのまま背を向けて、四階の廊下を駆け足で移動して行ったのだ。
な、なんだよあいつ。
もしや、亜香里よりもヤバい奴なんじゃないか?
碧音は香奈の後ろ姿を見て、そう感じるようになったのだ。
人は見た目だけはわからないものだと、痛感した瞬間だった。
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