第12話 俺、あいつの事、そんなに好きじゃないから…
「まさか、メール相手が、君だったなんて……」
日曜日の午後――
外にいる碧音は、正面に佇んでいる彼女に対し、そう言った。
というか、香奈さんは、なぜ、メールアドレスを知ってるんだろ?
そんな疑問を抱きつつも、碧音は休日なのに、陽キャ女子の
「ごめんね、急に呼び出して」
「いいよ」
「それと、勝手にメールアドレスを使ってごめんね。変な意味で知ってたわけじゃないから。そこは安心して」
「……悪用しないならいいけど、どういう経緯で、俺のメールアドレスを知ったの?」
「それはぁ……ちょっと今は言えないかな……でも、私と君の知り合い的な人だから」
香奈はおどおどした口調でその場を取り繕い、学校にいる時のような、陽キャらしい面影はあまりなかったのだ。
意外と緊張してる?
碧音は彼女の様子を伺う。
「ねえ、ちょっとさ。あっちの方にベンチがあるし、そこで会話しない?」
「結構重要な話?」
「うん……それと、ちょっと話が長くなるかも」
香奈は少々気まずそうな顔を浮かべ、チラッと碧音の方を見やるだけで、それ以上話さなくなったのだ。
そして、無言のまま、二人は公園のベンチへと向かうのだった。
今いる公園は静かである。
公園には小学生ぐらいの子や、運動目的で訪れている人がいるものの。二人は人がいる場所から結構離れたベンチに座っていた。
……陽キャな女の子と、二人っきり⁉
しかも、学校外で一緒に会話することになるなんて……。
もしや、香奈って……。
碧音は色々な方面で妄想を膨らましてしまう。
小説を書いている時のように、多方面に思考し始め、脳内がモヤモヤとしだしてくるのだ。
ま、まさか……そんなことないよな。
香奈は友達も多く、人間関係には苦労していないような雰囲気がある。
そんな子が、告白……なのか……。
碧音は右隣に座っている彼女をチラッと見、様子を伺った。
そのたびに、香奈と一瞬、視線が重なる時があったのだ。
ヤバいって……なんか、香奈さん、頬を紅葉させてるんだが……⁉
ということは、そういう、事なのか……。
碧音は少々考え込む。
香奈とはそこまで関わりがなく、この頃、会話するようになった程度。
そんな彼女が、陰キャみたいな奴に好意を抱くなんてことがあるのか?
でも、この頃、ラノベのように、ありえないことばかりが起き始めているのだ。
もしかしたらということもある。
「……」
碧音は、唾を呑んだ。
緊張感が増してきている。
お、落ち着け、い、一旦、落ち着けばいい。
ただそれだけの事なのだが、やはり、女の子から恋愛対象として見られていると思うと、余計に心臓の鼓動が高まってくるのだ。
「あ、あのね……碧音君……」
右隣にいる彼女から、ようやく思い切ったセリフが零れた。
女の子っぽい口調と仕草。
香奈は十二分に女の子らしいのだが、頬を赤く染めている彼女を見やると、どうしても些細な言動でも気になってしまうものだ。
「碧音君、亜香里から何か言われていない、かな?」
「ん……? な、なにが?」
思い込んでいた事とは少し異なり、碧音は素っ頓狂な声を出す。
碧音は違和感を覚えつつ、ゆっくりと彼女の方へと本格的に視線を向けた。
「私ね、亜香里から相談を受けていたの。こういう事、言っちゃいけないと思うんだけど。なんか、亜香里のことだし、ここで話した方がいいよね」
香奈は自己完結した口調になると、碧音の方をまじまじと見。
「この前、メールで亜香里からね。碧音君に告白したいんだけどって、相談を受けていたの」
「……⁉」
え?
ど、どういうこと⁉
――というのが、今の碧音の率直な感想だった。
告白……⁉
亜香里が、そんなバカな。
碧音は動揺し、視線をキョロキョロとさせていた。
同時に、香奈からの告白ではないことが分かり。ゆっくりと、体の緊張がほぐれていく。
さすがに陽キャ女子から告白されるわけないよな。
と、悲しくなりながらも納得したのである。
「で、でも、告白とは?」
「やっぱり、聞いてないんだよね」
「うん……」
「じゃあ、亜香里。一人じゃ無理だったかなぁ」
香奈は少々呆れ口調になっていた。
すべてを吐き出すように話し始めたことで、香奈の表情が少しだけ明るくなっていく。
悩みから解放されたような、そんな顔つきである。
「けど、どういう事? 亜香里が俺のことを?」
「そうそう。っていうかさ。この前、言ったじゃん。亜香里は君に好意を抱いてるって」
「そ、そうだね……でも、あれは憶測なんじゃ?」
「そうだけど。大体、私の発言はあってたでしょ?」
「……うん、でも、いや……信じられないよ」
いつも暴言ばかり吐いている彼女が、碧音に対して恋愛意識を持っているなんて。
むしろ、そういうことを、どうやって信じればいいのだろうか?
昨日だって。今日だって、口喧嘩をしたくらいなのだ。
相性だって最悪。
「でも、本当だって。亜香里が言わないなら、碧音の方から告白しちゃいなよ」
「は? い、嫌だ」
「即答って感じ?」
「……でも、告白したとしてもさ。亜香里って、そんなの嘘だとか言って、バカにしてきそうなんだよな」
「でも、どっちかが告白しないと何も始まらないよ?」
「でも、俺……亜香里と、そんなに親しい関係じゃないし。そもそも、あいつと出会ったの。高校に入学してから、まだ、二か月くらいだし」
碧音と亜香里の間には、そもそも思い出なんてない。
信頼関係を築くような経験すらもしていないのだ。
そんな状況下で、彼女が好意を抱くなんて、ありえるわけがないだろ。
碧音は心の中で盛大にツッコみを入れた。
「じゃあ、私が二人をセッティングしちゃう?」
「……」
碧音は少々悩む。
急に言われても、対応に困るというもの。
むしろ、今までの関係性でいい。
碧音は今、自分の中で、そう結論づけたのだ。
ある程度の距離感があり、親しくならない方がいい。
碧音の、その考え方は変わらなかった。
「やっぱ、いいよ。俺はいい。そういうの」
「でも、亜香里の思いは?」
「それは……ちょっと考えておくよ。なんかあったら、俺の方から、その、言うから」
碧音はベンチから立ち上がると、簡単に挨拶をして、公園から立ち去ることにした。
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