第4話 ちょっと相談なんだけど、直接会わない?
小説を書いて、投稿サイトにアップすること。
それが日常である。
しかし、昨日は、数行しか書くことができなかったのだ。
いつものように、原稿用紙十枚すらも書き終えていない。
その原因は間違いなく、
本当にどうにかしてほしい。
父親も勝手に、外部の人を住まわせないでくれと思う。が、決まったことであり、どうにもならないのが現実である。
父親が仕事を辞めるとなったら、それはそれでキツい。
家にお金が無くなったら、普段通りに小説だけを書いていられなくなるからだ。
どうしても、今後も小説を書きたいという思いがあり、今の平穏をこれ以上、乱したくなかったのである。
「それにしても、亜香里って、どういう生活してたんだ? 今日の朝はコンビニで朝食を買っていたようだし。お金持ちってことか? いや、でも、お金持ちだったら、わざわざ、居候みたいなことなんてしないだろうし」
碧音はスマホを片手に、少々悩みこんでしまう。
いくら考えたところで結論に至るわけもなく、碧音は再びスマホ画面に視線を向け、小説のネタを考えるのだった。
「というか、今回の話は……んん、こんな感じでいいかな? 多分、プロット通りだし、問題はないと思うけど……」
校舎の四階の廊下。
二時限目の授業の終わりから、三時限目の始まりの間にあるちょっとした休み時間中。
そこの壁に背をつけながら立ち、考え込む碧音。
辺りには知っている人すらいない。
ゆえに、気兼ねなく、小説のことだけを考えて過ごすことができる空間なのである。
碧音のスマホの中には、小説のネタやプロット。小説投稿サイトのデータなどが入っている。
決して他人には見られてはいけない情報であり、基本的に誰もいない場所で、小説のことについて考えることが多いのだ。
本来であれば、自室に引きこもって考えているのだが、亜香里と生活を共有することになって、冷静に思考することができなかった。
だから、今日は学校にて、次投稿する話の内容を調整しているわけだが。なかなか、よい案も書き方が浮かばないものである。
刹那、スマホから着信音が響く。
メールフォルダを確認してみると、あの人からのメッセージが入ってあった。
その宛て主とは、一緒に小説を書いている人物からである。
その人物とは大体二年くらいの付き合いになるだろう。
中学二年生の夏休みの時にネット小説投稿サイトで作品をアップしている者だけで集まるというネットイベントがあった。
そこで、その人物と一緒に小説を書いて、方向性が似ていたこともあり、イベント以降も一緒に活動するようになったのだ。
その人物は学生と言っていたので、多分、同い年か年上かになるだろう。
実際に出会ったことなどはなく顔も知らないのだ。
男性か女性かもわからない。
ほとんどメールだけなので、声すらも聴いたことがないのである。
世間的に言えば、怖いとかそう思われるかもしれない。
碧音も最初のうちは抵抗があったものの、長年一緒にメールでやり取りをする過程で、そこまで気にならなくなった。
慣れというのは時には大切なのだ。
そして、過去を振り返りつつも、碧音はその人物からのメール内容を確認するのだった。
≪昨日、メールがなかったんだけど。どうしたの? 何か問題でもあった? もしかして体調が悪いとか?≫
その人物からは心配のメール内容であることが伺えた。
ほぼ毎日、メールのやり取りをしていることもあり、一日でも遅れると心配されるのだ。
碧音は大丈夫と、一文だけ入力し、送信したのだった。
≪それとね、君に相談したいことがあって。来月の上旬らへんに、小説のコンテストがあるんだけど。どうする? それ用に新しく制作する? それとも、今書いている作品をエントリーさせる?≫
その人物からのメールが再び送られてきたのだ。
実際のところ、新しい作品を書きたいという思いはあった。が、やはり、亜香里の存在もあり、なかなか、新しい作業に取り掛かることはできそうもなかったのだ。
亜香里がいなければ、何とかなったんだけどな……
人生というものはそう簡単にはいかないものである。
≪今書いてる小説にしない?≫
≪いいけど、本当にそれでいい?≫
≪この頃、少し時間的に問題があって≫
≪……もしかして、リアルの方が忙しくなってきてる?≫
≪そうなんだよね≫
≪そうなんだ≫
その人物からは、碧音のことを気に掛ける感じの内容が追加で送られてきたのだ。
≪でも、今後のことを真剣に決めたいし。今回の作品には力を入れているから。一回でもいいから直接会って、プロットの構成とかを考えたいんだけど。どうかな?≫
≪直接会うの?≫
≪そうだよ。その方が簡単に済むでしょ?≫
≪そうかもしれないけど。どこに住んでいるかもわからないし≫
≪大丈夫だよ≫
≪なんで?≫
≪君は、
≪デパート?≫
あの場所かと思う。
それは
けど、そのデパートは全国に展開されていることもあって、別の県にあるデパートかもしれない。
けど、錫村駅という場所。
そこまで駅を利用しないのだが、以前、どこかで、その駅名を見たことがあった。
≪君って、今年、高校生になったんだよね≫
……なんで、それを知ってるんだ?
碧音はドキッとした。
今までそういう話を、小説仲間としたことがなかったからだ。
いきなり核心を突いたメッセージが送られてきて怖くなってきた。
≪というか、明日土曜日でしょ。そのデパート前に来てよ。でも、休みの日だし、人が多いかもなぁ。じゃあ、わからなくなるのも面倒し、デパート前に猫の銅像がある公園があるでしょ。そこにおいでよ。じゃ、明日ね≫
それ以降、その人物からの返答はなかった。
スマホを持っている碧音の手は微妙に震えていたのだ。
なんで、すべてを知っているのだろうか?
今までそんな話なんてしたことはなく、碧音の脳内では色々な憶測が飛び交う。
碧音は気分を切り替えることにした。
軽く溜息を吐く。
まだ、午前中の授業は残っているのだ。
碧音はスマホを制服のポケットにしまい、急いで四階を後に、教室のある二階へと軽く走って向かうのだった。
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