3 君はなんて美しいんだ。
「笹野 廣樹さんよね?」
急に名前を呼ばれて視線を向けると自分と同じくらいの背の女の子が立っていた。
「そうだけど、、」
戸惑いながら返事をすると女の子は深呼吸をしてから真剣な眼差しを僕に向けた。
「私と友達になってほしい。あなただけが私の理解者になってくれる。」
女の子の声は低く響く。よく見ると喉元に出っ張りがある。
「んー。その前に君の名前が知りたいな。」
安城 徹は今日も隣で笑っている。袖がレースになっているブラウスにロング丈のスカートを合わせてリボンの靴紐がついたスニーカーを履いている徹はとても綺麗だった。それでも肩幅はがっしりとしていて、男であることを完全に隠せていないのが彼自身を体現しているように見える。3日前に安城に話しかけられてから僕たちは一緒に行動するようになった。安城は中学の時に自分の心と身体の性別が食い違っていることに気づいたらしい。
「笹野もそうなのかと思っていたよ。」
安城は少し残念そうに笑った。
「まぁでも、理解してくれる人でよかったよ。」
安城はそう言って安心したように笑った。
安城と仲良くなってから僕はすぐに自分のバイト先を紹介した。安城の好みに会う服をたくさん紹介できると思ったからだ。安城は店の中を行ったり来たりしながら、時折、足を止めては並んだ服を手に取って幸せそうな顔をして見せた。そんな様子を見て僕は紹介した甲斐があったなと一息ついた。
「試着したいものがあったら遠慮無く言ってね~。」
店長も楽しそうな安城を見て嬉しそうにしていた。むしろ、店長の方がより目をキラキラさせながら服を紹介しているくらいで必死に応えようとしている安城がなぜか面白くて自然と笑みがこぼれた。
「今日はありがとうございました。」
約1時間半、十分に堪能した安城はそう言いながら店を去って行った。僕もまた、店長の気遣いで早めに仕事を切り上げさせてもらった。安城と僕は帰り道もロリータ服の談義で盛り上がり、オススメのネット通販サイトやブランドを紹介し合った。
「今日はありがとう。最高に楽しかったよ。」
安城は僕の目をしっかりと見てそう言った。
「こちらこそ。自分の趣味を理解してくれる人がいて嬉しいよ。」
僕もまた安城の目をしっかりと見てそう答えた。夕日の方向に帰って行く姿が映画のワンシーンみたいでロマンチックだった。
「安城、君はなんて美しいんだ。」
自然と口から零れた言葉だった。
女装男子の幸福理論 青崎 悠詩 @lily_drop
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